第62話 結界の魔道具
そんなこんなでもう野営の時間。
森の手前でキャンプをする。
俺は、魔法素材の折り畳みテントを広げる……。
「これ……、凄いわね!」
フランシスがそう声を上げるが、それも無理はない。
フランシスは武門の家の生まれ。
男尊女卑が激しいこの社会においても、魔導師様を遊ばせておく余裕などないのだ。
よってフランシスも、幼い頃から訓練訓練と……。
そんなフランシスは、天幕は上級武官にしか使われないと知っている。
戦の規模の大きさにもよるが、基本的に、今やっている小規模な小競り合いくらいでは、兵士達は雨でも外で寝る。
風邪や伝染病などの病気で死ぬ奴も少なくない……。
なので、兵士一人でも持ち歩ける、丈夫な大型の天幕の存在は、フランシスにとってかなり衝撃的だったようだ。
「これ、良いわね……。売るつもりとかないの?」
「今んとこないかなあ……。金なんざあっても使い道ないし」
「じゃあ何で稼いでるのよ?」
「しゅみです」
あと売名。
「にしても……、寒いわね。もう冬だわ……。クライン領では雪が降っている頃合いかしら」
ふむ?
「フランちゃんの実家は雪が降るのか」
「アンタのところもそうでしょ?私もアンタも、北方貴族なんだから」
ああ、そうだったな。
クライン侯爵家を中心とする北方貴族……。
北側は内陸部で、敵国と隣接している為、最も貴族の数と武力が大きいんだ。
逆に、南は教会のお膝元で、兵力をあまり置いてはいけないことになっている。グレイスは南方の教会領、アークライト家の子だ。
そして、ユキは、西方の臨海部から来ている。
西方は海であるが、殆ど外国に利権を取られている為、要地ではないのだ。海が要地じゃないとか頭おかしいだろ。
因みに東方は外国があって、その更に向こう側は無限に荒野の続く未開拓地。騎馬民族とかいるらしいから、いつかアルテラさんとかチンギスハンさんとか攻めてくるかもね。
「にしても、北から来たのに、どうしてお前はそんなに日に焼けているんだ?」
「母が西方貴族出身なのよ。私、妾腹の子だし」
ああ、なるほど。
「あとは体質かしら……?肌の色って何か気にするものなの?」
おお、フランちゃんが今良いこと言った!
……まあ、この世界は、獣人とかドワーフみたいな、そもそも人間じゃない種族がいるからな。
差別されるのはそいつらで、人間は人間で一まとめってことか。
逆に、そうじゃないと人外種族に数で負けるからなあ。
まあその辺は良いや、気にしない。
「アンタ、寒くないの?平気そうだけど……って、手ェあったか?!何やったの今度は?!」
俺の手を握ったフランちゃんがまた喚き出す。
最初の頃はキス一つでピーピー言ってたのに、今じゃナチュラルに手を握ってくるから可愛いよね。
フランちゃん、子供の頃から親にめちゃくちゃ厳しくされてきたから、ちょっと可愛がってやるだけで面白いくらいに堕ちるんだもん。本当に可愛いわ〜。
「こりゃ、俺が作った魔道具の『懐炉』だよ」
そう言って俺は、スマートフォンほどの大きさの板を取り出す。
「これ何?また、ゲーム機?」
「いや、これは単に、永遠にあったかいだけの板だ」
「へえー、それは便利……え?永遠に?!」
「ああ。滞空魔力と人体の微弱な発散魔力を吸収して、最大効率で熱変換していてな。魔石も何もなしに、ずっと暖かいんだ。因みに、暑い日には冷たくもできるぞ」
「えっ凄い!本当に凄い!」
そう言って、俺に渡された懐炉で悴んだ手を温めるフランシス。
「ああ〜……、あったか〜い……。アンタの発明って、凄過ぎて理解できないんだけど、こういうのは分かりやすく便利で良いわね」
「身体を温めるときは、胸に懐炉を当てると良いぞ」
「そうなの?……あ、ホントね〜」
他の子らにも懐炉を配布。
「じゃあ、そろそろ寝るから準備しろー」
俺はそう言って、寝る準備を始めた。
まず、圧縮された毛布を膨らませて……。
「えっ、それは何なのだ?」
と、ユキ。
「これ?布団」
「い、いや、それは分かる。しかし、今、三倍くらいに膨らんで……」
「ああ、ここのセレクターを押すと、圧縮されて小さくなるんだよ」
「これはまた……、画期的な……」
「あとはヒーターも置いとくわ」
「む、これは、大きな懐炉のようなものか」
「そうね。ほら、テントに入って入って」
と、俺が言うと……。
「あの、私、夜の間見張りをしますね。昼間はあまり歩けなくて、ご迷惑をおかけしましたし」
「わたくしもそうしますわ。足を引っ張ってしまい、申し訳ありませんでした……」
と、グレイスとドリルが言ってきた。
「は?いや、良いよ。『警報器』と『結界』と『モンスター避け』置いといたし」
「「「「……は?」」」」
「は?じゃないが」
エイダを除く四人が、凄い顔をしている。
「けいほうき?って言うのは分からないけど……、今結界って言った?王城にしかないアレ?アーティファクトのアレ?!」
そう喚くのはいつものフランちゃん。
俺はいつも通りの調子でこう返してやる。
「いや、王城のアレではない」
「そ、そうよね!いくらアンタでも王城の秘宝を」
「あんな古い作りのポンコツを作る訳ないだろ。新型で、もっと高性能なやつだよ」
「やっぱりーーーっ!!!!」
項垂れるフランちゃん。
「駄目なのよぉ!一個人があ!一国の秘宝を複製できちゃあ!!!」
「そうなんだ!すごいね!」
「ええ凄いわよアンタは!!!」
うーん、けどまあ、真面目な話……。
「そんな作りは難しくないぞ?魔法応用Bと魔導具作成基礎Bまでやれば、お前らでも作れるはずだ」
「……本気で言ってんの?」
「俺がお前に嘘をついたことがあるか?」
「星の数ほどあるけどそれは良いとして……、そうなのね、結界が……」
フランシスは、顎に手を添えて考え込む。
そんな大した話じゃないんだがな。
術式の複雑さで言えば、どう考えてもゲーム機の方が上だし。
「……ね、ねえ、アンタさ、なんか欲しいものとかない?フランちゃん、何でも用意してあげるわよ〜?」
おっ、露骨な媚入れ。
フランちゃんは戦闘能力や実務能力は普通に高いが、交渉技能とかは一切持たないからな!
その辺が得意なのはグレイスだ、あの子は弁が立つ。
そしてグレイスは、俺が圧倒的な力と悪意で盤面をひっくり返すのが趣味だと知っているので、逆に弁論で交渉を仕掛けてくることはなく、誠実な対応を心がけている。
なので、表面上は、純粋純朴な聖女に見えるってだけだ。
「フランちゃんの貞操が欲しいなあ」
「も、もうあげたじゃないこのバカっ!!!」
「いや、分かんねーぞ?ベッドの上で気持ちよくなり過ぎておもらししちゃったフランちゃんは俺の幻覚かもしれない。もう一度やって確かめなきゃな!」
「わーっ!わーっ!わーっ!何で言っちゃうのそういうこと?!!!」
そんな感じで、イチャイチャしながらテントで寝た……。
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