01-02 強襲
グラスクラブの群れとの遭遇。そして命からがら逃げ延びたライズ。
彼の主力機体であれば殲滅も可能であっただろうが、戦力としてあまりにも不安定な、制御すらままならないじゃじゃ馬機体では初見の敵に合わせた戦法をとる事など、非常に困難であった。
それもそうだろう。ライズがサンドクラブと遭遇したエリアは【地下】と繋がるゲートから一定距離を超えた範囲。即ち、
「最低限必要な設備はこれで全部建造出来たし、あとは強化と拡張か……」
ライズは現在、機体から
……そう。自身の企業を設立し、その本拠地を建造している最中である。
「にしても、拠点の建造がソシャゲで定番のシステムと同じで良かったなー。こんなとこでオリジナルのシステムとか、無駄にリアルな時間が掛かるとかだったら、野良として適当なクラン……じゃないや。企業に参加するしかなかったな」
メニューから企業の設立を申請・設定。本拠地の場所を現在地で指定し、施設の建造を
即座に工事が始まったかと思えば、時間の短縮と即座に完了させるという項目が出現。ライズはもちろん『即座に完了』させる事を選択した。
これらに消費されるのは全てゲーム内通貨――クレジットである。
ポンポンと巨大な建造物を文字通りスポーンさせられるのも、MFFのアップデートが開始される直前まで執拗に金策周回した甲斐があったというものだ。
ライズとしては、クラフト系ゲームの様に資材を用意して、チマチマと建造していくというのも期待していたのだが、未だ勝手の分からない環境でマルチ……否、不特定多数のプレイヤーが存在するオンライン上で、いつ襲撃されるかビクビクしながら作業するよりはマシだと納得する事にした。
ライズがプレイを開始してから約五時間。あれやこれやとクレジットを溶かしているうちに、遂にその時が来た。
「材料集めかぁ……やっぱりあるよなぁ」
施設の建造に、クレジットだけでなく『素材』も要求される様になったのである。
無論、ライズには素材に関して心当たりがあった。
第一に『鉱石素材』。
このゲームはロボットゲームである。それ即ち、鉱物資源とは切っても切り離せない要素であるのは明らか。鉄を始めとした金属素材に、燃料となる石炭や原油等もあるかもしれない。主力武器に重火器がある事から、硝石等も採れる可能性もある。
採掘場に関してはGM企業――運営の方で既に場所を用意してあり、ライズも探索中にいくつか見付けてあるのだ。
その施設内部に入れば、自動的に機体の装備が採掘用の物に変更されるという情報が既に公開されている事から、詳細は実際に行ってみれば分かるだろう。
第二に木材などの『天然資源』
これは鉱石素材も含めて考えてもいいだろうが、これは特定施設に入る必要は無くワールド上で自由に採取出来る。
プレイヤーが増えれば争奪戦になる可能性もあるが、そこは『チャンネル』システムがあるらしいので、極端に奪い合いになる前に別チャンネルへと切り替えられ、素材を採取出来ないなんて事にはならないだろう。
そして最後に、『侵略生物』からの
先刻のグラスクラブ然り、何々のコアが必要だとか、あれやこれやの甲殻だとかがドロップされるのだろうとライズは確信していた。
というのも、サンドクラブの群れを襲撃した時に、チラリと半透明のシルエットが画面に表示されているのを確かに見ていたのだ。
あの時は回収なんてしていられる余裕は無かったが、ライズ自身の拠点は既に出来上がっている。ガレージ施設も建造している為に、自身が組み上げた別の機体も自由に使える様になっているし、新要素であるビークル各種も購入済みである。
そんなこんなでクレジットは心許ない桁にまで減っている訳だが、今から【地下】に戻って金策周回するという選択肢はライズの頭には無い。ビークルの試運転はしてみたい気持ちで満ち満ちて溢れているが、やはり今は、リベンジしたい気持ちに支配されている。
思い立ったが即行動。拠点施設のアップグレードはいくつかが進行中の待ち時間であり、今出来る事は既に終わっている。
ライズはガレージへとアクセスし、機体選択。そのまま出撃した。
陽の下に晒されたのは、先程まで使っていた『キャッシュカード』とは比較にならない威圧感を放つ超重量の機体。
最早カタマリと表現する以外に無いであろう機体構成は、その全てがゲーム内最高スペックで揃えられている。
――機体名:
ライズがそう名付けた機体。
脚部ユニットには、大きく前に延びた履帯と、それを覆う重厚な装甲。上半身も脚部に相応しい装甲の厚みをしており、追加装備は満載である。
肩には非常に長大なゲーム内最高火力を誇るカノン砲を備え、両手には重量を犠牲に所持弾数と火力双方が最高スペックのマシンガンを備えている。
そう。いわゆる『ガチタンク』である。
この構成自体は大して珍しいものでもないが、細かい装備等は人により様々。そして何より、この構成で戦うには、プレイヤー自身の
なにはともあれ、操縦者の禍々しいまでの感情を幻視してしまいそうな金属質の深い青で全身を彩られた重厚なる機体は、マップに指されたマーカーを目印に、一直線に飛び立っていった。
――結果。すぐに終わった。
サンドクラブの群れと遭遇した場所へと向かったライズは、広域レーダーに目標を捉えると戦闘態勢へと移行。マシンガンの射程圏内ギリギリの地点から射撃した事で群れが反応し、波の様に押し寄せて来た。そこからマシンガンはずっと撃ちっぱなし。群れが近くまで来たところで円を描く様に横方向への移動を続ける事で、サンドクラブの直線移動速度を封殺。なおかつ密集して過密状態にまでなったのを利用し、カノン砲を連打。なんともあっけなく殲滅を完了したという訳である。
不完全燃焼。現在のライズの感情を表すのに、これ以上相応しい言葉など他にあるだろうか。
サンドクラブからドロップしたアイテムには、現在必要としている素材は無かった。その事は分かり切っていたのだが、リベンジは果たしたので不満は無い。
しかしあまりにもあっさりと終わってしまったので、高揚した気分を持て余してしまっている。
「弾薬消費は二十パーセント、ストレージもまだまだ余裕がある訳で……」
万全を期して一度帰投するか。一瞬そう考えるも、身体は自然と拠点とは真反対、【地下】へと繋がるゲート方面へと進行方向を定めていた。
「もし大破してもペナルティは機体修理にかかる時間だけ。ちょいと遊び相手でも探そうかね」
表情が歪むのを抑えもせず、ライズは欲望のおもむくままにブースターを吹かす。
現在はアップデートが済んで未だ数時間。もし新たな武装が実装されていたとしても、こんな早くから入手している人はそうそういないだろう。ならば装備は【地下世界】にいた頃とそう大差ないはず。そう確信するライズは大抵のプレイヤーなら容易く退けるだけの実力があると自負している。
アリーナの最終的なトップランカーならそもそも敵わないかもしれないが、さりとて自身もランカーである。
「来る者拒まず去る者追わず……ってね!」
MFFの公式サイトを見る限り、【地上】ワールド上でのPvPを推奨している節があった。
根っからのプレイヤーキラーではないライズからすれば、わざわざ自分から弱い相手をいたぶる趣味は無い。むしろ荒らし行為を毛嫌いし他者とのコミュニケーションを避けがちなライズとしては、前提として他プレイヤーから距離を置いて行動しがちである。自身の本拠地を
それでも闘争心に抗う事など出来ようか。
新生アリーナに向かうのもやぶさかではない。しかし、新武装を何一つ入手していない段階で対戦しても、【地下世界】にいた頃と何ら変わらない。新鮮味に欠けるというもの。
それならばと【地上】での遭遇戦が可能となったならば、そちらの方がどれだけ刺激的で魅力的だろうか。
ライズは方針として……否。習性として、まずは
第一被害者、逃走を選択。
それもそうだろう。戦闘態勢へと移行した状態で、索敵範囲ギリギリの地点で常に付かず離れずの距離をキープする明らかに高火力装備の特徴的で見覚えのあるカラーリング。有名人という程ではなくとも、確実に自身より強い相手に獲物として見定められる圧迫感と恐怖感は底知れぬものがある。
不用意にデスペナルティに甘んじる必要性など無いのだから。
第二被害者、逃走を選択。
先程と同じように逃走を実行していた。
第三被害者、逃走を選択。
今までと違い、レーダーに反応を見付けてから接近してきたものの、中距離戦闘が可能な程度の目視範囲まで来た所で、百八十度反転。急速に逃げていった。
ライズは攻撃こそせずに後を追いかけるも、戦闘態勢のこの機体では速度的に追いつかずロスト。
変質者か何かか?
第四被害者、逃走を選択。
第五被害者、逃走を選択。
第六被害者――
……
第十七被害者、逃走を選択。
ライズ、しょんぼりである。
最終的に戦闘へと発展したのは、三人だけであった。
一人目と三人目に至っては、武器の射程範囲に入ったかどうかから攻撃を仕掛けてきていたものの、ライズの機体には大したダメージも入れられず。更には非常に素直な挙動で向かって来るものだから、ライズのカノン砲全弾ヒット。もれなく大破爆発と相成った。
そこで初めて知ったのは、【地上】でプレイヤー機体を撃破すると『補給物資』がドロップされるという事。
機体の耐久値修理。弾薬の補給。そんな事もあって機体に関しては出撃時と同じ万全の状態となってしまっていた。
「か~えろっかな~、か~えるっかな~」
今ならばどんなプレイヤーが相手でも
一度帰ってストレージ空にしてから、拠点の強化素材でも探しに行こうか。そんな事を考え始めた頃の事。
「……おっと? 今までと違うマーカー?」
機動形態でようやく『キャッシュカード』の通常移動に匹敵するかどうかの速度でオーバードライブを使用していた時の事。
レーダーに複数のプレイヤー反応が表示され、その内の一つだけ色が異なっていた。
思い当たる節は一つだけ。
装着していたHMDをずらし、すぐそばに置いてあったタブレットで動画配信サイトを確認。予想は確信へと変わる。
タブレットを閉じHMDを着け直したライズは、迷いなく色違いのマーカーの下へと飛び立つ。
「崖下か……いい感じじゃん?」
目標まで間もなく。高い崖も気にせず飛び降りたライズは戦闘態勢へと移行する為にボタンを押すも、地上で静止状態でなければ形態変更されないらしく待機状態の表示が出る。
ボイスチャットを近距離のオープン回線に設定し、マイクをオン。
「はろー、鴨鍋の会場はここかあ?」
――地上へと降り立った瞬間、形態変更も終わらぬうちに、ライズの機体を弾丸が襲う。
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