第8話 夢で旦那様に逢えたのでーー



 翌日、朝からよく晴れていて暖かかったので、予定通り庭園にはテオドール様と二人で行く事にした。テオドール様は終始ニコニコご機嫌で、それがかえって怖いような……


 そして庭園に着くと、庭師のレナルドが朝からせっせと庭仕事に励んでいるのが見えた。



 「おはよう、レナルドさん。朝から精が出るわね」


 「おはようございます、奥様。旦那様も!このようなところに来ていただき恐縮です!」


 「ああ、励んでいるようだね。ここはあまり使われる事がなかったけど……ロザリアが来たからにはとびきり綺麗に仕上げてほしい」



 私の為?それはどういう事だろう…………不思議に思っているとテオドール様が察したのか説明してくれた。



 「……これから社交界に出て友達などが出来たら、ここでお茶をするのもいいんじゃないかな。それに私とも散歩したり、お茶したりしてほしいし……」


 「も、もちろんです!私も一緒に散歩したり、お茶したりしたいです……」



 私はまだそこまでの未来を想像出来ないでいたので、目から鱗だったけど、嬉しい…………そんな先の事まで考えてくれるなんて。テオドール様はいつも私に嬉しいをくれる。



 「かしこまりました。丹精込めて手入れさせていただきます」


 「あ、ありがとう、レナルドさん。よろしくお願い、します……」



 私はなぜか気恥ずかしくて声がうわずってしまう……するとレナルドさんが思いもしない事を言った。



 「ふふっ奥様はお可愛らしいお方ですね」


 「え?」



 突然言われた言葉を理解するのに時間がかかってしまった。ふとテオドール様の方を見ると、顔は笑っているけど、何だか体から圧を感じる……



 「レナルド君、後で執務室にくるように……」


 「?はい、分かりました」



 ………………どうしてレナルドさんを執務室に?



 「ちょっと聞きたい事があるんだ。すぐに終わるから心配いらないよ」


 

 そう言ってテオドール様は私の頭を撫でる……私はすぐ顔に出てしまうのね。声に出さなくても全部伝わっている感じがする。



 「では今日は、奥様がやりたいと言っていた菜園の場所を整えましょう」


 「菜園?」



 あ、そう言えばテオドール様に菜園の話をしていなかった事を思い出し、慌てて説明する。



 「私がやりたいって言ったんです。もともとリンデンバーグで農作業を手伝っていた事があって、こちらでもそれが出来れば嬉しいなと思って……レナルドさんが小さな菜園なら出来そうだと言ってくれたので、やりたいなと思ったのですが……ダメ、ですか?」


 「いや、ダメではないよ…………ただ聞いていなかったからビックリしただけだから」


 「良かったです…………昨夜伝え忘れてしまって、申し訳ありません。テオドール様のお城で勝手に動こうとしてしまって……」



 「ロザリア、私の城ではなく、私と君の城だよ。君は好きに動いていいんだ。ただ私は伝えられていない事が寂しかっただけで、怒っているわけではないからね」



 私の頬に手を添えながら、目線を合わせて優しく微笑んでくれる……テオドール様には嬉しい気持ちをいただいてばかりだわ。


 

 「ありがとうございます。じゃあテオドール様もご一緒に菜園を作りましょう」


 「では、ここに大きめの岩を集めておいたので、この部分を囲って菜園用の畑を作りましょう」



 レナルドさんが指示してくれた通りに岩を少し埋めながら囲い、囲った部分の土を耕し、余分な石や雑草を取り除いて土を綺麗にしていった。かなりの重労働のはずだったのにテオドール様は全然汗もかかずに作業していて、凄いわ。


 日頃から鍛えられている事がよく分かる。私は汗だくで、腕に力が入らなくなってきているのに……自分一人では出来なかっただろうし、共同作業って楽しいな。



 

 「そろそろお茶にしましょう~~!」

 



 エリーナが遠くから声をかけてくれたので、皆手を止めて一休みする事になった。



 「ありがとう、エリーナ。もうクタクタで動けないと思っていたの」


 「そうだと思いました!そろそろかなって。ロザリア様がお好きなスコーンもグリンゴール様が用意してくださいましたよ~」



 「わあ…………美味しそう……」



 私が顔を輝かせていると、テオドール様が笑いをこらえているのが見えてしまった。恥ずかしくて顔に熱が集まってくる……



 「……ロザリアは、スコーンが大好きなんだね……ふっ……今度スコーンの美味しい店に連れて行ってあげよう」


 「ほ、本当ですか?!わぁ…………嬉しいです……」



 ベルンシュタットに来てからお城以外に外出した事がなかったので、一緒にお出かけ出来る事が嬉しかった。決してスコーンの魅力に負けたわけではなくて……でもテオドール様にはスコーンの魅力に飛びついたと思われているわね。


 もの凄く笑っている…………恥ずかしさを紛らわすようにスコーンを勢いよく頬張った。



 「では残りの作業を終わらせてしまいましょう。土も綺麗になりましたし、あとは元肥を撒いて、耕しておけば種を撒けるようになります」


 「そうね、撒いてしまいましょう」



 それほど大きな菜園ではないので、皆でやったらすぐに終わり、その日は解散となった。体はクタクタだけどやり切った気持ちでいっぱい……それにテオドール様と一緒に作業出来た事が嬉しかった。


 こうして一緒に出来る事が徐々に増えていったら幸せだな…………



 私とテオドール様は結婚誓約式をした時から、一緒の部屋で一緒のベッドで寝ている。私がまだお子様だから……テオドール様は寝る時は手を繋いでくれて、人の温もりを感じるとよく寝られる事が分かったわ。


 

 今日はベッドに入って目を閉じたらすぐに寝られそう…………案の定ベッドに横になっていたらいつの間にか寝落ちしてしまって…………



 

 


 ――私の髪を優しく撫でてくれる…………気持ちいい……この手は……大きな手――――


 

 『……ロザリア…………』



 ――この手も――


 ――私の名前を呼ぶ優しい声も――



 ――大好きなテオドール様のものね…………夢の中でもテオドール様に会えるなんて幸せ――――――



 『テオドール様……大好き………………』

 



 


 日が昇り、明るくなってきたと共に目が覚めて……幸せな夢が終わって残念…………もう現実なのにテオドール様のいい匂いがする………………思わずスリスリしてしまう。



 「……ロザリア………………」




 テオドール様の声が頭の上から聞こえてきて、ハッとして恐る恐る顔を上げた…………するとすぐ近くにテオドール様の顔があり、自分が思いっきり抱き着いて寝ていた事にようやく気付いたのだった。



 

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