ユーレイはキライだよ

誰が袖 絵空

第1話

名声だの、芸術は長し、バカバカしい。私は、ユーレイはキライだよ。死んでも、生きてるなんて、そんなユーレイはキライだよ。

 どうやら私の脳ミソは壊れているらしい。死にたくなってその衝動に苦しんだり、何も出来なくてただ一日ベッドの上でボーっとして過ごした。当たり前に出来ていた歯磨きも、シャワーも食事も全然出来なくなった。心療内科に言わせれば、被虐待児のヤングケアラーで鬱病ということになるらしい。けど、なんだかそんな言葉で自分の人生を片付けてしまうのも嫌だった。ただ、間違いなく母親に否定され続けて来た事は事実なので余計むかっ腹がたった。

 その母親から逃げる様に私は幻想の世界の住人として暮らした。専ら本を読んで居た様に思う。今も元気な時は読むけれど。少なくとも幼少期から一日三冊は読んで居た。文学も文芸もライトノベルも何でも読んだ。私は日本語において自信を持っていたし、事実ずば抜けて同年代の中でも成績が良かった。だからだと思う。文字を書こうと思ったのは。

 今の何も出来ない私には、時間という壁が刻一刻と迫っていて、それなのに自分はベッドから起き上がる事すら壁に感じてこのままだと圧死させられるのは確実だ。だから、抜け道を探して、自分が何か特別になればと、社会のレールの外で生きていければと、せめて誰かには認められたいとそう思ったのだ。

 そして、電撃大賞を見つけた。八万字から十二万字。期限も丁度良い。だから私は小説を書き始めた。キャラクターを作り、設定を決め、これは面白い物が書けるぞと思った。そして、執筆に取り掛かり思い知らされた。キャラクターが動かないのだ。心情描写が出来ないのだ。

 私には無かったのだ。このドロドロしたものが詰まっていると思った心という場所はただの伽藍だった。当たり前だ。私自身に軸なんて無いんだから。私の壊れた脳ミソは最早何も出力してくりゃしなかった。勝手に死にたいって感情が湧き出て、抗うつ薬しか縋る物が無くて、その脳ミソを薬でいじくられる感覚に躊躇いも無かった。自我なんてとうに何処かに置いて来た。そのくせ自分は天才だからと思い込んで居た。いや、壊れる前は天才だったと思わせてくれ。せめて。あの頃書いた物は、同級生に褒められた物はもう何処かに無くなってしまったけれど。

 ユーレイが私を嫉妬させる。ウラジミールナブコフみたいに偏愛を書きたかった。谷崎潤一郎みたいに狂愛を書きたかった。今の自分にはそんなものどこにもありやしない。結局の所、私は社会の脱落者でしか今の所無いのだ。未来の自分なんて想像もつかない。ただの凡愚だ。

 この日記だけは公開しようと思う。デジタルタトゥーとして残るだろう。もしかしたらただの黒歴史として私の中に残るだけかも知れない。何にせよ言える事は、ユーレイはキライだよ。

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