第42話 画期的学問
お次は魔法学なのだが……。
まあ、案の定。
聞く価値がない授業だった。
とりあえず、論破して無理矢理単位を貰うか。
十分だけ教師の話を聞いてやったのだが、本当に無意味で無価値だった。
なので俺は、教師を蹴り飛ばし、チョークを手に取った。
「えー、まず、貴様ら全員アホです。魔法に属性などなく、あるのは単に性質のみ」
火ー振動
水ー形態変化
風ーベクトル操作
土ー物質創造
俺は、以上のことを黒板に書き入れた。
「このような性質があり、理論上は魔力量さえ足りていれば誰でもどんな魔法も使える」
「ちょ、ちょっと待って、何その異端?って言うより、ベクトルって何?!」
フランシスが何か言ってきたので、俺はフランシスを引っ張って壇上に立たせる。
「えー、お前は土の属性の使い手と言うことになっていますが、嘘でーす!」
「う、嘘な訳ないじゃない!私の家は代々……」
「それはお前の魔力回路が、物質創造に最適な形で凝り固まっているだけだ。なので、俺がこうして魔力回路を作り替えてやると」
魔力をフランシスに流す。
「あっひん?!」
フランシスが、大きく痙攣した。
魔力回路の変化は、性的な快楽を伴うようだ。
「はい、じゃあ、『ポップ ウォーター マナアド ワン アウトプット フロント』と唱えろ」
「はえ……?えっと、だから、無理なのよ!」
俺は、刃物を創り出して言った。
「やれ」
と。
「ひっ……!わ、分かったわよ!出来なくても文句言わないでね?!『ポップ ウォーター マナアド ワン アウトプット フロント』!」
水が出た。
「え?」
「「「「え?」」」」
「「「「ええーっ?!!!」」」」
「と、まあ、このように。お前らが今まで信じ込んできた理論は、全て間違いだった訳だ。お笑いだな!」
騒然とするクラス。
「旦那様!」
おや、ユキ。
「拙者も、別の属性を使ってみたい!」
「よし、来い」
魔力回路を作り替えて、別の属性の魔法を使わせる。
「『ポップ ファイア マナアド ワン アウトプット フロント』……わあっ!出来たっ!」
「あ、あのっ、私も良いですか?!」
聖女グレイスか。
「来い」
「『ポップ ソイル マナアド ワン アウトプット フロント』……出来ましたっ!凄いです!」
うむ、こんなもんか。
「あ、あのっ、俺も!」「私もっ!」
他の有象無象もそう言うが……。
「やだね、お前らは俺の部下じゃない」
と断る。
そして、俺は言葉を続けた。
「それとだな、まず、お前らは魔法を使うのがヘタクソだ。こーんな便利な技術を、なんで戦闘にしか使わないんだ?頭悪過ぎだろ」
これに限る。
こんなクソ便利な魔法なるものがあって、これを工業的に利用してないの、頭が悪過ぎ。
「ま、魔法は神聖なものだから……」
などと、馬鹿が一人そう言ったが。
「神聖なものなら人の助けになるような使い方しろやカス」
と言っておく。
「なので今日は、大サービスで、お前らのようなカスでも使える便利な魔法を教えてやろう」
俺が雑に作った魔法。
火ー音届け(サウンドムーブ)
水ー汚れ落とし(クリーン)
風ー倍力(パワーアップ)
土ー塩生成(ジェネレートソルト)
これらを公開した。
音届けは、火属性の振動を操る観点から、音声(空気の振動)を任意の場所に届ける魔法。
汚れ落としは、形状を変化させる水属性の特性から、体表の垢やゴミを気体に変換して汚れを取る魔法。
倍力は、ベクトル操作の風属性から、肉体の動きに倍のベクトルをかける魔法。
塩生成?そのまんま。
さて、聡い奴は、これらの魔法の戦術的な価値を見抜いて、戦慄の表情を見せているが。
大半の無能共は、よく分からんってツラをしていた。
しゃーない、解説を……。
と、思った矢先に。
「愚かな……、これの戦術的な価値が分からんのか?」
と、一人の少年がそう言った。
「そうね……。これ、戦争を変えるわよ」
フランシスも、武門の貴族として気がついたようだ。
少年……。
茶髪で、三白眼をした体格のいい男。
そいつは、ハウル伯爵家の長男、ゼスと名乗ってから、言った。
「まずこの、サウンドムーブだが……、これがあれば伝令が要らんではないか」
まあ、そうね。
一々馬鹿みたいに銅鑼とかラッパとかかき鳴らして指示せんでもよくなるわな。
しかも、言葉を直接送れるので、細やかな指示も可能だ。
まあ無線くらいは作れるのだが……。
「そしてクリーン、これも素晴らしい。戦場で破傷風になり死ぬ奴がどれほど減ることやら……」
そうだな。
この世界、怪我すると破傷風で死ぬからな。
傷口は水で流すことは経験則として知っているようだが、戦場にそんな無駄な水はないんで……。
「パワーアップ、これも素晴らしい。力が倍になれば、子供も大人を捻じ伏せられるのだぞ?」
そうだな。
力が強くて損はしないだろう。
「ジェネレートソルト、これも使えるな。戦場で塩が足りないなど日常茶飯事だ。少しでも足しになるなら、覚えて損はない」
そうだな。
兵站的に、塩が足りないのはヤバいもんな。
この魔法は一度に50gくらいの塩が出るから、軍用の大鍋ひとつ分に入れれば丁度いいくらいか。
そうなると、大体人間は一食2.5gの塩分が必要だから、二十人分の健康を維持できるな。
この世界は、現代の地球のように、戦争で何万人も兵士が動員されることはない……ってかそもそも兵士自体がそんなに多くない。
伯爵レベルの小競り合いなら、動員する兵士は五百人くらいか?
そうなると、二十五回の魔法で、兵士全員の一食分の塩を生み出せる訳だ。
この魔法は初級相当の魔法なので、二十五回くらいはどうにか唱えられるはず。
「この魔法の価値が分からぬようでは、貴族などやめるべきだな」
ゼスはそう言うと共に、俺に礼を言って……。
丁度、終業の鐘が鳴り響いた。
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魔法学基礎
現在、世界で主流となっているM言語による魔法アプリケーション構築の為の基礎となる魔法学。
現代魔法学の祖であるエグザス・ザナドゥが提唱し、その弟子にして助手であるエイダ・ジブリールが編纂した学問。
現代においても、凡ゆる教育機関で触れられる、魔法の基礎中の基礎である概念。
特にその中でも、中世魔法学のエレメンタル作用を基礎性質に整理したことの革新性は、当時も話題を呼んだという。
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