Not A Hero-異界戦騎

赤沙汰名

第1話 プロローグ1

とある世界に不思議な力を宿した大陸が存在した。魔法を操る異形の怪物【魔獣】や様々な種族の命が芽吹くそこには、人類史上最も栄えたとされるジャバ文明があった。しかし、文明は最低最悪とまで言われた内紛によって崩壊の一途を辿り、戦火から逃れた民衆達は大陸中に散っていった。新天地に辿り着き、ゼロから新たな歩みを進み始めた人類は独自の進化と発展を遂げながら自分達の国を築き上げ、平和を謳歌して行った。しかし、その世界を混沌の渦に叩き落とす独裁者が突如現れる事になる。

 文明において最高位の地位にあり内紛のきっかけともなった男、アイン・ベルデ・ゲーテファウルとその一族は、東に逃れた者達をまとめ上げ建国したリスタリア帝国の圧倒的な力を用い、数多の生まれて間もない国々を淘汰して行った。

 その暴挙を食い止めんがために、西へ逃れた九の国と種族の王達は結束しクジュラ連合王国を建国した。そして、両国を挟むように数百の小国が乱立し戦火は留まる所を知らずに拡大して行った。それと同時期に、戦争は戦騎と呼ばれる存在の登場によって少しづつ形を変える。生身の人間では到底敵わない[獣の鎧]と呼ばれたそれを纏い戦う者を国家が有する兵器として運用され、より戦争は激化の一途を辿って行く。

 そんな中、歴史書にすら記載しきれない程に争い続けて来た両国にたった一度だけ平和を享受する機会がやって来た。現代から十五年前に遡るそれは、帝国が小国との些細な領土問題から行った侵攻が発端で他の小国へと争いが飛び火し、クジュラすらも巻き込んだ世界大戦が勃発したのである。億単位の民衆と兵士が死に経済すらも回らなくった事で栄華を誇る国力は疲弊しきった。戦争よりも自国の回復が最優先であると判断した両国は、奇跡とまで言われた講和にまで及び千年にも及ぶ争いは終結を迎えた……かに思われた。

 停戦から十四年が経ったある日、リスタリアは突如、条約を破棄する形で隣国へ侵攻。それに憤怒したリスタリアが援護する形で参戦した結果、大陸は再び戦地へと逆戻りし今日にまでその争いは続いている。

 そして、現在も両国は激しい戦争を繰り広げていた。両軍が衝突し戦場となった丘に今、二つの雨が降っている。地面を泥濘ませるに充分な程の降雨と、斬り殺された者が流す血の雨がである。敵味方が入り混じり刃を交えて殺し合う乱戦の最中、悲鳴と怒号、そして閃光と砲火が辺り一面を覆い混乱を産み落とす。

 魔法と言う超常現象のそれは人の命を容易く奪い、兵士達を飲み込むと瞬く間に数百の屍を築き上げる。その様はまさに死屍累々と言って差し支えがないだろう。

「はぁはぁ、ヒッ……うっ」

 目の前の悲惨な光景に、青年は呼吸を乱していた。戦闘が始まるまで冗談を言って笑い合った同部隊の仲間の冷たい亡骸。手柄を立てろと鼓舞してくれた上官の焼死体。誰の物かも分からない千切れた四肢。一度、脳裏と瞼の裏に焼き付いたこの光景を彼は生涯忘れられないだろう。うだつの上がらぬ幼少期を過ごし田舎で燻っていて、いつか皆んなを見返してやろうと考えなしに戦場へ出て来た結果が現在である。想像の足りなかった正真正銘の現実を突き付けられた恐怖に足は竦み逃げ出す事すら許してはくれない。

「オ?こんな所にお間抜ケちゃん、ハッけ〜ん」

 地獄のような現実にそぐわない、何処か気の抜けた不愉快な口調の声がその耳を打つ。戦場に居るというのに、鎧すら身に付けていないその男は新たな獲物を見つけたと言わんばかりに、顔には不敵な笑みを湛え興奮気味に言葉を発した。狂気に染まった眼光と返り血がこびりついた相貌は、本能的な忌避感を齎す。

 そんな恐怖に蝕まれる青年に男は嘲り笑うかのように手の内の得物を弄びながら躙り寄る。青年も目の前の敵から逃れようとまともに力の入らない腕を震わせて後ずさろうとするが、まともに移動する事も叶わず瞬く間に距離を詰められて仕舞う。

「ネェねぇ、そんな化け物見るよウな顔すんなヨ?ん?まぁ、お前らかラすれば化け物なのに変わりはねえーか!?ケッヒャヒャヒャ!そら」

 追い詰めて不気味に笑ったかと思えば、いきなり青年の右足を得物で突き刺す。鋒から刃区にかけて奇妙にうねった刀身は、抉るようにその肉を裂いて行く。

「グァァァァァァァ!」

「いいネ!今日いちイい悲鳴頂キました!」

 刺し貫かれた足から、止めどない血が溢れ出る。それに伴い経験した事のない激痛が脳を襲い、抑えきれない悲鳴をあげる。このままでは死ぬ。そんな考えがふと走馬灯のように脳裏を過ぎると栓を失ったように思い出が溢れて来る。故郷に残して来た両親と兄弟達の顔。戦場で活躍して一旗あげると豪語し、自ら戦地へ赴いた事への後悔が湧き上がり気が付けばその目には涙を浮かべていた。

「ナニ?泣いてんの?おっえーキモ。もう、いいや。首もーらい」

 力なく項垂れ自ら差し出すかのように晒すその首に男は、無情にも躊躇いなく剣を振り下ろす。まるで、興味が失せ玩具に飽きた子供のように。

 空回り続ける後悔の念を最後に、青年の首は地面へ落ち……………はしなかった。

 

 

 恐る恐る視線を上げた先に、黒い背中が聳え立っていた。終わりだと思ったその時に、謎の人物が介入した事によって間一髪青年は助かる事が出来た。

 その人物は膝まであるコートのような漆黒の軍服を羽織り、ぬるま湯のような風にその黒髪をたなびかせている。背中には剣と花の紋章を背負っており左手にも小さく同じ物が意匠された籠手を装備している。雨に濡れている所為かはたまた雲の上のような存在に対する畏敬の念からか、青年の目にはやけにその銀色が眩しく輝いて見えた。男の両手には鞘に納められた刀が握られ、青年目掛けて振り下ろされた刃を防いでいる。

「騎花団の……戦騎」

 つい口から飛び出たそれは、自分の言葉でありながら抑えようのない安堵感を己自身に齎した。今、目の前に立つ美しい紋章を背負った男が何者であるかなど、木端の兵士の青年でさえ知っていた。だからこそ、自身の目を疑うしかなかった。

 軍服を羽織った人物は、拮抗する力の押し合いに両手で払い退けるように振るうと男を後方へ退かせる。一息つくように不意に振り返ったその男の顔を見た青年は一瞬身構えた。その顔には御伽話に出て来る怪物を模した仮面が付けられ、異様な雰囲気を醸し出していたからである。黒い短髪に一間(182cm)を軽く越す長身。体付きからして男で間違いないのであろう。だが、そんな奇妙な出立ちであるが、味方であると分かっているだけで気にもならないどころか異常なまでの安堵感をおぼえる事に複雑な感情が生じていた。

 すると、惚けている青年に向けて男は仮面越しにくぐもった声で語りかける。

「”怪我は?,,」

「へ?」

「”怪我は?,,」

「あ、足を…刺されて…」

 青年の返答を受けて一瞬何かを考え込むような素ぶりを見せると、再びその口を開く。

「”すまないが、後方の陣営まで連れて行ってやれない。今からこいつの相手をしなければならないからな。一人で行けるか?,,」

 仮面の男の口から出たのは、意外にも青年の身を心配した言葉であった。問い掛けに対して何とか大丈夫だと答え痛む足を庇いながら立とうとした青年の隙を狙い、敵の男が飛び込みながら剣を振り下ろす。即座に反応した仮面の男が、青年の刺された足とは逆の方を引っ張って強制的に躱させると邪魔だと言わんばかりに後方へ放り投げ激しい攻防へと突入する。投げ飛ばされた青年は重傷を負っているのだから優しく扱ってくれと思いこそしたが、二人の戦いの凄まじさを目の当たりにしては言葉もなく命が助かっただけ贅沢な物だと思い直してその場を後にした。

「相手スルって、もしかして君が?舐めテんの?」

 狙っていた獲物を仕留めきれなかったどころか余計な邪魔が入った事で機嫌を損ねると、今度は仮面の男へ狙いを変えその刃を振るい始める。型もなく無造作に振るわれるが命を奪うに充分なその攻撃を、難なく左手の籠手で弾きいなし続ける。

 激しい攻防の駆け引きの中で、僅かな隙をついて刀を抜き放つと大きく横薙ぎに斬り付ける。それを男は身をよじるような奇妙な動きで刃を避けては反撃に転じる。そんな攻撃がお互いに数十手繰り広げられると、両者は後ろへ飛びずさり一度距離を取る。

「いやらしい戦い方するネェ?殺す事シか考えてナい剣だ」

「”………,,」

 前触れも無く両者は再び距離を詰めると、今度は剣同士をぶつけ合い火花を散らす。あまりにも激しい打ち合いに、戦場に金属が軋むような不協和音が鳴り響く。

「そういや、さっキあのおツブが何か言ってたな?騎花団の……戦騎ってか?てことは、俺とあんたはお仲間って事だ!?」

「”黙れ,,」

「あ?」

 流れを変えるために男は小手先の挑発を試みたが、仮面の男は語気を強めた口調で断じた。

「”ここに来るまでの途中、村が焼かれ女子供の死体が転がっていた。あれはお前達がやったんだろ?どれだけ無為に人を殺せば気が済む?,,」

「戦争だよ?弱いシ邪魔ダから幾らデも殺っちゃっテいイに決まっテッシょ?」

 あまりにも清々しいその主張に、仮面の男は何も言えなくなってしまった。それは絶句した訳でも、呆れ果てた訳でもない。何の違和感も無くその考えをすんなり受け入れてしまった自分がそこに居たからである。戦場と言う弱肉強食を体現した世界に生きる者として染まり切ったその心は、倫理観を無視して無理矢理納得させられてしまったのだ。一瞬人の心を忘れかけた仮面の男だったが、ただ一つ両者の間にある決定な違いに気付けた事によって修羅の道へ落ちる事を回避した。

「”俺は戦えない者は殺さん。絶対に!,,」

「あっソ。んじゃま、クダんなイ話しヲ長々すルのも苦手だからさ手っ取り早くかツ分かリ易く行きマしょうヤ?俺ら戦騎ダけノ戦い方でサぁ!!」

 そう男が声高に叫ぶと、手に持っていた剣から雷火が無数に飛び出しその身を激しく打ちながら包み込んで行く。眩い閃光と激しい落雷に打たれて巻き上がった土煙の中に、複数の物体の影が浮かび上がると一つに集約する。まるで、時を図ったかのように吹き始めた微かな風によって押し流される事で煙が晴れたそこには、蛇を模った重厚な鎧に全身を包んだ戦士が立っていた。

「【自己紹介が遅れたナ。俺は電鋼蛇のサリー。さ、俺は着替えたんだ。あんたも鎧を着たラどうなんだ?】」

「”言われなくても、そのつもりだ,,」

静かに怒りを携えた言葉を返し、泥濘んだ地面に深々と刀を突き立て息を整えるように心の中へその意識を向ける。すると地面が急に失せたような感覚に陥り落ちて落ちて行き、落下し続けた果てに辿り着いたのは精神世界の深淵。彼の心その物である。

果ての見えない闇の世界に足を踏み入れると、何かの唸り声のような重く低い声が聞こえると同時に赤黒い暗雲が鎖のように全身を縛り上げる。容赦なく濁流のように流れ込みジワジワと全身へ広がって行く闇は、心に紛い物の闘争心を植え付けて行く。

「ぐ、うぉぉぉぁぁぁ!!」

 対する現実世界では、自身から溢れ出す闇と暗雲に身を蝕まれ苦しみ始める仮面の男。耐え難い苦しみにもがく一方で、雄叫びを上げたかと思えば仮面の奥で瞳が鈍い銀色の光を放ち首筋に刺青のような紋様が浮かび上がると、一瞬で顔や全身に向けて走り広がって行く。そして次の瞬間、暗雲の中から見た事のない生物が出現し苦しむ仮面の男をまるで抱き締めるかのように包み込む。

「【なんダ?】」

 戸惑いに近い言葉を発したと同時に、妖しい光が瞬いたと思えば目の前の全てがいきなり爆ぜた。降り頻る雨を吹き飛ばし、音さえも置き去りにしたそれは雑音と轟音に塗れた現実に、強制的に静寂と緩慢な世界を作り出す。衝撃が大地と空気を伝い、鎧が軋むような音を上げる異常な状態にサリーと名乗った男は並々ならぬ警戒心を抱く。

「【……、ナニそれ?】」

 衝撃波の中心地に居たのは、竜を模した装甲の薄い鎧を纏った戦士だった。黒い鱗で全身を保護する皮鎧に、金色に縁取られた爪や牙などの装飾具。全身を走る赤い紋様は見る物に強烈な印象を残す。

「【随分薄い鎧だね?もしかして、子供の心獣でも宿してた?ケヒャヒャヒャ!それに……】

「【御託はいい。行くぞ?】」

 言葉を遮るように勢いよく刀を地面から引き抜くと、平正眼の構えを取る。それに合わせてサリーも、地面すれすれまで腰を落とした独特の構えを取ると瞬きの間も無く両者の武器がぶつかり合う。ただ刃を交えているだけであるのに、先程の戦闘とは比べ物にならない衝撃が空気を駆け巡る。雨が弾け地面が隆起し、地形を容易く塗り替えて行くそれはまるで絨毯爆撃のような激戦でお互いの鎧を得物が斬り付けては火花が舞い散る。そんな目にも止まらぬ剣戟の攻防は、意外にもサリーがやや劣勢であった。

 仮面の男が纏う鎧は、その軽装な見た目からは想像がつかない堅牢さを誇っており、多少の斬撃や衝撃ではビクともしない。それに加えてまるで重戦車の用な地力に装甲の薄さゆえの動き易さと速さを活かしたインファイトスタイルを取る為、素での戦闘力では明らかに劣るサリーは不利な立場に立たされていた。

「(ち、チョこまかちょコマカと鬱陶しイ!)【爬行する電針(ミ・ジサーガ)!】」

 苛立ち混りに唱えた文言と共にサリーが剣を振り下ろすと、一対の電撃が剣から迸り大地を駆け抜ける。放たれた電撃は獲物に目掛けて喰らいつこうとする蛇のように蛇行しながら向かって行くがアクロバティックな動きによって軽々躱されると、地中へと消えて行く。仮面の男は地面に着地するのと同時にサリーの下へ走り出し、顔と顔が触れ合う程の至近距離まで間を詰めるとペンを回すように指だけで刀を逆手に持ち変えると、そのまま脇目掛けて下から斬り上げる。

「【おぉぉ!?】」

「(ち、外したか!)」

 その攻撃は鎧の僅かな隙間を狙った鋭い一撃であったが、サリーが一瞬の動揺によって体を大きく揺らした事が逆に助けとなり胸の装甲に防がれてしまう。ある程度のリーチがある武器を持っていれば、近付いて戦う意味など殆どない。鋒三寸良くて急所に当たって仕舞えば人を殺せる世界で体が触れ合う程の距離まで詰めるのかなり危険な行為である。あまつさえ、そんな状況に陥れば得物にもよるがお互いに武器は振れず距離を取るために自然と後方へ下がっしまう。自分の攻撃が届かず相手の攻撃のみが入りかねない危険を承知で、あえて利があると判断して咄嗟に大胆な手段を選択した事にサリーは敵ながら関心を覚えざるをえなかった。

「【なるほど。逆手の利。学ばせテ貰ったヨ】」

「【次は外さん】」

 牽制し睨み合う形となった両者は、示し合わせたかのように身に纏う鎧からオーラを溢れさせる。まるで煙のように天へと昇って行くそのオーラは、空中に留まると幾何学模様の魔法陣を形取り禍々しい空気を産み出しながら空間そのものを振るわせて行く。その凄まじさは、戦場で狂気の淵にある兵士達でさえも首筋に冷たい何かで撫で付けられるような感覚に陥り、争いすらも忘れてその方角に意識を向ける程だ。

 サリーの魔法陣は完成すると黄色い巨大な電撃の光球へと姿を変え、産み落とされるのを待つ胎児のように聳え仮面の男へと狙いを定める。対する仮面の男の魔法陣は、赤黒い波動が滴り落ちるかの如く鎧へ戻って行くと心臓を経由し右足に集中するように流れ込んで行く。

 二人は今日初めて合間見えた強敵を確実に仕留めるために、奇しくも同時に必殺の一撃を放つ。

「【宿痾の雷牙(ジュア・イクシオン)!】」

「【暴星の間引き(マグナギアス)!】

 降り注ぐ光球を迎え撃つように、上段蹴りを繰り出すと纏っていたエネルギーは輪を有した惑星の用な形状に変化し吸い込まれるように光球の中へと消えて行く。光球は一度胎動するかのような動きを見せると、内部から炸裂して爆ぜ豪雨のように激しく地上へ降り注ぐ。爆発の余波によって周囲一帯は焼け野原へと変貌し、死の世界を作り上げて行く。互いの魔法が相殺し合ったとは言え、中心地にいた二人が受けたダメージは流石に限界を超えており、草の根すらも燃え尽きた黒焦げの荒野で鎧を解除されて膝を付いていた。最早立ち上がるのも困難と言える状態でなお殺意と闘志に溢れた目を絶やさない二人は睨み牽制し合いながら、ふらつく体で体を起こす。手に持つ得物を杖に何とか一歩づつ歩きながら、ゆっくりと両者はその間合いを詰めて行く。

 すると、あと一歩も言う距離でサリーの後方から青い狼煙が空へ昇って行くのが目に入り、仮面の男は思わず見上げるような動きを取る。それを訝しみ振り返るサリーは、同じ光景を目の当たりにすると大きく溜め息をつく。それはリスタリア側の退却の合図であった。

「あ〜あ、ツまンね〜の。シカたナい。次会っタら殺シてやるからな?」

 サリーは、不完全燃焼だと言わんばかりに不満を湛えた表情を顔に浮かべると、覚束ない足取りでその場を去ろうするが何かを思い出したように立ち止まると、先程まで殺し合った強敵へ振り向くとこう問いかけた。

「ア、そうソう。一個聞いてイい?」

「………」

「君、名前ハ?俺は名乗っタんだよ?名前がワからなきゃ今度違ウ誰かを間違えテぶっ殺しちャうかも?恨み買イたくないっショ?ケヒャヒャ」

「”レヴェロ,,」

「……なに?」

「”レヴェロ(迷子)だ。覚えておけ、くそ野郎,,」

「へ〜、面白い名前だね。それニそノ仮面……。まぁいいや、首洗って待っテろ」

 晴れやかさの欠片もない両者の別れは、厚い雲の隙間をぬって溢れる陽の光に照らされる。雨がいつの間にか止み、太陽がその顔を覗かせるがレヴェロは広がり始めた青空から顔を背け俯きながら味方の陣営へと足を進める。

 積み重なるおびただしい骸の山に無関心で佇み血に塗れた刃と化した自分にとって、その光はあまりにも眩し過ぎるがゆえであった。やり場のない激情に似た思いが、その口の隙間を縫って思わず形となる。

「”ごめん。まだ助けに行けそうにないや……みんな,,」

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