第21話 上級冒険者会議
と、そんな訳で。
ダンジョンは見事に閉鎖された。
ヒキガエル伯爵?だったっけ?とにかくそのナントカ伯爵サマの御命令で、冒険者達はダンジョンから放り出されたのだ。
さて、こうなるとかなり拙いぞ。
数万人の冒険者……と言う名の破落戸共が、ウィンザリアに放たれるのだから。
あのヒキガエルが、冒険者のことを「野卑」「鄙者」「蛮人」などと言っていたが、まあ大体九割くらいは合ってるんだよな。
冒険者やってる奴なんて、共同体から追い出された野卑な流民か。
刃こぼれしたショートソードと銅貨の詰まった革袋一つを持ってど田舎から飛び出してきた鄙者か。
真っ当な職に就けない亜人などの蛮人かのどれかなんだよな。
ゲオルグ卿のような「貴族だけど社会貢献がしたくて冒険者になりました!」みたいなド聖人や、アンティオやアザミのような「修行しに来ました!」みたいなガンギマリや……、ましてや俺のような「しゅみです」みたいなマジキチは少数派だ。
とにかく、そんな野蛮人達が一ヶ所に集まっているのは非常に拙い。
日本各地の無職半グレチーマーが渋谷に集合しているようなものだ。いやまあ実際渋谷はそんなもんだが。
だがそれを、この世界では、ダンジョンに潜るという仕事を与えることで黙らせている。
そこから、ダンジョンという仕事場を奪えば、冒険者は真の意味での野蛮な流民の集まりとなるだろう。
冒険者なんて不良ヤクザ半グレチーマーと同等なのだから、渋谷ハロウィンよりも酷いことになる……。
「じゃあローズ、俺はしばらく地球で休暇にするから……」
俺が逃げようとすると……。
がしっ、と。
腕を掴まれた。
「逃しませんよサターンさん……!」
水晶玉のように透き通る碧眼をドブ色に濁らせながら、ローズは俺の腕を両手で掴み、ギルドの大会議室に引き摺り込んだ……。
ギルドの大会議室。
普段は宴会場でもあるのだが、今回のような有事の際は会議室にもなる。
用意されたデスクには、いるわいるわ。錚々たる顔ぶれ。
俺の女であるマジキチ共……、カテリーナ、サマンサ、キュベレイ、アザミ。
アマゾネスの族長、『女王』アンティオ。
最高の腕前と名高い大盗賊の『盗掘王』インディアナ。
東の国で恐れられた暗殺剣士、『死に剣』ハンジロー。
伝説的な大強盗の『嘘つき』ダニーと『いかさま』ラスティのコンビ。
『超人』ネオに、『鷹の目』エレン……。
『鉄拳の』マイクまでいやがる。
『蠍殺しの』ハリーのパーティもだ。
今このギルドにいる、都合の合う上級冒険者パーティを全部集めました、って感じだな。
問題は、その中に何で俺がいるのか?ってことだが。
俺は下級冒険者なのだが〜?
「どうやら俺は場違いな人間のようだ。ここは失礼する」
「オッ、待てぇい。勝手に失礼すんじゃねえよ旦那ァ……。あんたも道連れだ……!」
クソ、ハリーに捕まった。
「そんなこと言われても俺は鉄級だし」
「そういうのは今良いんだよ」
はい。
さて、ギルドマスターの音頭で会議が始まる。
「まず、今回の議題だが……、まあそれは流石に分かるだろう。なので、解決すべき問題点だけを挙げるぞ」
ギルドマスターはそう言って、黒板に文字を書いた。
一つ。
『ダンジョンで稼げなくなった冒険者達の収入源はどうするか?』
二つ。
『ダンジョン産の食品が無くなったことによる飢餓はどうするか?』
三つ。
『ダンジョンで戦えないが故に血の気を発散できない冒険者による治安の乱れはどうするか?』
なるほど、分かりやすい。
一つ目はまあまあ重要な話だな。冒険者ってのは基本的にバカだから、宵越しの銭なんざ持たない。
つまり、今現在貯蓄がない冒険者が多いのだ。
そんな冒険者から働き口であるダンジョンを取り上げた今、冒険者はどうなるのか?という話。
二つ目が一番重要か?食い物がないのは本当にヤバいからな。
ウィンザリアでは、農業や畜産はあまりやっていない。穀物などは他の土地から買い上げるのが基本だ。
あとは可食モンスターを狩って食べる感じ。
これはどうやら、食糧供給を外部委託にすることにより、「お上に逆らう気はありませんよ」と示すみたいなアレがあるらしい。
そして、三つ目。これは副次的な問題だな。
一つ目と二つ目の問題の結果、金も仕事もない冒険者が暴徒化するよと、そういう話だ。
何度も言うが、冒険者はヤクザのようなもの。食えないと分かれば暴れるに決まっている。
相手がモンスターとはいえ、命懸けの冒険と殺し合いで食っていこうなどと言う連中がまともである訳がないよなあ?
確かに、平均レベルの話をすれば、お貴族様の騎士よりもずっと弱いが、それでも一般市民相手になら一方的に勝てるくらいには強いからな、冒険者達も。
そんなちょい強い冒険者達が暴徒になったら、相当ヤバい。
よってこの三つ。
この三つの問題に、ウィンザリアは対処せねばならない……。
「警邏や清掃員として臨時で雇うとかはできないのか?」
ハリーが言った。
「いや、無理だ。それらの仕事は、引退した冒険者のものだからな。もう枠がない」
ギルドマスターが返した。
「店番とかはどうだろう?」
誰かが言った。
「冒険者にそんな学がある訳ないだろ」
ギルドマスターが返した。
「用心棒」
「下手すりゃ、守るべき店で盗みくらいはやるだろうな」
「荷運びでもやらせればいい」
「そんなに運ぶべき荷物はないだろうよ」
「農場で働かせたりはできないのか?」
「ウィンザリアには農家が少ないんだよ。そもそも、その農家から人があぶれて冒険者になっているのに、帰してどうする?」
「「「「じゃあどうしろってんだ!」」」」
「それを聞いてるんだよ!ギルドも色々考えたんだが、やれることがねえんだ!」
ふーん……。
まあ、そうね。
ウィンザリアは、「あえて」国の助けなくばやっていけない作りになっている。
むしろ、「冒険者」という、国家にまつろわぬ武力がある方がおかしいくらいなのだ。
国家は、国民から武力を取り上げる。
その国民が武力によって不利益を被る時、国家の武力……つまりは「軍隊」や「警察」によって、武力を持たぬ国民を守る。
これが、武力面から見た国というものの作りだ。
ウィンザリアは、冒険者という武力を保有する代わりに、生命線たる食糧供給を国に頼る。
そうすることで、独立とか何だとか、そういうやらかしはしませんよ、と。したとしてもすぐ潰せますよ、と示すことで、国との軋轢を避けるようにできている……。
逆に、この問題を完全に解決してしまえば、「ウィンザリアに謀反の気配あり!」とか、馬鹿貴族のおかわりが来かねない。
では、どうするか?
「ギルドマスター!テメェ!」
「この若造が!」
「うるせえぞハゲ!」「引っ込め〜!」
「ぶち殺すぞチビ共!」
「あーもー!やめてくださーい!」
口喧嘩をしている馬鹿共の前で、俺はぱちんと手を叩いた。
「つまり、冒険者共に『やること』と『食い物』をやりゃあ良いんだな?なら、こうしよう……」
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