第6話
「ユメ。クリスマスはどうすんの? 彼氏とはどこまでヤッタ?」
「えーっと」
「いいから教えなさいよ。誰にも言わないから」
「……あのね。健次は彼氏じゃないの」
「はっ、どういうこと?」
「いやらしい目で見て告白してくる男子がイヤだったから」
「で」
「健次にウソの彼氏になってもらったの」
「はあ? あんた、それはどうなのよ」
「えっ」
「矢野君のことを本気で思っている子がいるかもしれないでしょ」
◆
最近、夢乃がよそよそしい。何かあったのかを尋ねると、夢乃から、
「健次……、矢野君さ」
「急にどうしたの、改まって」
「もう恋人のふり、やめよ」
僕は夢乃からそう言われ、戸惑った。
「なんで? 他に好きな人できたの?」
「ちがう」
「じゃあ――」
「迷惑だったよね。健次のこと本気で思っている子に悪いことしちゃった」
「言っていることがよくわからない」
「健次が彼女を作ることを邪魔してた」
僕は自分の気持ちを伝えたかったが怖かった。ここで終わりになってしまいそうな気がしたから。
「僕のことは気にしなくていいから、夢乃はどうしたい?」
夢乃の目から涙が溢れる。そして、
俯いたままどこかへと走っていった。
◆
「矢野君ちょっといい?」
僕は夢乃の友達達に呼ばれたので、そこへ行く。
「ユメ、最近元気ないんだけど何かした?」
どう言えばいいのか戸惑ったが、夢乃が泣いたときのことをありのままに話した。
「そう」
「あぁ」
「ごめんね。あの子悪い子じゃないんだけど」
「知ってる」
「この前、矢野君に偽装彼氏を頼んでいることを聞いて、それはどうなのって言っちゃって……」
「そうか、そういうことがあったのか。わかった」
「矢野君迷惑だったよね」
「振り回されたけど、迷惑ではなかったよ」
「そう言ってもらえると助かる」
「ちょっと夢乃を探してくる」
僕は教室、体育館、学校中を探したが夢乃はいなかった。
(どこにいるんだ)
学校の中を探すことを諦め、思いついたあの場所に行くことにした。
◆
僕は曇天の冬の寒空のもと、夢乃を探しに走っている。彼女のいる場所に心当たりがあったのでそこへ行くと、
(いた)
心当たりのあったドーナツ屋さんの前で夢乃は俯き立ちすんでいた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「健次……」
「探したぞ。どうした、何があったの?」
夢乃の表情は暗い。ここで終わりになってしまうかもしれないが、僕は勇気を振り絞った。
「夢乃。聞いてほしい」
そう言うと夢乃は僕の目を見てくれた。
「好きだ。偽装彼氏じゃなく彼氏になりたい」
泣きそうな表情のまま、夢乃は僕に抱きついてきた。
「あたいも」
彼女の涙が服に染み込む。僕は強く彼女を抱きしめた。
「彼氏ってことでいいんだよね?」
「うん」
ドーナツ屋さんからお客さんが出てきてこちらを見ているが、恥ずかしい気持ちはまったくなかった。むしろ嬉しい気持ちで溢れていた。
「クリスマスどうする?」
「……、一緒にいられれば」
「わかった。どうするか考えておく」
冷たい空気の中、彼女の温もりを感じている。雪がしんしんと降り始めていた。
◆
冬が終わり、季節は春になる。三年生に上がり、僕らはもう進路を決めなければならない。
「健次!」
「うわっ」
夢乃が後ろから飛びついてきた。もちろん柔らかいダイレクトアタックもある。
「健次は進路決めた?」
「ああ」
僕は彼女に進路希望用紙を見せる。
「就職なんだ」
「うん。大学に行くことも考えたんだけど、夢乃と離れたくなくて」
「えー、もったいない」
「夢乃はどうするの?」
「これ!」
彼女からプリントを受け取る。そこには、
――――――――――――――――――――――――――――
3年A組
進路希望1: 絶対に健次のお嫁さん。100%ジュースに負けない。
進路希望2: 健次のフィアンセ
進路希望3: 健次と同棲
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