05:夢じゃなかった……?
ふぅ、最高の夢だった。超絶美人さんとあんな事やこんな事を……。超いい夢。そしてちょっと罪悪感。
ただ、私は愛しい娘を抱き締めて寝ていたはずなので、パジャマのズボンがえらい事になっていない事を祈る。
その、妻と娘に気付かれないように脱衣所まで行かないと……。
パチリと目を開けると、羽が生えた小人が宙を舞っていた。
耳が尖っていて、髪の毛の色は緑色。
“小人ではありません、妖精です”
こいつ、直接脳内に……!?
“視界の左端にご注目下さい”
あ、“ Now Loading ”が消えてる。
“これは夢でありません”
は?
“ご説明致します”
自称妖精曰く、
この世界は夢ではなく現実。
たまたま出会ったレイラさんのキスにより魔力・魔術・知識を授けられた。
授けられた力を制御する為の補助機能として、この妖精がいる。
何だ、やっぱり夢じゃん。
“夢ではありません。昨夜はお楽しみでしたね?”
顔面がサーッと冷たくなる感覚。
これが夢ではないとすれば、昨夜の営みは完全にアウト。
浮気・不倫・W不倫。いや、Wではないかも知れないが。
お尻を叩かれるだけでは済まないヤツだ……。
“人族の脳とハイエルフの脳の構造がそもそも違う為、知識を圧縮している関係で私のような
やっぱあの時のおばあちゃんから受けたディープなキッスが原因だったか。
突然魔法が使えるようになるなんて、おかしいもんな。
おばあちゃんが突然キッスして来るのと同じくらいおかしい。
それにしてもレイラおばあちゃん、エルフではなくハイエルフらしい。って事はエリナさんもハイエルフなんだろうな。
“私はベースとしてレイラ・ライラ・ロイラを元に構築され、マスターの知識をミックスしたカスタム仕様となっております。
ちなみに私の姿・声はマスターの脳に直接投影しております為、マスターが声を出して話されると周りから不気味がられます”
おっと、気を付けよう。
今みたいに心で話し掛けるみたいな感じでいいんだろ?
“その通りでございます。
また、マスター以外の他者へ私を見せる必要がある際は、マスターの魔力を消費して具現化する事が可能です”
なるほど、覚えておこう。
その時点でもはや妖精ではないよな。
ARフェアリー。拡張現実的な妖精だな。
って落ち着いて説明受けている場合じゃない。
じゃあ君の初めての仕事だ。
検索、元の世界へ帰る方法。
“認識に齟齬がございますのでご説明させて頂きます”
認識の齟齬?
“あなたはオリジナルではなくクローンです”
“あなたのオリジナルが存在する世界のアカシックレコードより、あなたの存在そのものをコピーし、この世界においてクローニングされた存在のようです”
“よって、マスターが元いた世界を指すならばそれは、この世界です”
“あなたのオリジナルは恐らく、今も奥様と娘様と共に過ごしておられることでしょう”
目の前が真っ暗になった。
ふぅ、嫌な夢だった。悪夢だ悪夢。
自分の存在を否定される夢なんて “夢ではありません”
自分は今日生まれただなんてそんな夢みたいな “夢ではありません”
どうせならもっと楽しい夢を “夢ではありません”
夢じゃなかった……。
“申し訳ありませんでした。マスターの精神的ショックを考慮せず事実を述べた事をお詫び申し上げます”
お詫びされてもなぁ……。
ってか私の脳内にいる補助的人格ならショック受けるだろうなって事くらい分かりそうなもんだけどね!
いや、そんな事を言っても事実は変わらないのか。
とにかく私はもうあの世界へ帰る事が出来ない。
いや、そもそもあの世界の記憶はオリジナルの私の記憶であって、クローンである私独自の記憶ではないんだ。
映画や小説の知識があるから何となく理解出来るけれども、その知識すらオリジナルの記憶なのだ!
誰だ私を生み出したのは!!?
“恐らくですが、あなたが消し去った勇者がいた国だと思われます”
ほう? それは何故そうだと?
“かの国において遥か昔に異世界召喚の儀式が存在しておりました。
レイラの師匠の師匠にあたるお方がその儀式に関わる者達を抹殺したので逸失したと思われていたのですが、恐らく部分的に情報が遺されていたのでしょう。
完全な状態で召喚された人物を検査した記録はございませんが、恐らくそちらもクローンだったのではないかと推測致します。
今回は不完全な異世界召喚を行った為、位置座標がずれて魔王国王都に出現した。
それがマスターです”
よし、勇者の国を滅ぼそう。
「パパー!」 ドンッ!!
客室の扉を蹴破ってマオリーちゃんが飛び込んで来た。
受け止めるも勢いを殺せず、そのままベッドへと後ろ向けに倒れ込んだ。
私の胸に顔を擦り付けて甘える幼女(魔王)。
「目が覚めたらパパがいなかったから淋しかったんだよ!
前はいっつも一緒に寝てくれてたのに!!」
「いやいやマオリーちゃん、私は君のパパじゃないんだ。
私には君と同い年くらいの……」
いや、あの子は私のオリジナルの娘であって、私の娘ではない……。
いや、そもそも娘とは血が繋がっていないんだけれど……。
じわりと、目から涙が零れ落ちる。
「……パパ?
どうしたの、どこか痛いの? 治してあげるよ?」
よしよしと、私の頭を撫でてくれる可愛い女の子。
小さな手でじんわりと温かな光を浴びせてくれる。
“これは治癒魔法です”
優しい子だなぁ。
この子にはパパがいない。
そして私にも娘がいない。
じゃあ、パパと娘になろうか。
「マオリーはとっても優しいいい子だね、パパは嬉しいよ」
「そうでしょー?」
嬉しそうに足をパタパタと動かし、シッポをペタンペタンと振り、顔をスリスリとして、角をグリグリめり込ませる。
私には何もない。
何もない私だけれど、この子を守ろう。
何をすればいいのか分からないが、この子の為に生きよう。
「パパ~」
「何だい?」
「大好き♪」
「パパもマオリーの事、大好きだよ?」
「えへへぇ~」
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