第58話 野外演習△
学園から呼び出しを食らった。
「俺、またなんかやっちゃいましたァ〜????」
笑顔で嫌味。
皮肉は基本。
他人の神経を逆撫でするより面白いエンターテイメントはこの世にないと断言できる。
呼び出される心当たりは両手足の指で足りないほどだからな。
そりゃあ、笑顔にもなるというもの。
「いや、今回は別件だ」
そうクールに言ってきたのは、算術科のゴート。
既に、俺に心身をボコボコにされて退職した教師は十人を超える。
なので、最早俺に話しかけてくる教師は、ゴートや学園長などの、実力で教師になった人だけなのだ。
コネで教師になっているようなカス野郎は、俺に怯えて出てこなくなったからな。
そいつの得意分野の議論吹っかけて大勝利するのは気が狂うほど気持ちがいい。
仮に言い返されても勉強になるのでアド。
「というと?」
俺は聞き返す。
お説教以外で何があるんだ?
「私はよく知らんが、必修の『戦闘実習』があるらしい。これは、卒業単位とは別に必要なものだそうだ」
なるほどね?
確かに、そんな話もあったな。
一年の一学期に、軍用の戦闘魔法を覚え込ませ、二学期には野外での戦闘実習。三学期にはダンジョンの攻略、と。
「へえ、具体的に何やんの?」
「算術科の私に聞くな。……まあ、野外にて野戦食を食いながら、ゴブリンやウルフなどのモンスターを間引くらしいが」
ああ、なるほど。
野戦の訓練兼、生き物を殺すことに慣れる……みたいな?
要はキャンプだ。
ううん……、最近はシステム弄りで疲れてたし、キャンプをしてゆったりするのもアリだよな……。
よし!行くか!
「♪〜〜〜!♪〜〜〜!」
俺は、山岳救助の漫画が映画化した時の主題歌を歌いながら、アウトドアルックで現れた。
コブチとクロダのやつだ。
邦楽も割と名曲は多い。
「「「「………………」」」」
「わあ!楽しそうですね、エグザス様っ!」
大多数の生徒達の、異常者を見つめる視線。
それと、ニコニコ笑顔のエイダ。
いつもの光景だ。
面白いね。
「ふふふ……、キャンプ△をするアニメはまあまあ面白かったけど、なんかああいうキラキラした感じの世界は気後れしちゃうから、どちらかと言うと山岳救助の漫画の方が好きなのだ……」
「意味は分かりませんけど、エグザス様が楽しそうだと私も嬉しいです!」
「あー、その辺はなあ。記憶からサルベージしたりできないかとか試してみるわ。いや、最近研究している時間逆行魔法の応用で……」
「なんの話ですか?」
「面白い本があってな、それの話だ。いつかお前にも読ませてやりたい」
「楽しみです!」
ありゃ名作だからな……。
この世界に来て、俺の中での命の重さは、ヘリウムどころか素粒子レベルまで軽くなってるが、まあやっぱり命を守る話とかはエンタメ的にアリだよな。
多くの人に共感される価値観である「命の重さ」を前面に出すのは正解だろう。
俺は他人の気持ちや世論や常識が分からない訳じゃなく、ただ単にそう言うのを無視して気持ちよくなりたいだけなのだ。
むしろ、型破りな作品を作るには、型を知っておく必要があるに決まってるだろ?って話。
守破離とよく言うだろう?
……その辺はどうでもいいか。
さあ、とっととキャンプしようキャンプ。
オープニングで美少女数人がジャンプすれば問答無用で萌えアニメになるらしいので、エイダ達にジャンプさせておく。
これで視聴率もバッチリだ!特に放映していないが。
だが、写真は撮っておいてやろう。
アルバムにして残しておいてやる。
……まあ、与えた魔導具タブレットで、女の子達はめちゃくちゃ写真を撮っているが。
中世ナーロッパ人だから低脳である訳ではない。
実際、言っちゃ悪いが中世レベルに近しいような生活をしているアフリカ人でも、タブレットやパソコンは使いこなしているだろう?
つまりそう言うことだ。
まあ、タブレットと言っても、電話とチャットツールと写真にメモ帳くらいしか使えんのだが。
このタブレット端末のアプリ面の充実も、重要度は低いがタスクに入ってくるよなあ。
それに、人工衛星を飛ばしたりもしなきゃならないし……。
全く、身体がいくつあっても足りんよ。
無論、労働基準法の範囲内で働いているが。過重労働はごめんだ。
とにかく、今回は息抜き!キャンプで遊ぶのだ!
森に行く前、準備の段階。
行き先の森は、王家の保有する森で、管理人達によって管理され、モンスターや獣の個体数がある程度は管理されている。
ぶっちゃけ過酷だが、本当のこの世界の森よりは何倍もマシだな。
日本人のように、「狂犬病怖いので狼を皆殺しにしました!」みたいなことができる国はこの世界にない。
地球の後進国が如く、人里からちょびっとでも離れると一瞬で死ねる。
まあそんな寒い国じゃないのが救いか。
無論、季節は冬である為、暖を取る必要などはあるだろうが……、この辺の気候は雪が降るほどでもない。
最悪、外套にでもくるまって抱き合って眠れば、死にはしないはず。
それに……、探査魔法によると、森の各地に隠れた隠密というか、この森の管理人らしき人々がいる。
これなら、万が一にも事故は起きんだろうよ。
班割。
無論俺は、エイダ、フランシス、ユキ、グレイスの四人を班に入れた。
六人一班で十六班を作るらしいが……、あと一人必要だな。
まあ適当にその辺のやつを無理矢理……って、おお?
「あの」
「ドリルさんじゃん」
「エリザベスですっ!」
あーそうだったねはいはい。
そう、姫様だ。
が、俺はこんなつまらん女に斟酌してやるつもりは一切ないので……。
呼び名はドリルで充分。
「エグザス様、わたくしも班に入れてもらえませんか?」
「好きにしろよ」
そして、関心もない。
やりたいことを好きにやりゃいい。
そんなことより準備だ。
エイダ、フランシス、ユキ、グレイスの四人は、俺のペット兼オナホ兼秘密結社幹部であるからして、ゴリゴリに甘やかしてやることとする。
もちろん、締めるところは締めるが、折角若返ったこの身。学生のお遊びみたいな恋愛とか、再びやってみたいなという気持ちは大きい。
まあ既に全員抱いてるんだけど。
女の子にチヤホヤされてイチャイチャするのは、本能的に楽しいからなあ……。抱いてる抱いてないとか関係なしに、美少女を侍らせるのは楽しい。俺も男だからな。
さて。
使うかどうかはさておいて、アウトドア用のキャンプセットを用意する。
俺は今、十二歳で身長168cmほど。
大人並みの身長なので、バイクにも乗れるのだ。
はい、そんな訳で、昨日作った魔導バイクに積荷を大量積載する。
「エグザス様、これはなんですか?」
「バイクだ」
バイク……。
と言っても魔力駆動だが。
ゴムタイヤの二輪を魔法金属製のフレームで支えて、革張りのシート。ここまでは地球のバイクそのものだが……。
車体下部には、大型のエンジンではなく、術式の書き込まれた爪の先ほどの魔石。これが、魔力を推進力に変換するコアだ。
そして、オイルタンクには、魔石をエネルギー源に変換する小型の変換器。ゲーム機ならば、対空魔力や本人の魔力を吸い取って駆動できるのだが、バイクほどの大型の機械を動かすには、魔石などの高魔力含有物を溶かしてエネルギー化しなきゃならない。
即ち、カッチョイイエキゾースト音も、ガソリンの匂いもしない、エコロジーでつまらない乗り物だ。
おまけに、エンジンもオイルタンクも小さいから、車体はスッカスカ。
それを隠すために、大型バイクのように、外殻で覆い隠したのだが……、車体の重量は100kgにも満たない。下手すりゃスーパーカブより軽いぞこれは。
そんな感じで、バイクはいずれ改良するぞと心に決めつつも、持ち物を揃える……。
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