不細工なその羽で

teppei

地獄

 それは刹那的な瞬間でありながら永遠に脳で再生されるようなそんな瞬間だった。

 打たれると確信したその瞬間は、どんなにきつい練習よりもどんなに嫌な先輩からの罵詈雑言よりよっぽど地獄だった。相手の竹刀が自分の頭を目掛け一直線に飛んできた。そう、まるで相手は美しいアゲハ蝶のような美しい羽をまとっていた。

「メーーン!」

 ふわりと飛んできた蝶は手に持った竹刀を俺の頭に叩きつけた。打たれた感覚などなかった。

「面あり!」

 それでも、審判は無情にも相手選手へ旗をあげた。俺の負け、そんなのどうでもよかった。俺、塚田しんやは、チームを負けさせた。悔しいとか申し訳無いとかそんなの全く感じなかった。心の中は何もなかった。この現実を受け入れたくなかったのだろう。夏の県大会、勝てば全国大会。負ければ終わりの試合だった。誰もがうち、西の里中学が勝つと思っていた。なんせ、もうこの大会はうちが12連覇もしているのだから。負けが確定した時のどよめきは今でも吐き気がするぐらい覚えている。

「あ、あの監督、お、俺、」

「俺たちは負けたもう終わりだ」

 監督の哀れむような目が俺を見下ろした。

 その後、俺はどうやって試合後の礼をしたのか、保護者への挨拶の内容、全てを覚えてない。というより、脳が完全に記憶を消している気もしなくは無い。学校へ帰る車の中。

「お前はまだ2年だ。来年もある」

 補欠の先輩が俺を慰めるように言った。

 心底腹が立った。お前は知らないだろう。

 エースとして、みんなの期待を一身に受けて試合上に立ち、震える足を抑えながら試合をすることがどんなにきついかお前は何も知らないだろう。

 初めて先輩に向かって本音を出した。もう先輩に気を遣うのもどうでもよかった。

「試合に出てから言えよ」

 先輩は何も言えなかった。

 学校へ帰り、主将の田中先輩から挨拶があった。

「明日からはお前ら2年が主体となってこの西の里を引っ張っていけ。それから1年生.....」

 正直聞く気になれなかった。



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