3-4.

 私は、大変むくれていた。原因は、黄色のイルカ。よく分からないが海賊に酷使されていた水の精霊である。事の発端は、異世界通販。どうしてこうなったというのか。大変遺憾である。

 白翔に乗って船に戻った私とリオ様は、拍手喝采で迎え入れられた。海賊船は沈んでしまったから、この事件は解決したと言っていい。事後処理をラディ様が引き受けてくださって、私達は黄色のイルカを連れて客室に戻った。そして疲れたから甘いものを食べようと異世界通販を起動して、奮発してパフェを買った。大きいので、リオ様にも手伝ってもらうつもりで、特大フルーツパフェを買ったのだ。フルーツなら甘いものが苦手なリオ様も手伝ってくれる。るんるん気分で、パフェを食べようとしたその瞬間。横からばくり、とパフェを食べられた。器も丸ごと。

 バリバリ、とパフェに似つかわしくない音をたてている、いつの間にか目を覚ましてパフェ泥棒したイルカ。私は、無言でもう1つ買ってみた。すると、私が食べるまでもなく、ぱくりとパフェを食べてしまうイルカ。私は憤慨したが、横から食べられてしまうのだから、仕方ない。よって、私は甘いものにありつけずにいた。


「ガラスって食べられるんだ。というか、精霊って物を食べるんだね?」

「精霊は魔力を糧に生きているはずだが。俺のステラのギフトで出来た食べ物は、別なのだろうか……」

「よく分からないなぁ。精霊のことは精人族の分野だし、詳しくないんだよね。ラディは知っているかな?」

「知らないんじゃないか? アイツは広く浅くなヤツだからな」


 ぼそぼそと話している男達の横で私は、黄色のイルカを恨めしく睨んでいるのだが、当のイルカといえば意に介した様子はない。むしろ、<もっとちょうだい>ときゅいきゅい鳴きながら私の周りをくるくる飛び回っていた。さっきまでリオ様の腕の中で寝ていたのに、起きた途端にパクパク食べるし元気に飛び回るとはとんでもない奴である。

 私は無言で、自分用にとっておいたマフィンを取り出した。マフィンは3匹のお気に入りなので、こっそり食べないと奪われてしまうのだ。私がマフィンを手にした瞬間、イルカはぱくっと敷紙ごと食べてしまった。どうでもいいが、ガラスといい敷紙といい身体に悪いと思う。


「イルカさん、私も同じもの食べたいの。イルカさんの分は用意してあげるから、私の分を食べるのは止めて」

<わかった。でもおなかすいてるから、がまんできないの。もっとちょうだい>

「仕方ないな。何が食べたいの? 単価が高くないヤツなら何でもいいよ、買ってあげる」

<さいしょにたべたのおいしかった。もっと!>

「パフェは単価高いんだよ。じゃあ、あと1個だけね。あとはフルーツ買ってあげるよ」


 私も食べたいので、お高いフルーツパフェは2個買った。1個差し出せば、ぱくりと丸ごと口に入れてバリバリ食べている。一旦自分の分はアイテムボックスに仕舞って、イルカ用のフルーツを買う。イチゴ、リンゴ、スイカ、キウイ、マンゴー、メロン、バナナなどフルーツパフェに使われていたフルーツを参考に色々と買った。買った傍から皮ごと丸々食べられてしまうので、見ていてちょっと面白い。スイカとかメロンって、イルカの口より大きいのにバリバリむしゃむしゃ食べている。

 イルカはたくさん食べて人心地がついたらしく、きゅいっと可愛らしく鳴きながら、私の頭の上をぷかぷか浮いていた。私はようやくフルーツパフェが食べられると、お高いフルーツパフェをアイテムボックスから取り出してぱくりとメロンを食べた。イルカは約束を守ってくれていて、私のフルーツパフェには手を出さなかった。

 ご機嫌でパフェを頬張っていると、私にフルーツを突っ込まれてもごもご食べていたリオ様が口を開いた。


「なあ、俺のステラ。先ほど、気のせいでなければ精霊と会話してなかったか?」

「していますよ。きゅいって鳴き声と一緒に、副音声みたいな感じで声が聞こえます。可愛い声ですけど、リオ様は聞こえないんですか?」

「俺には聞こえない。アマデオ、お前は聞こえるか?」

「精人族じゃあるまいし、聞こえる訳ないでしょ。きゅいきゅい聞こえるだけだよ。マリアちゃんは規格外だなぁ」


 そう、このイルカはめそめそしていた幼く可愛い声の主だった。あの時は悲痛な叫び声だったけど、今は落ち着いていてただの可愛らしい声なだけだ。リオ様達にはこの声が聞こえないらしい。そもそも精霊と会話できるのは、精霊と縁が深い精人族くらいらしい。なら何で私はイルカと会話できるんだろうか。

 首を傾げていたら、イルカがきゅいきゅい鳴いた。


<あるじは、みこだから。あんのうんのじかんがながかったんでしょ? だからぼくのこえがとどくんだよ>

「へぇ。ところで、あるじって何?」

<あるじはあるじ。ぼく、あるじについてく!>

「ついてくるの? 元のお家まで連れてってあげるよ?」

<やだ、あるじのいっしょ! ごはん!>


 何を言っているんだ、と聞かれたからイルカの言葉を通訳した。それにしても3人任せとはいえ、元の住処まで連れていくと言っているのに、それを拒否して同行希望とは。しかもご飯って言っているから、たぶん異世界通販目当てだ。精霊にまで好かれるとは大人気だな、異世界通販。美味しいものを食べられるから私も大好きだよ、異世界通販。

 唸るリオ様達に聞いてみると、精霊と契約するには精霊の属性と同じ適属性を持っている必要がある。私の属性は、光と闇だけ。イルカは見た目の通り水属性の精霊だから、私と契約は出来ない。稀に適属性を持っていなくても契約できる例はあるらしいが、珍しすぎてどう契約するのか見当もつかないと言う。


<あるじにみずぞくせい、あげる。がんばってつかえるようになってね>

「精霊って人の属性を増やすことが出来るの?」

<ぼく、ちゅうきゅうせいれいだもん。もうすこしでじょうきゅうせいれいだったんだよ。いまはかきゅうせいれいだけど>


 イルカの言葉にうんん? と首を傾げて、解説が欲しくてイルカの言葉を通訳する。すると、精霊にも階級があって、本人の申告通り下級精霊、中級精霊、上級精霊、とランクアップしていくらしい。下級精霊の下に微精霊、上級精霊の上に大精霊がいるんだとか。流石に人の適属性が増える例なんて聞いたことがないらしいが、精霊が出来ると言っているなら出来るだろうと。精霊とは本能のままに生きている存在なので、嘘を吐くことはほぼないとのこと。へぇ、フルーツを山盛り進呈するだけで水属性もらえちゃうんだ。基本的に人の適属性なんぞ変化しないと思えば安いな、精霊。

 ただ、普通のフルーツを山盛りにしたところで精霊とは契約できないだろうとリオ様は言う。過去に試した人はいるはずで、それで契約できるなら精霊契約がもっと流行っているはずだと。私のギフト異世界通販が悪さしているんだろうとの見解だった。悪さっていうか、影響しているというか。


「このギフト、使用ポイント少なかったはずなんですが。便利すぎません?」

「俺にもよく分からないが、ギフトとなると解明されていないことが多いし便利ってことでいいんじゃないか」

「えぇー、便利の一言で収めちゃう? 食料の不安は無くなって、精霊と契約できて、優秀過ぎるんだけど」


 アマデオ様は首を傾げていたけれど、疑問を投げかけたところでギフトは答えてくれない。ただ、美味しいものが食べられるだけである。私はリオ様の口にバナナを突っ込みながら、今日の夕食に思いを馳せた。絶対にお仕事した白翔はお酒を多く要求してくるし、3匹は暇すぎてぴょんぴょんしているので宥めるためにも甘いものが必要だ。ここに爆食いイルカが追加されるのだから、大変なことになるのは間違いない。

 勧められるがままに取得したけれど、魔力回復速度上昇をとっておいてよかった。魔力が足りなくなってしまう。私は食べ終えて空のパフェグラスをイルカに奪われながら、自分の魔力量を心配した。

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