第39話 象頭の魔人フェルディナント

「ふっふっふ。間に合ってよかった。戦域効果がわずかに残っていたのが功を奏したか。ドン=ギュウよ。よく粘った。」


 割って入られた。あーあ、屠畜場が動物園に早変わりしちゃったじゃない。


「ギルマスはどうしたの?」


 大剣と鍔迫り合い。高熱の桔梗で切り進んでいけない敵の大剣、なかなか頑丈だ。


「彼は強いぞ、だから仲間に任せてきた。」


「あの変態はタイマンに持ち込むんだけどな?」


「このフェルディナント様は弱いからな。みんなに助けてもらっているのだよ。」


「うわあ、馬鹿にできない馬鹿二人目じゃん。馬も鹿もいないくせにさ。つまり、袋叩き戦域ってことね?」


「失礼な小娘だ。そんなことはしない。戦いとはみんなのものだ。であるならばみんな同士でやり合うべきだろう。仲間が少ない方が負けるのは、当たり前のことだ。」


「全面的に同意するけどさ、要は数の力で押しつぶすってことじゃん。」


「繁殖力旺盛なニンゲンがそれを言うか、小娘。だが、強いな。このフェルディナント様の膂力をものともせず、均衡を保つか。柔剣使いと聞いたが、油断ならぬな。」


 まずいな。若干とはいえ、私の体も焦げてる。そのせいで全力が出せない。

 茉莉は今どこだろう?回復してほしいんだが、ああ、遠くで雑兵の牛鬼に絡まれてる。

 でも、動けないのは向こうも同じだ。刃と刃が触れ合うだけで、奴の筋肉の動きは乱せる。

 均衡を崩せる乱入者を待つか。


「でも大変だね?ゾウさんはもともと戦い好きじゃないでしょ?」


「む、分かるか。ああ、お前も同類か。無論、争いなど無い方がいい。が、このフェルディナント様が戦わなければ、大勢の仲間が死ぬことになる。だから戦うのだ。お前もそうであろう。」


「うーん?考えたこともなかったな?」


「とぼけるな?理由もなしに戦うほど馬鹿ではあるまい。聞けばおぬし、異世界人というではないか?であればなぜそちらに加勢する?」


「時間稼ぎ?戦象なら突撃するのが仕事じゃないの?」


「それはおぬしも同じことであろう。両者の力は拮抗している、ゆえに今均衡している?違うかね?」


「はあ、じゃあ刀を鞘に納めてお話ししようよ。」


「どの口が言う。それさえも封じているのがおぬしではないか?それよりもだ。」


 鍔迫り合いで状況が動かないんだから、納刀して談笑か。できる奴は心臓が強い奴だ。私はビビりなんだよね。


「今からでも遅くない。おぬしも我らの仲間にならんか?この世界の人類を守る理由など持ち合わせておらぬのだろう?いかなる経緯でこちらに来たかは知らぬが、魔王様の空間魔法によって来たのだ。魔王様はおぬしにとっても恩人であろう?」


「いや、魔王が呼んだか自明じゃないし、呼ばれて早々ほっぽり出されるし、言うほど恩義は感じないかな?」


「では、なにゆえにニンゲンに味方する?こちらにもニンゲンはいるのだ。アナスタシアがいい例ではないか?魔王様に継ぐ最高位、魔王軍将まで上り詰めているのだ。おぬしならばすぐに成れるだろう。」


「そもそも戦うのに理由なんて要る?吹っ掛けてきたからやり返してるだけなんですけど?」


「お前なら逃げる選択肢もあるはずだが?」


「正気かよ。魔王様とやらは地の果てまで征服する予定なんだろ?知らんけど。なら、早めに押しとどめておくに限るじゃん。国はたくさんあった方がマシでしょ?住民欲しさにマシな社会を作ろうとしてくれるんだから。国というサービス企業が独占された世界は地獄でしょ。」


「なるほど。このフェルディナント様は賢明ではない。おぬしとは見えている景色が違うようだな。だが、これだけは納得できない。なぜそちらに着いたのだ?」


「強いて言えば、一番初めに着いた陣営がこっちだったからかな?」


「そんなことでお前は命を投げ打つというのか!?」


 かなりの怒号だった。びっくりした。一瞬、私はフェルディナントの制御を失った。

 でも奴は動かなかった。動けたはずだ。そんなに重要なのか、この問いが?


「あのねフェルディナントさん。あなたは2つ勘違いしている。」


「なんだと?」


「第一に、初めに着いた陣営の側に立つのはあなたも一緒じゃん。魔物も一緒なんじゃないの?敵対陣営に乗り換えることの方が稀でしょ。」


「ううむ?本当か?いや、いまはいい次は?」


「私は命なんて懸けてないよ。だって、この程度じゃ死なないもんね。」


 来た。茉莉だ。ヘルプ!


「ダメ!茉莉!ドン=ギュウが動いてる!」


 なんで動けるんだ。化け物かよ。


タオ!!」


「グオオオオオオオオおおお!!」


「【夕霧】!」


 刹那、フェルディナントの大剣が振り下ろされる。しかし、ドン=ギュウを止めるぞ!


「ぐあああああああああああああああああああああ!!!」


 赫熱した桔梗はドン=ギュウの鋼鉄の皮膚を切り裂き、腕を切り落とす。が、象頭に髪を少し切られた。屈辱だ。


「うわあ、葵、助かったネ。」


「いいよ。それよりゾウさん、お前だ。髪は女の命ってお母さんに習わなかったの?」


「戦場で生命線を狙うのは当然だと思うが?」


「あれ、一本取られた?」


「葵、30本は取られてるネ!」


「茉莉、髪の毛の話じゃないんだ。」


 しかし魔物の回復力が高いな。さっき消し飛ばした左腕が再生していた。もう一度切り飛ばしたけど。

 魔王軍将だからか?それとも虹の宝珠プリンキパールの効果か?


「ぐあっはっはっは。驚いたか?これがこのフェルディナント様の力【オールフォーワン】だ。仲間の力を結集させ、回復力を高めるのだ。燃え焦げかけていたトレントたちの生命力のすべてを引き換えにドン=ギュウの回復力とする!」

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