ホンモノ

ジグ

本物

ある朝、男は目を覚ました。

「あれ?ここはどこだ?」

そこは男にとって全く見覚えのない場所だった。

(昨日は、確か学校に行ってたはずなんだけどな・・・)

しかし、男はすぐにその違和感の正体に気づいた。

(あれ?なんで俺は制服を着ているんだ?俺は昨日卒業したはずなのに・・・)

この部屋も全く知らない場所だった。

「あら!目を覚ましたのね!よかったわ~」

(誰だこの女?なんで…俺の家にいるんだ?)

しかし、男はその質問を口には出さなかった。

なぜなら女の顔がとても悲しそうに見えたからだ。

「えーっと・・・どちら様ですか?」

男の口から出たのはそんな言葉だった。

(あれ?このセリフなんかデジャブだぞ)

「覚えてないの?」

女は泣きながら男に問いかけた。

(俺ってこの女のこと知らないはずだよな?)

(なんなんだよ!この感じ・・・)

「はい・・・」

男は少し戸惑いながら答えた。

(あれ?この女にどこかで会ったことがある気がする・・・)

男は女の顔をじっくりと見つめた。

(でも、思い出せない・・・)

「そっかぁ・・・」

女はどこか残念そうに言った。

(本当にこの声も聞き覚えがあるぞ)

男は多少のデジャブを感じながらも、もう一度その質問を口にした。

「すいません。どちら様ですか?」

今度はしっかりと自分の疑問をぶつけたつもりだったのだが、女はさっきよりも悲しそうに答えた。

「そっかぁ・・・私のこと知らないんだ・・・」

「やっぱり俺のこと知ってるんですか?」

(なんで悲しい顔をするんだよ?俺なんにもしてないのに)

男は戸惑いながらも聞いた。

「えぇ、私の事覚えてないのね・・・」

「はい・・・すいません」

(この顔も…見覚えが…)

女は一瞬悩んだような顔をしたがすぐに笑顔で言った。

「いいの!」

そんな女を見て男も笑顔になった。

(あれ?やっぱりどこかで会ったことあるのか?)

「じゃあ、私はこれで」

(女はそう言うと部屋から出て行った。)

「あっ!ちょっと待ってください!あなたの名前は?」

(その瞬間、男はなにか思い出しそうになった。)

「ふふっ・・・それは秘密♪」

女も笑いながら言った。

「あっ!!」

(男はまた何かを思い出した。)

「ん?どうしたの?」

(女も不思議そうに言った。)

「あの・・・俺たちって…どこかで会ったことあります?」

女は少し驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔で答えた。

「うん♪あるよ♪」

(その瞬間、女の笑顔で男は全てを思い出した。)


「それで記憶が戻った彼を殺害したと?」

取り調べを受ける女は悪びれる様子もなくこう語った。

「彼と幸せになるつもりでした…だって本当にショックで記憶をなくしていたんですよ?…突然記憶が戻ってしまったんだと、私と彼は愛し合っているのに」

「それで彼と彼の恋人を殺害し…」

女が突然声を荒げる。

「彼の恋人は私よ!!私が恋人なの!!」

そのヒステリックな声に取り調べをしていた刑事は思わず耳を塞いだ。

「それは失礼。だが、現場の遺体には彼が交際していた女性も……」

「私よ!私が彼の本物の恋人よ!!彼の血で何度も自分の体を刺したの!!女がいきなり入ってきたの!彼の恋人だって!」

女は涙を流しながら叫ぶようにそう言った。

『いかれてるな…話になりゃしねぇ』

その後、女は精神鑑定の結果無罪となったが、今はどこにいるかわからないと言う…







アナタノコイビトハホンモノデスカ










ストーカー女に刺され抵抗して僕は致命傷を受け相打ちになっていた。

「愛してるわ!お願い…諦めないで!」

取っ組み合いから離れていた彼女に精一派の笑顔で僕は…

「もう…助かんないや…せめて君の手で…俺を楽にして…ほしい」

「大好きだよ…」

彼女はその言葉を発すると、ナイフを僕に向けてきた。

「じゃあ…ね」

彼女がそう言うと、彼女の手に握られたナイフは僕の胸に突き刺さっていた。

僕が最期に見たのは、満面の笑みと涙を流しながら抱きつく僕が愛した彼女の姿だった……。

「愛してる……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ホンモノ ジグ @kamisaka_san

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る