第115話 サンドランドの再出発
《サンドランド炎上!勇者大活躍!》
矛盾したセンテンスが、王都で発刊されている新聞の紙面上に躍る。
「何々……?サンドランドの移動要塞が魔王の分身に乗っ取られて超パワーアップ?!……それを倒す為に、勇者様はやむを得ず、秘技を使って国を焼き払ったのか……」
「けど、勇者様のパーティメンバーの方々や、特戦騎士団が逃げ遅れた市民を全て救助していたらしいな」
「それに勇者様は、今回の戦いで得た報酬金の全てをサンドランド復興の為に寄付したとか?」
「流石勇者だ……、違うなあ……」
「それに、魔王が言っていたらしいが、サンドランドの王は魔王に操られていたらしいじゃないか?」
「良かった……、悪い王様なんていなかったんだね!」
民衆達は、魔王撃退の報せを受け、純粋に喜び……、サンドランドの悲劇を悲しんだ。
ムーザランでは基本的に、弱みを見せたら身包みどころかリスキルされまくってホーンもアイテムも何もかもを奪われるのが基本。
しかしこの平和な、剣と魔法の世界ファンタジアスにおいては、建国王ヨシュアが齎した「道徳」の思想が浸透して久しく、多くの人々は素直に人の不幸に同情し、幸福に喜ぶことができていた。
故に、このような欺瞞に満ちた報道でもそのまま受け止める人が多く、また真実を知る人々は口を噤んでいた。
当たり前である。希望の星である勇者のスキャンダルなど、ない方がいいに決まっているのだから。
また報道関係の倫理は、建国王から後続の勇者らがガッチガチに厳しくしている為、かなりよろしかった。
勇者達はどうやら、マスコミに何らかの恨みがあるらしい。「オタク差別を助長したのは当時のマスコミで〜!」と、勇者達の弁。意味は不明であった。
少なくとも、アメコミに出てくるクソみたいな民衆レベルの終わった倫理観ではない。
2200年代の地球よりはよっぽどマシだし、その2200年代の地球の倫理レベルも、ムーザランと比べれば天の国。
つまりムーザランがあまりにも終わっているのだった。
そんなことを、この民度が異様に良い世界に対して、某月華の剣が呟いていたことは余談である。
さて、そうして、遍く民に欺瞞情報が伝えられた後の話。
元サンドランドの民は、救出されていた。
これは、大きな欺瞞の中でも、数少ない本当のことである。
もちろん、過半数の民が暴走した移動要塞に踏み潰され殺されてしまったが、サンドランドの心ある冒険者や騎士達がレジスタンス的行動をして、平民を守っていたのだった。
本来であれば、今までの勇者ならば、自らのパーティメンバーを引き連れて少数で行動し、このように、各地で抵抗しているレジスタンスをまとめ上げて首都の奪還を行うのがいつものことだったのだが……。
狂気に満ちた今代勇者は、軍勢を引き連れて全てを蹂躙しつつ制圧前進。
レジスタンスを助けるどころか、生存者を探すことすらなく、真っ直ぐ行って右ストレート(優しい表現)でぶっとばしたのであった。
これは、魔王にとって、完全に想定外のことだった。
今代の魔王こと、『簒奪の魔王ジャバヴォック』は、喰らった生き物やモノの力を奪って自分のものにできるという、極めて強力な力を持った存在。
建国王ヨシュアに倒された最初の魔王である『悪龍の魔王』に匹敵すると、サーライア王国のシンクタンクである『学園』は予想している。
更にその上で、今までの力押し一辺倒の魔族とは異なり、四天王を倍配置して『八魔将』とし、王都ダンジョンに配置したり、サンドランドに派遣したりと、戦術的行動まで行ってくる……。
到底、まともな勇者に敵う相手ではない。
しかし幸運(?)な事に、今回の勇者は色々な意味でまともではなかった。
実は、今回のこのサンドランドの件は、かなりの陰謀が張り巡らされていたらしく……。
まず、サキュバスなどの人の心を惑わせるモンスターをサンドランドに潜入させ、テオドア・モルドゲール・サンドランドを洗脳。
テオドアに叛逆を促し、正統なる王を殺させる。
そして、国富を徐々にすり減らさせて、人間を徐々に魔族と入れ替えて……と、用意周到だった。
勇者が現れたとしても、サンドランド王となったテオドアに逆らうレジスタンスや、一般的な平民の中にまで魔族を人に化けさせて配置し……、などと、様々な罠が用意されていた……。
が、しかし。
『月華の勇者』は狂っていた。
前述した通りに、人質、レジスタンス、罠……、全てを完全無視してRTAを決め込んできたのだ。
これには、魔王もたまげた。
消化途中だった先代勇者を放り捨てて、未完成の殺戮要塞を起動させるほどに。
本来であれば、サンドランドという国そのものを使って勇者を盛大に足止めし、その隙に先代勇者を完全に喰らって消化して全ての力を奪い……。
完全体となり、誰にも止められなくなった『殺戮要塞ズガガング』を、魔王軍八魔将の新たなる一柱とし、サーライア王国攻略の尖兵とする予定だった……。
が、もうなくなった。
罠は全て踏み潰され、人質は無視され、殺戮要塞も完成する前に破壊された。
本来であれば、知恵の勇者から奪った『技術チート』の力でAIを作り、それを殺戮要塞のコアにする予定だったのだが……。
勇者が王都で、自分が操っているテオドアを殺したとの報せを受け、焦って未完成の殺戮要塞を起動。
お陰で魔王は、遠隔で殺戮要塞を操作する羽目になり……、敗れた。
無論、ここまで策を練られる魔王は判断力に優れており、殺戮要塞が破壊された瞬間すぐに接続を切ったため殆ど被害はなかったが……。
寧ろ、問題があるのはサンドランドの国土の方。
火の海である。
常人であれば、触れるどころか近付くだけでも骨まで蒸発する灼熱のマグマがばら撒かれたサンドランドは、大気が熱された事によって起こった気候変動と、純粋な『力』であるホーン過多により発生した魔力崩壊現象により、砂漠より何もない死の領域にリフォームされていた。
まるで核ミサイルが直撃したかのような有様で、今後百年はペンペン草も生えないとの調査結果(学園調べ)が出ている。
一応、勇者パーティの(命懸けの)説得により、崩壊の元であるレストバーンの血涙ことマグマ塊は勇者が回収したが……。
サンドランドは、国としては今回、これで完全に滅亡したこととなる……。
ただ、悪い報せばかりではない。
先代勇者である、『知恵の勇者ルカ』を、殺戮要塞を勇者が食い止めている(という事になっている)間に、勇敢な女盗賊、勇者パーティのアニスが救出した(という事になっている)のだ。
蘇生された先代勇者ルカと、夫であるルカを助けてくれた(という事になっている)今代勇者に感謝しているエルフの女王が、技術と資金を提供。
それにより、サンドランドは勇者のチート能力で再開発され……。
途中で赤狐商会が勇者の名義を使って割り込んできて……。
今では立派な、砂糖プランテーションとなっていた。
他にも、サンドランド名産の宝石細工や、スパイスの類に小説本など、様々なものが作られて勇者に……正確には勇者の妻である神ララシャに献上された。
これには勇者エドワードもニッコリ。時間をかけて全てのマグマを回収し、荒れ狂った気候もルーン術で治めて、土地を開け渡した……。
丸く、ではないが。
上手く収まったというところだ……。
……余談だが、先代勇者ルカは引退を表明した。
簒奪の魔王ジャバヴォックにチートを破壊され、現在はあまり大きな力を行使できないこと。それと、本人が戦闘行動にトラウマができてしまったため、大人しく引退し……。
これからは、砂漠の国サンドランドの復興と、人類圏を豊かにするための産業活性化にて余生を過ごすとのこと。
少なくとも、一度魔王を倒した身であるからして、どこからも文句は出ず……。
エルフの女王は、「フラフラしてばっかりの旦那様が、これからはずっと私の隣に居てくれるのです!」と大喜びであった。
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はい、五章終了。
もう疲れました、しばらく休ませてください。
更新再開は未定です。
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