天国をこえて

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天国をこえて

 「きっと現世で楽しくやってるよ」

ミカエルは言った。こんなの気休めにもならないだろうけれど。ラファエルは僕の何倍も寂しいはずだ。肉親が亡くなったんだから。

 でも、こんなときでも、ラファエルはいつも通りだった。

「そうだね。そう考えると少し楽になるかな。ありがとう」

よくもまあ、こんなに気丈に振る舞えたものだ。ラファエルのこういうところは尊敬している。

 その時、抑揚のない、機械的な冷たい声が響いた。ガブリエルだ。

「人は死んだら無になるに決まっている。それで終わりだ。たとえその原因がただの不幸だとしても、死は平等だ」

「君だって生前は世話になっていたじゃないか」

ミカエルは少しムッとして言う。

「ああ。いい人だった。だからこそだ」

「何を言っているんだ?」

「この天国で、平等なのは死だけということだ。それを享受できたのなら、こんなに幸せなことはない。無意味な延命手術を受けて生きながらえるよりずっとましだ」

「なるほど、君の考えはよくわかった。面白い考え方だね」

ラファエルが頷いて言う。顔は笑っていた。

「いや、これは自然な流れだ。それに反するのは本来許されてはならないことだ。故人は不幸なんかじゃない」

ガブリエルが淡々と言う。ラファエルは黙った。

ミカエルは、ラファエルが怒っているのかもしれないと思ってさりげなく彼を見たが、表情からそれらしいものは読み取れなかった。沈黙がなんとなく気まずくなって、ミカエルは言う。

「まあ、でも現世はあってほしいよな。死んで何もないなんてつまらないし。」

「現世は自由の世界らしいからね。この頭上の黄色い環状識別チップは一度外してみたいかな。」

ラファエルが答えて言った。いつも通りの優しい表情だった。

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