少女の話
木管あひる
第1話
今日も私はひとりぼっちだ。
休憩時間は教室の中では寝たふりか読書で時間を潰すことが多い。私は星野中学校に入学してからすぐに人生の挫折を味わった。
「言葉が分からない」
生徒はおろか先生の言葉さえ理解できない。かろうじてだが、教科書はなぜか日本語である。
その為なんとか勉強はなんとか理解できているが、自習してるようなものなので、学校に行く意味なんてあるのだろうか。
教室の生徒はおろか先生すら誰一人としての言葉も分からない空間は、13歳の私にとって不思議な世界だった。
「身振り手振りで何とかなるだろう」「日本語がわかる人もいるだろう」そんな甘い期待は期待でしかなかった。
周りの生徒は何とか私とも仲良くしようとしてくれていたが、誰も私の言葉を理解してくれない、お互い言葉が通じずジェズチャーにも限界を感じていたら、徐々に周りは私と関わりを持たないようになっていった。
「この学校にはなんで人間がいないの」
私の言葉は周りに理解できないので教室の中でも平気で思ったことを口にするようになっていた。
「心の声が制御できなくなったら、人間の街に戻った時にやらかしそー」
少女は頭を抱えながら苦悶の表情を浮かべる
休憩時間の教室は賑やかだった。雑音だけでなく私の視界に映る全てが賑やかだ。
紫色の肌で目が三つある子や、枝の様に細い茶色の子や、目がチカチカするような肌の色をした子など、形や色、本来の人間が持つ体の部位とは違いどれも統一性がない。
彼らがみんな違うのだから、私の姿も周りから見たら肌が肌色で目が二つあって口と鼻が一つのただの一人の生徒なのだ。
その為「人間だからこの教室では異分子だ」的な事にはならない。現に他の生徒から関わりを持たれないだけで、いじめられたりはしていない。
「言葉って何気なく使ってたけど、重要性にようやく気づけたわ」
英語の様に勉強すれば何とかなるかもしれない、という事にもならない。何語かすら分からないのだから。
「スマホがあれば何とかなったのかなー」
先月まで小学生だった私はまだスマホを持っていない。スマホを持ってる友達に何とか連絡をするために親のスマホを借りたことがあるくらいだ。
休憩時間も終わり、残りの授業も何とか終えた。
放課後になれば部活に行く生徒や教室で喋ってる生徒がいるが、私は放課後になった瞬間にスタートダッシュを決める
約一ヶ月この学校で過ごしたが。家の中が何十倍も落ち着いてしまうので放課後の時間が近づくにつれて早く帰りたい欲求が気持ちが大きくなってしまう。
学校から自宅までの距離は歩いて20分程度だ。途中に遊具が豊富な芝生の大きな公園があって、毎日色んな生物達が楽しそうに遊んでいる。
学校だけでなくこの街全てが色んな生物で賑わっている。
「ここって本当に日本なのかな」
親の都合で小学校卒業と同時に引っ越すことになった。まだ中途半端な時期に転勤ではなくて、卒業と同時の転勤だったから友達との別れの悲しみさえ乗り越えれば、中学校は何とかなるだろうと思っていた。
大体何校かの小学校から集まるから初対面も多くいるはずだと思い、楽観的に入学式初日を迎えたが、初日から全くもって大丈夫ではなかった。
この街が何県なのかも分からない、母に場所を聞いた時も何故か言葉が聞き取れない。何回聞いても聞き取れないので諦めた。
「あ、ポストなんか入ってる」
のんびり歩いているといつの間にか自宅に着いた。ポストに入ってたよく分からないチラシを片手に、ドアノブに手をかけて扉を開いた。
扉を開けると母がちょうど埃取りで棚を掃除をしていた。
「あら、桜おかえり、今日も早いのね、小学生の時は友達とよく遊んで遅くなってたのに」
「ただいまー、ってお母さんこの街の事分かってる?見た目はまだしも誰も言葉が通じないのに友達なんて出来るわけないじゃん」
母の言葉に呆れ気味の表情で言葉を返し、ついでに無言でポストに入ってたチラシを渡した。
「友達は言葉が通じなくても出来るんじゃない?」
「いやっ・・・。」
否定しようと思ったが確かに友達に言語は関係ないかもしれないと思い言葉に詰まる。
「ごめんごめん桜、冗談よ!言葉が通じないのが大変なのはよく分かってるわ、引っ越したばかりなのに色々フォローしてあげれなくてごめんね」
「いやママは謝らなくていいよ。ごめん、私も友達作り頑張ってみる」
「無理はしなくていいからね、もうちょっとでご飯も出来そうだから出来たらおいで」
小さく頷いて桜は口を開いた
「今日のご飯は?」
「ハンバーグオムライスよ」
「やった!」
桜は夕飯のメニューを聞いて、満面の笑みをしながら二階へ続く階段を駆け上がり自室に入った。
自宅の勉強机に座り今日の勉強の復習をする。昔から帰宅したらすぐ宿題を終わらせる癖がついてたので、自室に入ったらとりあえず机に座り勉強道具を出してしまう。
今日の復習をしながら桜はこの街の事を考えた。
人間ではない多種族の生物、全く理解できない言葉、それなのに街の風景は日本だし文字も日本語だ。
もし私がこの街で生まれ育ったなら違和感を感じずに過ごしてたであろうが、引っ越してくる前の小学校までは確実に日本だったから違和感しか感じない。
「ここは別世界なのかな」
私が日本のことをよく知らないだけで、ここは日本である可能性もあるし実際両親がここに引っ越してきて二人とも普通に過ごしてるから、私がおかしいのかな。
などと勉強しながら考えてるうちに一階のリビングから「夕食出来たわよ」と声が聞こえたので、返事をして勉強道具を片付けて自室をあとにする。
階段を降りたら食欲をそそる良い匂いがしてきた。
「わー美味そう!」
「でしょ、この前テレビでシェフが作ってたの真似して作っちゃった」
「へーすごいじゃん」
ふとテレビは普通に日本語だなと思いながらも、母の作ったハンバーグオムライスを口に運ぶ。
「んー美味しい!」
「よかったわ!味見してなかったのよ」
「えーーまたー」
ママはいつも新しい料理を作った時いつも味見をしていない、娘の私が最初の一口を食べて感想を言ってる。主婦は味見しないものなのだろうかと私はいつも思っていた。
「そういえばパパは?」
大抵の日は夕飯は父親と母親の三人揃って食べてるのだ今日はリビングいないことを聞いてみた。
「今日は少し遅くなるみたいよ」
この街に引っ越してきて父親がどんな感じで仕事をしているか気になったが、父は仕事の事はあまり話してくれない
「そうなんだ。パパも私と同じ苦労をしてるのかもね、人生の挫折」
「何それ、あんたまだ13歳なったばっかなのに挫折なんて感じたの?」
「うん、毎日」
「あのねー、本当の挫折って言うのは・・・」
母の言葉の途中で玄関のチャイムが鳴った
「お父さんかしら、鍵忘れたのかな?桜ちょっと玄関見てきてくれる?」
「はいはーい」
ママはキッチンに立っており手が離せないみたいなので、私は食事を中断して玄関に向かった。
玄関についたら再びチャイムが鳴った。
「パパ、じゃない?」
父親だったら無言でチャイムを鳴らさずに「開けてくれー」とか何かしらドア越しに聞こえてくるはずだ。
扉の覗き穴を確認してみる
「えっ」
私はびっくりして思わず勢いよく扉を開けた
そこには見知らぬ同い年くらいの女の子が立っており
私が勢いよく扉を開けたせいで少し驚いてた様子だった。
私は息を呑んで、無意識に呟いた
「・・・人間だ」
その言葉に見知らぬ女の子は少し微笑んで
「おかえり、桜ちゃん」
私に抱きついてきた。
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