第55話
暗い暗い森の中、道のない道を俺とアリス二人並んで歩く。
「ウツツとはね結構会ってるんだ。なんでも体を取り戻すのに俺の力が必要らしい。俺、ウツツの魔法を弾く事ができるんだ」
道中、俺はアリスにウツツとの関係性を説明していた。
「ウツツさんの体は生きてるんですか?」
「うん、生きてる。しかも自我が芽生えているんだ。だからウツツの頭部と体、くっつく事はないのかも知れない」
「これからもナツ君に何かさせようとするんでしょうか?心配です」
「そっとしといて欲しいよな」
そんな会話をしながら寮へと向かう。すると急に、ピタッとアリスが止まる。
「人がいます。二人でしょうか?」
こんな時間に人が二人?さっき光の柱が上がった光景を思い出す。
「ここって初心者用ダンジョン?が近くにある?」
「ちょっと歩いたところにあります」
という事はメリーと攻略対象の誰かか?見ていくか?いや、やめておこう。
「回り道しよっか」
アリスも「はい」と賛同してくれる。アリスの指示に従い回り道をしようとする、が
「誰かいるんでしょ。後をつけられるの嫌だから出ておいでよ」
バレてる。確実に俺達に向けて言っている。しかもメリーの声じゃない。知らない女の人の声だ。どうするこれ。
「すいませーん。後をつけていたとかよく分からないでーす。僕は彼女とここでイチャイチャしてただけでーす」
咄嗟の嘘。アリスが横で顔を赤くしている。
これで見逃してくれるか?
「またまたーそんな嘘ついちゃって。君も攻略対象なんでしょ」
そう言ってその女は森の中の闇から姿を現す。その肩にはメリーを担いでいた。
なんでメリーを担いでいるんだ?メリーは今気絶をしてるのか?これはゲームのイベントなのだろうか、いや違う。『攻略対象』という言葉、これは転生者じゃない限り出てこないはずだ。つまりこいつは…。
「ナツ君後ろに」
アリスが俺を守る為、前に出る。
「ありゃりゃ、女の子に守られちゃって。それにさっきいた子と違ってあんまりかっこよくないね」
戯けた様子の忍び装束の女。
「時代遅れな考え方をしてるんすね。今は男とか女とか関係ないんじゃないですか?」
戯ける女に真面目にそう言い返すと、女はキャハハッと笑い始めた。
「この世界に来て時代遅れなんて言葉初めて聞いたかも。それに面白い事言うんだね。なんか懐かしくなっちゃった」
危なそうな人には見えない。でもメリーを拉致しようとしてるのは状況的に確かだ。
「その子をどうする気ですか?」
「ああ、この子?この子ね、私が元の世界に帰るまでは大人しくしてて欲しいんだ。別に殺すとかそう言うつもりはないよ」
え?ちょっと待って。今この人凄い事を言ったよな?とんでもなく重要な事。まさか知ってるのか?
「ア、アリス、先に帰っててくれるか?俺はこの人と話をして帰る」
俺は少し動揺していた。
「危険です!ルードラで一緒に帰りましょう!」
「大丈夫だよ危険なんてないよ。別に私はあなた達に危害を加えたりしないよ。邪魔さえしなければね」
俺とアリスのやり取り遮って忍び装束の女がそう言う。
「邪魔どころか協力しますよ。だからちょっと二人で話をしませんか?」
「本当に協力してくれるの?なんだか怪しいなー。でもいいよお話ししてあげる」
俺の提案を訝しみながらも了承してくれる。
「俺この人と話をしてくるよ」
アリスの顔を見て言う。
「行かないで。私と一緒に帰りましょう。行って欲しくないです」
てっきり私も行きますと言うかと思ったが、全然違った。アリスに悲しそうな顔でそういう風に懇願されると心揺らいでしまう。
でも俺は行く。元の世界に帰る方法その方法をどうしても聞きたい。アリスに一言「ごめん」と謝って俺は忍び装束の女に近づいた。
「あの子可哀想に。本当にいいの?」
「良くないです。でもこの機会を逃したくないから」
「君地球人なんでしょ?それならまぁ仕方ないか」
忍び装束の女が気持ちは分かると言わんばかりに納得してくれる。どうやら俺の正体バレていたようだ。
「あのちょっと移動しませんか?あまり聞かれたくないというか…」
今まで正体を騙って接していたなんて知られたくなかった。
「勿論いいよ。でもあの子をこんな夜の森の中に一人にして大丈夫?」
俺は心の中で『アリスにはルードラがあるからすぐに帰れる筈だ』と勝手は言い訳をして忍び装束の女に「大丈夫です」と答えた。
「そっか。それじゃ行こっか」
俺と忍び装束の女はアリスを一人残して夜の森へと消えた。
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