第27話 変装
迷走した 作者より
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「ようやく着いた。ここが・・・」
あれから数日、とうとう俺たちは精霊国アイルに到着した。
視線の先には森がまるごと街になっているような不思議な光景が広がっている。
「皆さん、あれを見てください」
グラジオの目線の先には、アイルへの入り口に立つ二人の衛兵。
彼らは行き交う人々を一人ひとり逐一確認していた。
だがいくら観察してもそれ以外でこれと言って怪しいところはないように見える。
「特に、おかしいところはないと思いますが・・・」
「普段ならそうですが、おそらく彼らはザクの手下でしょう。そして街にいる衛兵も」
「なっ・・」
確かに、今、国のトップは息子を人質にされて身動きがとれない状態。
そうなると次に偉い王子が国の指揮を取ることができると考えて良いはずだ。
それはつまり精霊国 アイルは既にザクの支配下である可能性が高いということ。
となると、思っていたよりも事態は深刻なようだ。
俺とモモ、ツバキはともかく、グラジオとミリアは衛兵に見つかった瞬間ゲームオーバーになる可能性が高い。
どこか見つからないで入れる場所はないかと探してみるが、そう簡単に見つかってしまうようなそれは国としてセキュリティ面でこれ以上ない欠陥だが。
・・・うんよかった、見つからずに入れるところは今の所見当たらない。
「となると、正面から入るしかなさそうですね」
モモの発言に全員が同意する。
が、問題はそれをどうやって可能にするかだ。
変身魔法みたいな便利な魔法がないか、ミリアとモモに確認したがあるにはあるが相性が良い者が少なく使える人はめったにいないらしい。
モモとミリアも例に漏れず、使えないらしい。
変身がだめならあるのは変装ぐらいになるが・・・
「私とグラジオが少し変わったくらいではおそらくすぐバレてしまうと思います」
まあこれはミリアの言うとおりだろう。
服装を変えるぐらいの変装では簡単に見破られてしまうだろうな。
もっと劇的に変化させるぐらいじゃないと。
なにか前世の記憶で参考になるものがあれば良いんだが・・・
記憶を遡っていると、ふと参考になりそうなものがあった。
そういえば、ク●ヨンから始まるある国民的アニメの映画(作者大好き)で似たような場面があったな。
指名手配され、追われる身になった時あの家族は一体どうしたか・・・
「・・・」
確かに状況は似ている。
・・・が、自分で言っておいて何だが、これは果たしていいのだろうか。
改めて考えると馬鹿げた作戦であるのは間違いない。
コメディの世界だからうまくいっただけであって流石に現実でうまくいくはずが・・・
「・・・」
いやでも、やってみないで諦めるのはいけないことなんだよな、俺。
ということはつまり。
・・・・・・・やってみるしかない、のか?
「もしかしたら一つ、方法があると言ったらあるんですが・・・」
声を絞り出すように、渋々口を開く。
「本当ですか、カインさん!」
「ぜひ教えて下さい!」
残念なことに食いつくように反応してきた。
真面目に聞こうとしてくるグラジオとミリア。
なんだかどんどん申し訳なくなってくる。
どうしよう。
やっぱりなんでも無かったとでも言うべきか。
でも、ここまできたからには退けない、よな。
今すぐ撤回したいけど。
「いいですか、覚悟して聞いてくださいね・・・」
俺は意を決して言うことに決めた。
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「・・・」
「カインさんほんとうですか?」
「はい本気です」
ミリアは怪しむようにこちらを覗いてくるが目線を合わせるわけにはいかない。
「カインさん本気ですか?」
「はい本気です」
グラジオもこちらを怪しむように見てくるが目線を合わせるわけにはいかない。
なぜなら・・・
「プッ、アハハハ!何だその格好!」
どうやらツバキが耐えれなかったようだ。
そう、さっき俺は言った。
変装するなら劇的にと。
まずミリア。
ミリアとばれないようにするためにしたこと。
それは『身長』を変えることだ。
方法は簡単。
力持ちのモモがミリアを肩車する。
な?簡単だろ。
これだけで身長は二倍近くになった。
あとは大きい布で口から下を隠すようにすればミリアを少女と思っている限り、気づかれることはないはずだ。
きっとそうだ。
そしてグラジオ。
まず全身フルアーマーを脱がして、たまたまニースで買っていた女性用のワンピースを着させる。
しかしこれだけでは足りないので次に胸の部分だ。
胸は手頃な玉2つを入れれば、うん・・・
とりあえず気にしないでいこう。
次に髪型。
道中でたまたまちょうどよくいた魔獣から取れた金色の毛を女性っぽい髪型のかつらにして装着。
更に!ミリアがたまたま買っていた新品の口紅を唇に塗りたくる!
「・・・」
グラジオが死んだ魚の眼になっているが気にしてはいけない。
とりあえずこれでもう、このお方が精霊国一番隊隊長であるグラジオだとは誰も思わないはずだ。
色んな意味で。
・・・やっちまったなこれ。
もう今更土下座しても許されないだろうなあ・・・
とまあ、そういうわけでそんな変わり果ててしまった二人と目を合わせたら最後、笑わずにはいられないというわけだ。
だから絶対に目を合わせてはいけない。
せめて提案者の俺は笑わずにいなければな。
もうここまで来てしまったんだ。
うまくいかなきゃ俺は死んで詫びるしかない。
たのむぞ国民的アニメ!
「・・・それでは、行きましょうか皆さん」
こうして二人が視界に入らないように俺とツバキを先頭にして精霊都市アイルの門に向かうのであった。
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