第30話 エルフのシオン

 アイルの街中を進み続けて数十分が経った頃、俺達は一つの家の前にいた。

 ちなみに変装はグラジオのメンタルが限界だったので人通りの少ないところで脱いで、大きめのマントに変更した。


「ここで、あっているんですよね・・・?」

 これまでの街には無かったツリーハウスの様な家は、森と一体化しているこのアイルという街のイメージ通り。

 森の姿を壊さないように、共生しているとでも言うべきなのか。

 人工物のはずなのに元からそこにあったように感じてしまう。


「はい、ここでシオンが待っているはずです」

「まさかまたシオンに会えるなんて」


『シオン』

 グラジオ曰く、グラジオと同等かそれ以上の実力を持つを持つというミリアの元家庭教師。

 一体どんな人なんだろう。


「シオン、お待たせしました」

 グラジオがトントントンとドアを叩くと、「合言葉は?」とドア越しから女性の声が返ってくる。


「ミリアお嬢様」

「・・・え?」

 それは合言葉なのか?

 いやいやそんな合言葉があってたまるか。

 もっとマシなものが・・・


 ガチャリ。

 ドアの鍵が空いた。


「・・・」

 もはや言葉が出なかった。


「全く待たせ過ぎなのよ」

 そう言ってドアが開かれた先にいた女性はエルフの証拠である長い耳を持ち、銀色の長い髪が後ろで一つに綺麗にまとめられている。

 かわいいというより綺麗という言葉のほうが似合う、そんな女性が現れた。


「シオンーー!」

 その姿を見るやいなや、ミリアが飛びつくようにそのシオンと言う女性に駆け寄っていく。


「お嬢様、お久しぶりです」

 頭を撫でられ、照れているミリアの姿は彼女はまだ俺と同じくらいの歳の女の子だということを再認識させる。


「シオン!」

 ツバキがその名前を呼ぶと、シオンはハッとした表情でこちらを見る。


「まさかその声・・・ツバキじゃない!」

 ツバキの姿を確認すると、二人は再会を祝福する握手を交わした。


「師匠知り合いだったんですか?」

「そりゃあ、シオンは元々私達が会おうとしていた元メンバーだからな」

 確かに俺達が最初アイルに向かっていた理由は、ダイン、ルミア、そしてツバキがいた元冒険者パーティーの一員だった妖精族エルフに会いに行くためだったが、まさかこんな偶然があるなんて・・・!


「ツバキ、まさかこの子がダインとルミアの息子!?」

「そうだよ。こいつがあのダインの息子さ!」

 ツバキはシオンの驚いた顔を見て少し笑いながら答える。


 シオンは屈んで目線を俺に合わせ、じっと顔を見つめる。

「確かにこの憎たらしい顔はダイン譲りね」

 まさか初対面の人にそんなことを言われるとは思ってなかった。


 だが自分で言うのも何だが、俺は可愛い顔をしているはずだ。

 前世だったら、姉がジャニーズに応募しちゃってのやつも実現できるくらいには。

 師匠もきっとかわいい愛弟子と思ってくれているはず!


「さすがわかってるなシオンは!」

 ツバキはすかさずシオンを肯定した。


「・・・」

 おいおい我が父よ、一体どんなことをすれば息子にまでそんな風に言われるようになるのだ。

 ・・・次会ったら、詳しく話を聞こうじゃないか。


 そんな他愛の無い話をしていたら、ふと自分が何をしにここに来たのか忘れそうになる。


「さて、立ち話はこのくらいにして」

 そう言ってシオンは立ち上がると、

「中に入って。これからの作戦を話しましょ」

 その言葉を聞いて一気に現実に引き戻される。


「・・・はい」

 どうやらもう、そんな時間は当分味わえなそうだ。


 /////////////


「早速本題に入りますね。みなさんが探していらしゃるミリア様のご兄妹は王宮の地下牢に囚われています」

「やはりそうですか」

 ん?

 グラジオとミリアはすぐに把握しているみたいだが、こちらとしてはどこの話をしているのかも全くわからない。


「王宮って、どこにあるんですか?」

「ああ、すみません。あちらの窓を見てください」

 グラジオの視線の先、窓の向こうにはアイルに入ったときからずっと視界に入るほど大きかった建物。

 そこだけ明らかに目立っていたのでよく覚えている。


「まさかあそこが王宮・・・」

「はい、王宮には国王様も、そしてザクもいるはずです」

 ザク、これまで名前は何回も聞いてきたが詳しいことは全くわからない。

 一体どんなやつなんだろう。


「そういえば作戦と言っていましたが何か策があるんですか?」

 モモのその問いにグラジオとシオンはお互い目を合わせてうなずく。


「はい、作戦はシンプルです。ご兄弟を救出し、あとは今は王宮の奥の部屋に監禁されている国王にそれを伝えること。私達だけではザクに敵いませんが、大陸有数の実力の持ち主である国王がいれば、たとえ無音サイレントがいたとしても太刀打ちできないでしょう」

 確かにシンプルな作戦だ。

 その国王が今何もできないのは息子達が人質にされているから。

 それが無くなってしまえば、本来の力関係に戻るはずだ。


「ですがそれはザクも十分承知です。私が偵察したときは、地下牢へ行ける唯一の道があるんですがそこには数え切れないくらいの衛兵が配備されていました」

「それじゃあ、どうやって救い出すんですか」

 この質問にはシオンではなく、グラジオが答えた。


「私達が囮になるんです」

「なっ・・・」

 あまりの提案に言葉が出なかった。


「そんなのだめに・・・!」

 なんとか止めるよう言おうとしたがグラジオのあまりに真剣な眼差しをみて、彼は本気なんだと感じた。


「私達が現れたとなると衛兵をこちらに割かなくてはいけないでしょう。その隙にご兄弟を救出してください」

 理には適っている。

 でもそれは同時に死ぬリスクも高くなること。

 そんなの・・・


「安心してください。私も死にたくはありませんし、何よりお嬢様には傷一つ付けさせませんから」

 俺の不安を察知したのか、グラジオはそう言うがそれで安心できるはずがないだろう。

 止めたい。

 そんなのだめだって止めたいが、他にそれよりいい方法が思いつかない。

 それが悔しくてたまらない。


「決行は二日後。今日はみんな疲れているでしょう。ゆっくり休んでください」

 グラジオのその言葉で今日のところは解散して、ツバキとシオンはグラジオともう少し話すことがあるらしく、他の俺とモモとミリアが先に与えられた部屋で休むことになった。


 もっといい方法が無いか。

 ベッドの上でそれを考え続けたが結局何も思いつかないまま、気づけば俺は眠りについていた。

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