第10話 浮遊石

 ペンタスを最高位の文明まで押し上げた原因。それは他でもない、地殻から採掘された鉱物に秘密がある。といっても、このように自然に生成された物質は、どの惑星にも存在した鉱石と思われるかも知れない。


 ところが、この惑星にしか存在することがない固体。それが、クリスタルストーンと呼ばれた鉱石。別名を浮遊石といい、プロペラのような羽根がなくとも推進させることが可能。また見た目は透明度が高く、どちらかといえば石英水晶によく似た物質である。


 ではなぜ、この場所でしか採掘されないかが疑問であろう。それは大気に含まれる微量な粒子が関係していた。従って、こうした鉱石をつくるには澄み渡る気体と長い年月が必要である。要は、これらの蓄積されたものが、やがて浮遊石として変貌を遂げるということだ。


 つまりは、ペンタスのような高純度の澄んだ大気でなければ、このような物質が出来ることはない。ゆえに、大変貴重な鉱石として取引されると共に、惑星の発展にと一翼を担う。しかし、大衝突の影響により、いまでは過去の遺物として忘れ去られようとしていた。


 こうした経緯から、いまでは数少ない高価な鉱石の一つ。街に持ち寄り取引すれば、それなりの報酬が貰えるだろう。そんな事情もあってか、凛は固唾を呑みながらゆっくりと近づいて行く……。



「話でしか聞いたことがないけど、これが過去の遺物? もしそうなら、紅蓮ぐれんにお腹一杯食べさせてあげられるかも知れない。だったら、少し危険かもだけど、調べて見る価値はありそうだね」

 

 残骸は屑であって利用価値のないもの。とはいえ、浮遊石で創られた機械ならば話は別。一度は諦めかけていたりんではあるも、僅かな希望を抱きながら脱出ポッドに掌を当てた。


「まさか、人が乗ってるってことはないよね」


 球体の機械であるまえに、本質は避難用に創られた脱出ポッド。もしものことを考えて、恐る恐る物体の外部に触れて確認してみる。


「どこにも搭乗口がないから、もしかしたらこれが起動させる装置なのかな?」


 繋ぎ目といったものは何処にもなく、あるのは黒く光り輝く識別装置。やはり扉の開口をするための鍵は、この認証システムを使って解除するしかない。といっても、パスワードを打ち込む暗証方式ではなく、どちらかといえば掌紋方式の生体認証に近いかも知れない。


 偶然にも、大きさはちょうどりんの掌サイズ。まるで似せて作られたかのような形状。この不可解な光景ではあるも、何故か懐かしい想いが感じられた。しかし、ここで一つの問題が発生する。


「困ったなあ……暗証方式なら、時間さえかければ解除はできるけど。これだけ精巧に創られたものだと、僕でもちょっと難しいかも」


 機械のことならお任せなりんではあるも、今日は珍しく弱気な発言を口にする。というのも、生体認証には種類があり、どれも本人でなければ解除は難しい。からといって、全てが不可能という訳ではなく、掌紋であれば簡単に無効化することは出来たという。


 ではなぜ、顔を顰めた様子で思い悩んでいるのであろう…………。

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