美少女幼馴染を無下にしている"主人公"クンから、その子を奪っても文句は言えないよね?
わいえくす
1話目 ただの幼馴染だよ
初めて小説の執筆に挑戦します。一人でも誰かの目に止まることを祈りながら……のんびり書いていきます。
初心者なので至らない点等ありましたら遠慮なく指摘してくださると嬉しいです。
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「それで健一は全然感謝の言葉もなくて。ほんと信じられない。私がどんな思いで――」
「いやー、それは大野クンがありえないね!怒って当然!むしろどんどん怒り発散してこ!」
「そうよね!そもそもなんでアイツは――」
目の前にはジュース片手に、幼馴染について愚痴を垂れ流している黒髪ポニーテールの美少女。
なぜこんな状況になっているのか――いや、この状況まで持っていったという方が正しいか。それは俺がこの学校に転入してからちょうど2週間たった頃、放課後の教室で聞こえてきた会話が発端だ。
◇ ◇ ◇
「お前ら席につけ〜。朝の
4月初旬。生徒に声を掛けながら教室へと入っていく目の前の中年男性――県立早良高等学校2年1組の担任教師である田中先生に連れられ、俺も教室に入る。
何人かの生徒はすでに俺の存在に気付いているようだ。
全員席についたところで、先生が再び口を開く。
「見ればわかると思うが、今日から新たにクラスメイトとなる転入生を紹介する。赤史、自己紹介してくれ」
――ねえ、カッコ良くない?
――結構タイプかも……
ヒソヒソと話し声が聞こえてくる。
初日だし、自己紹介は真面目に行くか。
「
「はい、ありがとう。急にこの町に戻ってくるのが決まったそうでな。始業式までに手続きが間に合わなくて1週間遅れの転入となった。みんな仲良くしてやってくれ」
事前に用意していたありきたりの自己紹介を言葉にすると、先生が転入するのが遅くなった理由を補足してくれた。
「それじゃあ神楽の席は……一番後ろだな」
先生に指定され向かった俺の席は窓から二列目の最後部だった。どうやら最後部列は俺と、窓際の席しかないようだ。鞄を机に掛けたあと、唯一のお隣さんになった人物に挨拶するべく、窓側へと体を傾けた。目に入ったのは、ある一点を見つめる美少女だった。
腰まで下げた黒髪のポニーテールに、少し気の強そうなクールな表情。一見大人っぽく見えるが、少しあどけなさが残った顔立ちは年相応な可愛らしさを醸し出している。
へぇ、こんな美少女が隣とか幸先いいな。
俺は少し上機嫌になり、明るい表情を作りながら隣の少女に声をかける。
「せっかく最後部列を独り占めできていたのに、ゴメンね?これからよろしく」
すると少女は一瞬だけこちらに目を向け、小さい会釈をしたあと、また視線を元に戻してしまった。
自画自賛になってしまうが、これでも俺の顔はかなりいいほうだ。今まで女性――それも同年代の女の子にそっけない態度を取られたことは滅多になかった為、一言も返答がないことに少し驚いた。
面食らいながらも、彼女は一体どこを見ているのだろう――気になりながら彼女の視線を追ってみると、その瞳に映っているのは、猫背姿の男子生徒、たった一人だった。
◇ ◇ ◇
転入してから早くも二週間が経とうとしていた。小学生のころから幾度となく転入、転校を繰り返してきた経験と、俺自身の性格も相まって、クラスに馴染むのに時間はかからなかった。今は男女数名で構成されたカースト上位の集団と適当に仲良くしている。
昼休みは学食で下らないことを駄弁りながら昼食を共にし、放課後はカラオケやらボーリングやら、学生らしく寄り道をしたりしなかったり。
そんな順風満帆な学校生活を送っているわけだが、このクラスには中々に面白い関係性の男女が存在する。
片割れは隣の席の
大野健一――中肉中背、目元まで伸びた長い前髪。どの学校の、どの教室にも存在するであろう普通の男子生徒。
そんな彼が必要以上に目立っているのは、あの藤子町凛と幼馴染である上に、彼女が唯一気にかけている男子生徒であるから、だろう。
例えば登校時。
「ちょっと健一、なんでそんなに眠そうなのよ?もしかしてまた一晩中ゲームでもしてたんじゃないでしょうね?毎回テスト赤点で大変なんだから、少しは自重しなさい」
例えば昼休み。
「ちょっと健一、またコンビニのパンで済ますつもり?……お弁当作ってあるから、一緒に食べるわよ」
例えば放課後。
「ちょっと健一、今日もおばさんたち忙しいんでしょ。連絡あったわ。……仕方がないからまた晩ごはん作りに行ってあげる」
そう。彼女は創作物でしか見ないようなツンデレ少女だった。
というのも実際に現実で見るものなら、かなりデレているというか、好意があからさま過ぎてツンデレと呼んでいいのか戸惑うところだが。
なんせ直接言葉として好意を伝えてないだけで、朝一緒に登校したり、お弁当、更には晩御飯まで作ってくれるなんて貴方が好きです!なんて言っているようなものだと思う。
素直になれないなんて年頃の少女においては普通のことだろう。
だがまあ、素直に好意は言葉にできないけど、なんだかんだ言って甲斐甲斐しく世話を焼く――メタ的な視点で見れば、恐らくツンデレということになるだろう――彼、大野健一だけはどうやらそう解釈していないみたいだが。
例えば登校時。
「ゲームくらい好きにさせてよ……テストのことはいいって……なんで毎朝くるのさ」
例えば昼休み。
「いや、別にコンビニ飯でもいいじゃん。はぁ……わかったよ、食べるよ」
例えば放課後。
「仕方がないなら来なくていいよ……」
まるで茶番だ。鈍感というか、これはもはや愚弄と言っていい域だ。
こんなやり取りを見ていると、ある欲望が胸の中に沸いてくる。藤小町は、俺の好みドンピシャだった。彼女を自分のモノにしてみたい。そんな鈍感ムーブかましているのならいっそ……と思うこともあった。
ただ、大野は大野で素直になれてないだけで、彼らは両思いなのだろう。流石に俺も、両思いの男女の仲を引き裂くなんて趣味はない。俺は俺で、別の女の子でも引っ掛けよう。
――なんて、ほんの数時間前までは思ってたんだけどな。
◇ ◇ ◇
放課後、一度は友人たちと帰路についていたものの、忘れ物に気付いた俺は再び教室へと向かっていた。
教室へ辿り着くと、なにやら話し声が聞こえてきた。気にせず中に入ろうとするが、僅かに聞こえてきた言葉が扉に手をかけていた手を制止させる。
「転校生さ、やっぱり嫌な奴だよね。チャラそうだし、なんか早速色んな女子と仲良さげにしてるし……そもそも陽キャとかいう生き物は――」
俺の陰口を叩いて、なんかよくわからない陽キャ陰キャ論を展開しているのは、大野。
「いやお前それただの嫉妬じゃん……ていうかそもそも!お前にはいるじゃねえか!」
一緒に会話している男子生徒は、確か隣のクラスの――そう。
「いるって、誰が?」
「藤子町さんに決まってるだろ!あれだけ甲斐甲斐しくお世話してくれるなんて羨ましすぎるぜ」
「お世話ってなんだよ。僕は一人でちゃんと生活できてるよ」
「お前、起きるの苦手なのを毎朝起こしてもらって、弁当も作ってもらって、忙しい両親の代わりに晩ごはんを振る舞ってもらって、さらには家事までしてもらって……今更何言ってんだ……」
「そんなの彼女が勝手にやっているだけだろう。毎朝うるさいし、弁当だって毎日同じような味で飽きるし、夜だって折角一人なのに台無しだよ」
「お前……ああ、そっか。照れ隠しか。そうに決まってるよな……まあいいや、感謝はちゃんと伝えろよ。じゃないと愛想尽かされるぞ?」
「愛想?尽かされる?なんのことだよ」
「お前そりゃ藤小町さんはどう考えたって……いや……俺の口からは言わない方が……」
「なにをブツブツいっているんだ。そろそろ帰ろうよ」
「いや、まて。お前……藤小町さんのこと正直どう思ってる?」
「なにって。ただの幼馴染だよ」
「ただの幼馴染って……まあ今はそれでいい……のか?うーん……なんか頭痛くなってきたわ。もういいや、帰るか!」
二人が帰り支度を終え、扉に向かってくる。
「よしきた。ところで今日は深夜までゲームを――」
そこで、上田がようやく俺の存在に気付く。
「うお!……神楽か」
たった今教室に来たように振る舞いながら、声をかける。
「やっほ。忘れ物取りに来たんだ。二人とも今帰り?」
「あ、ああ。じゃ、じゃあな!ほら、大野帰ろうぜ!」
二人が足早に教室を後にしていく。
「おい、お前が最初陰口叩いてたの、聞こえてないだろうな……」
「聞こえてないだろう。そもそもたった今教室に――」
二人の声が遠ざかっていく。
彼らが去ったあとも、しばらくはその場に立ち尽くしていた。
不穏当な笑みを浮かべながら。
――ただの幼馴染だよ。
そう言ったのは、お前だからな、大野。
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