第17話 平衡感覚。

「ごめん。奴ばかり見てて救援が遅れちゃった。大丈夫?怪我はない?」


 二人に群がるオオカミ擬きどもを切り伏せる。全部やったかな。


「ええ、助かりました。しかし、足を引っ張ってしまってごめんあそばせ。」


「謝らないでくれ、これは俺たちがもっとしっかりしないと駄目な奴だ。」


「ええ、そうですわ。奴に何を吹き込まれたか分かりませんが、今回の動きにあなたの落ち度はなくってよ。あなたは後ろのことなど気にせず、ただ前の敵を切ってくださいな。あなたの剣は攻撃の剣なんですもの。そこを鈍らせるための揺さぶりな気がしますわ。」


 なるほど。次の戦いは既に始まっているということか。

 しかし、対オーガ戦仕様が完全に裏目に出た。これは敵の戦略通りだろう。戦闘中散々馬鹿にしたけど、侮れない敵だ。ほかの部隊は巻き返せただろうか?

 しかし狼煙は依然更新されていない。

 みんなの士気が上がるのに賭けて、黄色の狼煙を上げておこう。任務達成の狼煙だ。


 さて、街、B級冒険者、領主軍、どこへ行くべきか?


「「「街!」」」


 良かった。判断は合致した。


「でも、問題はどうするかよね?ここまでは2日かけて来たし。」


「おいおい、それは潜伏を前提に静かに動いたからだろ?もう事は起きたんだ。大返ししかないよなあ?」


「大返し。あれは嫌ですわ。おぞましい。」


「大返し?」


「投石器の照準を街に合わせて、3人が乗るんだ。」


「なるほど、着地点がまっ平らなら、受身取れそうだね。」


「おいおい冗談言ってる場合か?え、もしかして、葵ならやれる?でも俺やルナが死んじまうし、向こうでも戦闘するからな。そんな博打は打ちたくない。」


「投石器はあくまで加速器ですわ。3人で鉄塊に乗り急上昇してその後鉄塊から翼を展開、うまいこと滑空して着地します。」


「あー、なんとなく分かった。ルナはもしかして、高いところダメ?」


「ええ、ですがやるしかありませんわ。森の中を移動するのは危険ですもの。」


「大丈夫だよ、ルナ。俺がしっかり抱きしめてやるからな?」


「私もがっつり密着してあげるね。」


「あの、二人ともさりげなく胸をもまないで下さる。下心が隠せてませんわよ。」


「?胸って触ると安心するんじゃないのか?」


「それは触ってる方ですわ!」


「あれ、そっか、じゃあ俺のも触らせてやるよ。」


 ほらほらと言ってルナの手を引くリリー。すごく悪い顔をしている。

 あきれ果て恐怖感が引いたのか、ルナは投石機の錬成、調整に入った。

 なぜ、なぜ私には無いのか。





「「いえーーーーーーーーい!」」


 ルナには悪いが、「いやーーーーーーーーーーーーーーー。」という悲鳴はスパイスでしかない。

 ジェットコースターみたいな気持ち。


 いやしかし、森森森。いや、森盛々?見渡す限りの緑である。本当にギルディアは人類の東端の街なんだなと感心した。

 おい、待てギルディアも赤い狼煙炊いてるやん。やはり何かあったようだ。いったい何があった?

 とりま城壁に張り付きたい。


「ルナ、ここ!」

「はい!」

 金属の形を変えて翼を展開。滑空が始まった。


「おろろろろろろろ。」

 安心した気の緩みか。キラキラしたものをここで見るとは思わなかった。ジョン君の尊顔の輝きと比較した奴は処します。背中をさする。

 さておきこんな状況でも、魔術の精度はピカイチだ。左右の羽根の長さを間違えれば、あらぬ方向に流れていく。


「もうすぐ着くからね。そしたら城壁で休もうね。休める状態よね。」


「見えてきた城壁上を抑えてるのは冒険者たちだな。狼煙が上がっている割に、街に混乱は無さそう。」


「リリー、視力良いのね。」


「ま、スナイパーですから。ちなみに視力は魔術で上げられるぞ。」


 クイッと眼鏡を上げるふり。こういう動作も様になってしまうのがイケメン(女性)というやつなのだろう。


「おい、狼煙の正体が分かった。ミノタウロスの一団が東門前に集結してる。でも、なんか野営陣地作ってあるぞ。即席っぽいが。」


「え?迎撃はしてないの?戦闘は?」


「戦闘は発生してないな。すでに街が落ちている?いや、城壁上の冒険者は武装を解いてないから、降伏はしてなさそう。」


「「「え?・・・謎。」」」





 そのころギルドでは

「ちょっとトムさん。なんでトーマスを一人で行かせたの?」


「しょうがないんです、ケイリーヌさん。敵の一体に魔王軍将級がいて、今の戦力では街を守れません。」


「でも、トーマスはお酒が飲めないのよ。ギルドの飲み会のときだって「俺は酒を受け付けねえ体なんだ。」って言って、一滴だって飲まなかった。それを敵の宴会に一人で向かわせるなんて。見殺しにする気なの?」


「待ってください。マスターも覚悟あってのことなんです。現に敵の進軍は目と鼻の先にもかかわらず止まっています。下手に動けば、均衡が破られます。だから、ぐっとこらえて増援を待つんです。それが、サブマスターとしての私の使命です。」

  

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