第19話 汚名挽回
「はい、マスター。敵のハルバード、短くしておいた」
風の刃で転がっていた斧槍を切り飛ばし、斬撃の反動でそのままギルマスにパス。
「俺の得物がなぜ分かった?」みたいな顔している。筋肉の付き方からして、武装はハルバードタイプ。なるほど筋肉は嘘をつかない。
「ぐぬぬぬぬ。嘘をつかずとも騙すことができるとは、恐れ入ったぞトーマス!」
おい嘘だろ、斧槍二刀流は意味が分からない。どんなパワーしてやがる。
しかも、短刀でも持ってんのかってくらい軽々振り回しやがる。
「そっちが勝手に誤解しただけだろ?」
「ぐぬぬぬぬ、やはり俺は馬鹿だあああ! ぬお⁉」
「隙あり!「ガギン!」はっ?」
え? 切りかかったの首だよ。
「小娘の刃が俺に通ると思うたか、馬鹿め! もらった!」
やっば。皮一枚も切れてない。化け物かよ。
「【
「ぬう、ちょこまかと。」
「俺を忘れてもらったら困るぜ?」
ハンマー部分で顔をぶん殴るギルマス。
ガゴン!という音は肌から出たら駄目じゃない。
「むう、おれは馬鹿だから自信はないが、2対1は卑怯ではないのか?」
「戦いは数でしょ」「数だな」
「そうなのか、ならば卑怯ではないのだな」
念押しするようにそう言うと、牛鬼は続けた。
「汚名挽回!【戦域構築:
しかし、なにもおこらなかった。
「……ハッタリ? 【
ガギン! 奴の肌には傷一つつかない。だからなんで肌からその音が鳴るの?
「……「ザ・」じゃないのか?」
あほギルマス! ヒントになったらどうするんだ?
「そうか、「ザ・」か。ああ、思い出したぞ!」
「あほー、まぬけー、なに思い出させてるんじゃ、利敵か、利敵行為なのか?」
「突っ込まないでいられる嬢ちゃんの方がすげえよ。あんなの絶対突っ込んじゃうだろ」
「【戦域構築:
「「ザ・」でもないんかい‼」
はっ⁉思わず突っ込んじゃった……。
刹那、豪華絢爛な宮殿がめきめき生えてくる。そして外壁で覆われてしまい、ギルドマスターと二人で孤立してしまった。
ただただ暗闇。所々に煌めく燭台の明かりは、戦域のほとんどを照らさない。
「なにこれ?」
「これは【戦域構築】。相手を自分のフィールドに引きずり込む武の極致だ」
「なるほど。だからギルマスは思わず突っ込んじゃったってわけ?」
「いや、それは普通にボケかなと思ったから突っ込まずにはいられなかった。あと、お前も突っ込んでただろ!」
いや、誰だってツッコむだろ、あんなん。
「歓迎するぞ、賑やかな客人どもよ。ここは我らの父祖の神域ぞ。ああ、やはりここはいい。力が満ち満ちてくるぞ」
そういえばさっきの宮殿、ほのかに見覚えがあるんだけど思い出した。世界史の資料集だ!
クレタ島のクノッソス宮殿にちょっと似てた。ということはまさかこいつ?
「アステリオス?」
「知っているのか、小娘? それは我らの父祖の名だ。おまえ、どこでそれを?」
「内緒!」
「秘密主義者か。ならば無理には聞き出すまい。秘密は墓場まで持っていけ! 者ども、かかれ!」
そう言うや否や、さっきまで酒に呑まれていた他の牛鬼どもが突撃してきた。
「やべえぞ嬢ちゃん。へべれけどもを復活させやがった」
「ギルマス。頭が高い!」
「え? 嬢ちゃん! うわ! 何をする」
「絶技【
スパスパと 頸動脈を ぶっち切る ガギンと鳴るは 魔王軍将
「あー詠み終わった。我ながら恥ずかしい出来栄え」
でもしきたりだからね。仕方ないね。
絶技【
家伝の古文書によると「緋川」の名はこの技を使った後賜ったそうだ。そのときに詠まされた短歌がこれらしい。
時を経て 花々の色 移るとも 夕日変わらず 緋く染めるや
うん。私の歌といい勝負だな。血は争えないことを800年かけて証明してくれる。
「仲間を、二度も倒すのか⁉ 許さぬ!」
待て、酔いつぶれただけなのに、一度目とカウントしてるの何なんだ? みんなで一気飲み大会してたのか?
「【
呪文? しかし何も起こらない。
ブラフか?
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
刹那、電撃が走った。予備動作がなかった。予兆がなかった。痺れる。絶対私今変な顔してるじゃん。ぶっ殺す。乙女に恥をかかせやがって。
それに加えて、刀を落としたのは初めてのことだ。この屈辱いかでか晴らさむ。
まだ立てないな。いや、おもったよりやば、意識飛びそ。
「嬢ちゃん。済まねえ俺の判断ミスだ。が、すぐに立て直してくれ! 俺じゃ時間稼ぎが関の山だ。【戦域増築:
暗がりでよく分からないが、地面がせりあがっていくのを感じる。まあ、今は動けない。ギルマス、
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