8-9

 四蛇の話は、想像していたよりもずっと長くて、口を挟むのが憚られるほど、面白く、興味深かった。彼は、これまでにも同じ説明をしたことがあるのかもしれない。

 彼の旅の経緯と、旅の仲間たちの考えと、それの裏付けが詳細に語られ、話に引き込まれた。

 句朗は、鼓童が無礼な態度をとって四蛇の不信を買わないかが心配だったが、四蛇の説得力のある話を、大人しく聞いていた。


「じゃあ、入が私の魂を見れば、どこの誰だか分かるってこと?」


 魂についての話になったとき、傘音が初めて口を挟んだ。入が申し訳なさそうに首を振る。


「私、まだそれは見られないみたい。もやもやしたものがあるのは分かるんだけど」


「魂を見られるのは、誰だ」

 鼓童が尋ねる。


「俺の知っている人間だと、まずフッタチの庵或留、それから蕪呪族の村にいるセンポクカンポクのどんこ、今マルバの宮にいる仲間でフッタチのワロさん。彼には、あとから君たちに会わせることができるだろう。あとはどんこの血が流れていて、ハカゼの術を使えるノウマだな」


 鼓童と傘音は真剣な顔で何かを考えていたが、言いたいことを我慢するように、腕を組んで身を引いた。


「まあいいさ。解呪してもらったから、あとはこっちのもんだ」


 乞除の呪術の効果のおかげか、四蛇たちの推測に過ぎないとはいえ、蒼羽隊の正体が語られた後でも、今のところ誰も白紙に返らずに済んでいる。

 話の面白さに夢中になって忘れていたが、句朗はいったん胸を撫でおろした。


 長い話の最後に、四蛇はこれまでの話の要点をまとめた。



「事の発端は、不思議な継承をする七人呪師の話だ。

 庵老師こと庵或留、名法師こと名曳、ここにいる乞除と又旅、蒼羽隊の副総督リアに扮する魚冥不が、七人呪師に含まれる。他ははっきりしていない。

 庵或留の娘のスムヨアが蒼羽隊の副総督のヨアで、その妹のヘドリアがノウマだ。

 名曳は庵或留と対立した存在だが、今はおそらく操られ、スムヨア、魚冥不と共に蒼羽隊にいる。


 そして憑き物についてだが、庵或留が器を作り、ワロドンののど骨を使って、他の生き物の魂をくっつけたものだ。

 顔付きと呼ばれる憑き物は、元は人間だった可能性がある。

 憑き物とノウマは、魚冥不によって幻覚を見せられ、人間を攻撃するよう仕向けられている。


 次は蒼羽隊についてだ。元は庵霊院を訪れたハカゼの患者で、おそらく憑き物と同じように作られた存在だ。

 スムヨアによって、自分の正体に気づくと白紙に戻るようあらかじめ呪術がかけられている。


 最後に魂についてだが、千年生きてフッタチになったり、魂に関する呪術を使い続けたりすると、魂が見えるようになる。

 憶測に過ぎない部分もあるが、話をまとめるとそんなところかな」



 句朗は背もたれに身体を倒した。四蛇は話疲れたのか、飲み物を淹れるために立ち上がった。お湯を沸かしながら、付け加える。


「あと、個人的な話だと、君たちが知っている古井は僕の姉の六鹿で、行方不明のままだ。兄の五馬も、行方不明のまま。蒼羽隊の一員ではないかと信じているが、顔付きの憑き物にされている可能性もある」


 やかんを火にかけたまま、四蛇は座りなおした。


「結局、誰が敵で誰が味方なんだ」

 鼓童が言う。


「あえて敵と味方という言い方をするのなら、敵は庵或留、魚冥不、スムヨアの三人か。ノウマと名曳は、呪術が解ければ、味方になる可能性がある。味方は、今ここにいる佐治と茶々を加えた十人、ワロさん、又旅の娘の目有、九頭竜国の潮、潮の部下、最近だとエノキも協力者になった。頼めば協力してくれる可能性があるのは、蕪呪族の村にいるどんことナラ、瓜呪族の村にいるマツとマイ……かな」


「翠羽隊のリオコも、協力してくれるはずだ」


 句朗はそう言って、古井と同室のリオコについて四蛇に説明した。


「蒼羽隊のみんなも、説明すれば味方になってくれるかも」

 傘音が言う。


「説明するのも大変だけどな」

 鼓童が、自分は勘弁だというように言った。


 それぞれに考える時間を与えるように、四蛇は一度その会をお開きにした。

 桂班の五人は、思い思いの場所で、今日聞いた話を反芻した。


 句朗は建物の屋上に出て、荒廃した街を見下ろした。火が出たのか、焼けた跡もある。遠くの方をぐるりと見回したが、これと言ったものは何も見えない。山と原っぱと森だけだ。

 この油隠のどこかに、自分の生まれ育った町や家があるかもしれない。そして、家族が待っているかもしれないのだ。実感の湧かない句朗は、それを想像しようとしてみたが、なんだか気が削がれて止めた。


 入は気持ちの上では回復したようだが、まだ身体の調子が戻らないのか、寝室へ戻っていた。少しずつご飯も食べられるようになったようだ。

 入にも、帰る場所があるかもしれない。そう思うと、句朗は寂しい気持ちになったが、それが子供じみていることを自覚し、少しだけ自己嫌悪した。

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