美しい華に贈るメロディと伴奏

戸塚 小夢(こゆ)

平穏な日々に浮かぶ伴奏

未経験ながら、高校で吹奏楽部に入った私。

当然、人気でかわいいフルート希望だったが、未経験者は呆気なく落選。

人の足りない金管、マイナーすぎるユーフォニアムに押し込まれてしまった。

正直、部活選びが失敗だったかと、2ヶ月も過ぎた7月にまだ引きずっていた。

先輩は、二年生の男子ひとり。経験者らしく、毎日音の違いに絶望感を抱いている。

さらに、ほとんど人と会話しないために、性格等々は分からない。

楽器についてはほぼ、元ユーフォの現トロンボーンである怜凪れいな先輩に教わっている。

「ふうちゃん、そこはだよ。今の音はになっちゃってる。」

「は・・・はい!」

正直、まず音の調整が難しすぎる。同じ運指なのにいくつもの音が出るのだ。

「はい、もう一回やってみようか?」

ちなみに私の名前は『ふう』でも、『ふうか』でもない。

風見かざみふらのだ。

怜凪先輩によれば、風見もふらのも、ふうににてるじゃん!とのことらしい。

今の練習曲は吹奏楽の定番、大会課題曲のマーチだ。

マーチってなんだかリズムが難しくって、毎日怜凪先輩にリズムを叩き込まれている。

そもそも1年生で初心者の私が大会に出なくても?と思ったのだが、怜凪先輩によるとそうではないらしい。

吹奏楽の大会には部門によって人数規定があり、規定内の人数ならどれだけいてもいいのだとか。

どれだけいてもいいのだから、1年生も経験値のために、吹けなくても出場するらしい。

そんなこんなで私ももれなく強制出場となったのだが。

出場するのなら課題曲くらいは演奏してやる!と思っていたら、それが意外と難しく手こずっているのである。

ちらりと少し離れた場所で練習するユーフォのやなぎ 奏瀬かなせ先輩を見ると、薄く目を瞑りながら美しい音色で華やかなメロディを奏でていた。

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