第14話 瓜二つの存在

 球体の中から聞こえてきた機械音声により状況を把握するりん。しかしながら、あいと名乗る人物とは初対面であり、身に覚えがない様子である。それでも彼女は、諦めずに何度も話を続けた。


「ですが、りんさま!」

「あのね、何度もいうようだけど、僕は君の知ってるりんではないの」


 必死になって想いを伝えようと、食い下がるように手を握るあい。その行動に驚いたりんは、思わず後退りをして距離を取った。


「分かりました。そこまで仰るなら、もう何も言いません。ですが、認証を解除したことについては、どう説明なさるおつもりですか」

「説明って……手を当てたら開いたんだよ。だから偶然じゃないの?」


 りんはポッドが開いた原因について説明するも、あいは納得のいかない様子で首を傾げる。というのも、そんな簡単に認証システムが解除するなど考えられるはずもないからだ。


「あのシステムは個体認証。偶然なんかで開くことはありません」

「そうは言うけどね、相手は機械。いくらDNA認証でも、間違うことだってあるんじゃないの?」


 りんは認証システムについて、機械である以上誤作動を引き起こす可能性があると口にした。けれどもあいは、その返答を聞くと納得した素振りで相槌を打つ。


「確かにりんさまが言う通りかも知れないですね。ですが、外部に組み込まれものはDNA認証でもなければ、電力の情報によって動く機械でもありません」

「機械じゃない? だったら、一体なんなのさ!」


 この球体は、空間の領域を停滞させて延命させるための避難艇。その目的からして、容易く操縦者を危険にさらすなど無きに等しい。従って、生体認証以外に何か別の仕掛けが施してあるとみて間違いないだろう。


「それは、氣の流れを読み込む特別なシステム。それぞれが持つ念の力によって、個体を特定し解除を行うというものです」

「念の力?」


 どうやらあいの話によると、扉の開閉には特殊なナノマシンが組み込まれているとのこと。そしてこのシステムは、数百年もの間眠り続けることが出来るほど高性能なものだという。


「はい。念とは、人が誰しも潜在的に持つ秘められたもの。一つの魂に、一つの能力しか持ち得ていません。ですが、何故かりんさまは、二つの念をお持ちでした」

「二つの念? あのさぁ、さっきから言ってる意味がよく分からないんだけど?」


 あいは特殊な能力について説明するも、当の本人には何がなんだかさっぱり。りんは眉を顰めながら、発せられた言葉を訝しげに思う。


「では、分かり易く説明するとですね、何度生まれ変わろうが念の能力は変化しません」

「変化しない?」


 あいの話を聞いて、ある一つの結論に辿り着くりん。もしかしたら、自分は転生者じゃないだろうか。こう思い浮かべるも、やはりその考えは有り得ないと、認めたくない素振りを見せる。といっても、否定する間など与えてくれない彼女は、淡々とした様子で話を続けた。


「ええ。先ほどからのやり取りからして、私の知っているりんさまは、もうこの世にはいないでしょう」

「でっ、でも……それって、君が勝手に言ってることでしょ」


「ここまでお話ししても、まだ理解してもらえないようですね。では、分かりました。――BOTボット! 白詰 凛しろつめ りんさまの映像を出してください!」


 あいりんの態度に呆れながらも、球体に向かって指示を出す。


《了解しました。白詰 凛シロツメ リン、映像を映しだします》


 その瞬間、球体から機械音声が響き渡り、上空に映像がぼんやりと流れ始めた。なんと、そこに映し出された人物は、りんと瓜二つの姿。容姿はまさに、生き写しと言っても過言ではないほどそっくりである。


 これを見た当の本人は、まるで幽霊でも見たかのように青ざめた表情を浮かべていた…………。

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