第47話 カテリーナとの会話
「カテリーナか」
「キティって呼んで!」
冒険者ギルドの酒場にて。
いつものように俺は、バーガークイーンのハンバーガー……今回は期間限定マッシュルームバーガーを食いながら、日課の冒険者観察をしていると、カテリーナがやってきた。
学院(アカデム)の若き天才教授、カテリーナだ。
俺の愛人を名乗る異常者でもある。
「仕事はどうした?」
「サターンの方が大事だもーん!」
アカデムには、どうしても籍を置いてくれって言われてるから置いてるだけだしね!などと、聞く人が聞けば憤慨しそうなことを臆面もなく言い放つカテリーナは、そのまま俺の隣に座ってきた。
そして、流れるような動きでポテトを食われる。
毎回思ってるんだが、そこにあるのは別に食べても良いよってことではなく、お前ら冒険者が勝手に盗み食いするから、俺が食えるように大量に買ってきてタゲを逸らすしかないってだけだからな?
通りがけのアマゾネスの女も、これまた流れるような動きでバーガーを一つ持って行くが、それもスルー。
もうなんか慣れた。
どうせ、バーガーひとつの値段なんて、俺の稼ぐ額からするとカスみたいなもんだしな。
それはそれとして若干イラつくのはまああるが。
「んー、チーキュの食べ物って本当に美味しいよねえ。これで銅貨十枚くらいでしょ?安ーい」
「日本人は食へのこだわりが強いからな」
「聞いてる限りじゃ、すごく良いところっぽいのがね……」
「実際いいところではあるぞ。福祉も充実、みんな金持ち、衣食住にも働き口にも事欠かない。この世界と比べりゃよっぽどマシだ」
「じゃあなんでこの世界に来てるの?」
「平和過ぎて暇だからかな」
会話しながら飯を食う。
バーガーを口に運び、コーラで流し込む。
「ホント、モノ好きだよねえ」
「ダンジョンに潜って、冒険者を観察する。これ以上に面白いことがあるか?実際、この世界でも冒険者の英雄譚は人気だろうに」
「そうだけどさ、普通は自分が英雄になりたがるもんじゃないの?」
「簡単になれるからなあ……。そんなことしても達成感ないし面白くないんだよ。だから俺は、冒険者達の生活とか、ダンジョンの風景とか、そういうのの方に興味があるんだ」
「まあ確かに、この前の勇者様の件とか凄かったもんねえ。神とあそこまで渡り合えるの、マリテッツェン卿のパーティ以外でいるんだーって思ったもん」
ああ……。
まあ確かに、最強の冒険者であるゲオルグ・マリテッツェン卿ならば、闘神の類とでもやり合えるだろうな。
実際にあの人、降臨した邪神を斬り伏せたりしてるし……。
俺の方が強くはあるが、気を抜いたら殺されかねないくらいではあるな。
無論、俺は術師なので、聖騎士のゲオルグのおっさんと比べるのはおかしい話だが。銃と刀どっちが強い?みたいな話になってくる。
それを言ったら、ゲオルグのおっさんはビームが出る聖剣で、俺は大陸弾道核ミサイルに例えられるかね。
……いや、余談だな。
「で?何か用事があるのか?」
「何ー?用がなきゃ会いに来ちゃダメ?」
「そうは言ってないが、会いに来るなら気の利いた話題くらい用意してほしいものだな、と」
「もー!サターンったら、そんなんじゃダメだよー!女の子だよ、私?!」
「エスコートしろ、と?冒険者に?」
「できるでしょ?また、チーキュで接待だのなんだのとか言って、女の子と会ってるんだから!」
なんで知ってるんだろうか?
いや、まあ、それはそうなんだが……。
「男の仕事に口を出すタイプの女は嫌われるぞ」
「え?サターンが私を嫌いになる訳ないじゃん?」
どこから来るんだ、その自信……?
怖……。
いや確かに、大切で有能な、本気編成の時のパーティメンバーの一人であるカテリーナを嫌うことは、よっぽどのことがない限りはあり得ないんだが。正しい見解ではあるが……。
「って言うか!そんなに冒険者のことを観察したいんなら、私のことを見ればよくない?!」
そう言ったカテリーナは席を立ち、俺に見せつけるかのように、くるりと一回転して見せる。
「見てるだろ、今」
「もっと見て!いつも見てー!」
あらかわいい。
「いつもは見てやれんが、こうして顔を合わせるのは楽しみだし、会うと嬉しくなるな」
「ふえ?!えへ、えへへへへ……!サターンは私のこと好きだもんねー?」
「ああ、好きだ。好きだから会話に応じているんだ」
つまらん奴とは会話しないからな、俺は。
「んふふふふ……♡嬉しいな、好きって言ってもらえるの、ホントに幸せ♡」
そう言って俺に頬擦りしてくるカテリーナ。
「だから、面白い話が聞きたいんだよ。俺はこの世界が好きなんだ、この世界の話を聞きたい、体験したい。お前は俺にどんな話をしてくれる?」
結局、これに尽きる。
俺は、冒険者が好きだ。
冒険者の話を聞きたい。
どこへ行き、何をして、どう思い、何が起きたか。
冒険を知りたいんだ。
「んー、じゃあね、アカデムの話をしてあげる……」
カテリーナはそう言って、俺に寄りかかったまま話し始める……。
「学院(アカデム)はね、この国、ウォルト王国にある最大の研究機関にして学校なの。それは知ってるよね?」
「ああ」
「凡人は、『アカデムを卒業すれば、例え貧農の出でも官僚になれるー』だなんて言ってるけど、まあ半分本当かなー」
「そうなのか?」
「ウォルト王国には三千万人くらいの民がいるって、中央の統制局は発表してるよね?で、アカデムでの一年の生徒定員は大体千人足らず。それなのに、志願者は何と毎年、外国からも集まって十万人くらい!倍率は百倍だよ、百倍!」
「凄いな、科挙みたいだ」
「カキョ?……えっとそれでね、アカデムに入れるのも少ないけど、合格して学位を得られるのは、それの更に十分の一くらいなんだ。だから、アカデムの卒業生は、大体どこでも重宝されるよ。官僚にもなれると思う」
「へえ」
「まあ、私からするとそんな難しくは感じないんだけど……、凡人はそうなんだって。それで、アカデムは、魔法や錬金術だけじゃなく、色々な研究をしてるんだけど……、そうだ!じゃあ今日は面白い実験室の話をしてあげるね!」
「うむ」
「じゃあまず、私の実験室の隣にあるブラウン教授の研究室だけどねー、あそこは『大規模儀式魔法による効率的な遠隔情報送信術』について研究してるんだー。面白いんだよ?情報の相互補完効果によって、魔方陣の一部が欠損してもある程度は再生するって理論でさー」
「へえ、インターネットみたいだな。それが成功すると、相当な技術的革新なんじゃないか?」
「そうなんだけど、まだ演算素子の魔力結晶なんかが足りなくて、学会では机上の空論扱いだねー。でも理論としては合ってるし、すごく面白いから、空想小説の題材になったりもしたんだよ!」
「ほう、それは面白いな」
「他にも、『ゴーレムの命令書き込みで人間の思考を再現する試み』を研究してるヘンリー教授の研究室も凄いよー?」
「AIか、できてるのか?」
「んーん、全然!でもナレッジは積み重ねているから、今は『学習するゴーレムの理論』についてやってるみたい。最近は、ゴーレムアイで人の顔を覚えて門の開閉を任せるマジックアイテムなんかを作ってたかなあ?」
「顔認証システムね、やるじゃないか」
「他にもねー……!」
こうして、俺は、冒険者達と会話をする。
冒険者達の冒険を、想いを、人生を聞いて、ゆっくりと過ごすのだ……。
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