もしも世界が変わるなら
アベリアス
第1話……声
――寸分の狂いもなく、一定のリズムを刻み、電子音は病室に鳴り響く。
ベッドに横たわる男の周りには、数人の男女の人影が見える。神妙な面持ちで顔を覗き込み、祈る様に名前を呼んでいた。
意識があるのか、それともないのか。状況を飲み込めないベッドの男は思った。
『声が聞こえるな……』海面の上を彷徨う小舟みたいに体を浮かせいる男は、辛うじて聞こえる声に耳を傾ける。しかし、耳がこもっているのか、はっきりと響かない。
でも、妹の声だとわかる。
やがて、男の意識は深海へと落ちていくようにゆっくりと沈み、名前を呼ぶ声も聞こえなくなった――
電子音は一定の音を鳴らし始めた。
医師は瞳孔を調べ、時刻を確認する。
その合間に男の手を強く握りしめ、祈る様に呼んでいた名前は叫び声に変わり、幾度も病室内に響き渡った。
2028年 8月14日 午後11時14分
男は23年の生涯を経て、静かに息を引き取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます