プログラマ転生〜この世界の魔法はプログラムらしい〜

飴と無知@ハードオン

第1話 とあるプログラマの転生

どうしてこうなったのかから、まず説明しなければなるまい。


これは、現在、混乱の極地にある俺が、自分を見失わない為に、自分に言い聞かせる説教だ。




地球での俺は、まあまあ良くやってきた筈だ。


旧華族の金持ち開業医の家系に長男として生まれつつも、親の敷いたレールを蹴ってプログラマになり、大成した。


三十五年の人生はその一言に尽きる。


詳しく言えば、子供の頃はある程度レールに沿って育ったのだが、趣味でやっていたプログラミング遊びが高じて、国内の医大ではなくアメリカの工科大学への進学を志した。


アメリカでの大学生時代に知り合った友人と起業し、『G社』という企業を設立する。


そうして、G社が世界的にメジャーな大企業と化し、これから更なる躍進を……、というところで。


俺は死んだんだよな。


ああ、ああ。


どうやって死んだんだったか?


そう……、あれはアメリカの本社ビルでの話だ。


時節は冬。


年の終わりの寒い日。


霜がついた自動ドアをくぐり抜け、オフィスの一階で、スターパックスのコーヒーを片手に受付に話しかけていたんだ。


その日は、社長に用があったから。


ああ、そう。


そして……。


自動車が、洒落た鏡張りの一階に突っ込んできたんだ。一級建築士が建てた、綺麗なガラスのドアをぶち破りながら。


俺は、その時。


なんだかよくわからないが、危険だと思い、その場に伏せていた。


何があったんだか……、今でもよく分からない。


ただ、車から降りてきた男が、何かを叫んでいた。


お前らのせいで俺の仕事がなくなった、みたいな内容だったと思う。


こいつが、車の中に満載した液体……、あの匂い……、そう、ガソリンだ。


ああ、なるほど。


ばら撒かれたガソリンに火をつけて、大爆発ってことか。


逃げる間もなく、爆死ってことだな。


なるほどな。


ううん……、俺の行動に非があれば、自己批判とやらをしていたところだが。


何にも悪いことはしていないからな。


つまり俺は、キチガイテロリストの自爆テロに巻き込まれて死んだ、と。


全く、不幸な話だ。


あー、それで。


今、何故俺がこんな話をしたか。


実は俺は、今異世界に生まれ変わってしまってだな……。




いや、驚いたさ。


死んで目覚めたら、最初に会ったのがジーザスでも閻魔様でもなく、新しい両親なのだから。


混乱した。


目も開かない……、まあ、赤ん坊だからな。


耳は朧げに聞こえる。


声、声も碌に出ない。


「生まれました!生まれましたよ、リンダ様!」


「ほん、と?なら、なんで、なんで泣かないの?」


「腹に羊水が詰まっているのやも……、少し背中を叩いてやります!」


痛っ……、背中を叩かれた?


いや、背中なのかこれは?


身体の感覚がよく分からん。


「泣かない……?!どうして……?!」


しつこいな、身体に触るな、不愉快だ。


やめろ!触るな!


「ァ、あ、あああーーー!!!」


俺の口から出たのは、赤ん坊の叫び声のようなものだった。


いや、のようなもの、ではない。


赤ん坊の叫び声そのものだ。


「声を出した!声を出しましたよ!健康な子です!」


「ああ、ああ!良かった!良かった!」




まあ、そんな感じだ。


まだ、目が見えないのでなんとも言えないが、聞こえてくる情報から判断して、ここは異世界だと、そう思った訳だな。


意味不明ながらも、とりあえずできることからやろうと決心した俺は、まず周りの音を熱心に聞き、脳内で情報を整理した。


言語は何故か日本語なので、意味が理解できるのは助かるな。


周囲から得られる情報。


環境音、なし。


鳥の声や風の音、ベッドの軋む音くらいは聞こえるが、コンピュータに類するものの駆動音や音楽などは一切聞こえてこない。


人の声。


女性音声A……、これは恐らく母親。


周囲から『リンダ様』と呼ばれている。様付けであるからして、立場は高い……、のだろうか?


しかし、母親にしては声が若過ぎるが……。十五歳くらいの声だぞ?


女性音声B……、メイド?


周囲からは『シャーリー』と呼ばれている。


常日頃から俺に話しかけてくるが、最近は話しかけてこなくなった。謎だ。


女性音声C……、こちらもメイド?


『セラ』と呼ばれているのを耳にしたが、管轄が違うのかなんなのか、殆ど会わない。


男性音声A……、父親?


周囲から『旦那様』と呼ばれている。名称は不明。


二十代くらいだと思う。


男性音声B……、家令?


周囲から『オリバー』と呼ばれている。


出産されてから一月くらい過ぎたとは思うのだが、一度か二度しか声を聞いていない。


だがまあ、中年の声だと思う。


そして最後に俺……。


名前を、『エグザス』と呼ばれている。


女性音声Bには、『お坊ちゃま』と呼ばれていることから、何らかの地位はあるのだろう。


よく分からんな……。




赤ん坊に転生したのを自覚してからというものの、俺は運動に時間を費やした。


実際問題、立てもしないのだから何もできない。


できることといえば、手足を動かしたり、寝返りの練習をしたり、発声練習をしたりくらいのものだ。


何とか、光があるかどうかくらいは見えるようになってきたので、外が明るい昼間は、発声練習を頑張っている。


授乳やおしめ替えもされているんだろうが、いかんせん、あまり物が見えないし、触覚もまだよく分からない。


何がなんだかよく分からないうちに、持ち上げられたり何かをされたりしているとしか分からないのだ。


恐らくは、赤ん坊なので、糞尿も垂れ流しなのだろうが、感覚が分からないからな。




そして、恐らくは生後半年くらい過ぎた頃。


「エグザス……、お母さんが分かる?」


「うい」


「エグザス……、あなたはどうして、泣いたり笑ったりしないの?あなたは、悪魔の子なの……?!」


と、母親に疑われた。


ああ、そうか。


そうだな。


俺が話を聞いた感じでは、ここは中世のような世界だと推理できた。


泣かない不気味な子は悪魔の子か。


でもなあ……、笑える出来事なんかないし……。


赤ん坊生活は暇過ぎてメンタル結構キツいし……。


「……エグザス!お母さんはね、魔法使いなのよ!魔法を見せてあげるから、だから、笑って。お母さんに笑顔を見せてちょうだい……!!!」


……え?


魔法?


そんなんあるんですか?!


その言葉を聞いて、俄然興奮してしてきた俺。


なんだよそれ、そんなの絶対面白いやつじゃん。


あらかじめ言ってくれよそう言うのはさ。


俺の興味を引けたと思ったのだろう、母親は、芝居がかった雰囲気を出して、そして手のひらを前に出して、何事かを唱える。


魔法の呪文、というやつであろう。


そしてその時、母親の胸から、何か輝くオーラのようなものが手のひらに集中するのがくっきり見えた。


生後半年の俺の目には、少しの色とぼんやりとした輪郭くらいしか見えないのに、その輝くオーラはやけにくっきりと見えた。


『ポップ ファイア マナアド ワン アウトプット フロント』


母親の呪文詠唱が終わると、母親の目の前に、ピンポン玉ほどの大きさの火の玉がポッと浮かび上がった。


魔法……!


魔法か!


それに、その詠唱!


聞き覚えがやたらとある!


それは、アセンブラ言語……、なのか?!

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