第109話 移動要塞スピリット

さて、俺が「風の塔」を攻略した頃。


「あっ!向かい側の塔の光が消えたにゃ!」


「特戦騎士団がやってくれたか……!流石は、王都の精鋭だな!」


「にゃあ〜!凄いにゃあ〜!」


向かい側の「土の塔」が特戦騎士団によって制圧されていたらしい。


そうなると、中央であるサンドランド王都に……、ひいては、そこに陣取っている『移動要塞スピリット』に、供給されていたエネルギーが全て断たれたことになる。


ちょうど今……。


「バリアが……、消えましたよ!」


バリアが、鏡の割れるような音と共に弾けて崩れ、消え去った……。


「行きましょう、エドワードさん!」


四つの守りを破壊し、中央の王都への道が拓けた。


さあ、最後は、移動要塞を潰すのだ。




「サンドランド……、あたしが捨てた故郷……。今思えば、良い思い出はあんまりない、かな。寧ろ、悪い思い出の方が多いよ?あの王に追われる身でさ、捕まったらアイツの子供を産めとか言われてたと思う。酷いところだよ、この国は……。でも、そうだとしてもっ!ここで普通に暮らしている人達に罪はないよ!……エド、あたしと一緒に戦っウオオオオオオアアアアアア?!!!!」


王都を前にして、アニスが急に主人公ぶってきて鬱陶しかったので、襟首を掴んだまま中央にある移動要塞に突撃することにした。


「えっえっえっ?!何で何で?!あたしのほら……、決意とかそういうの!!!」


「早く移動要塞の動きを止めろ」


「待って待って待って!ちょっとくらい話聞いてよぉ?!あたしにも心の準備が!!!」


「お、撃ってきたな」


「あああああーーーっ?!?!!!?!」


そうこうしている間に、どうやら移動要塞の射程圏内に入ったらしい。


で、移動要塞……。


まあ、大きさは全長2キロメートル程の、六本の足が生えて歩っている空母みたいなものだった。


フラットな鉄板の下に、恐らくはエンジンや燃料などがあるであろう本体がくっついており、その本体から球体の関節が六つ。


関節からは八本の足が伸び、足には対空砲が山ほどある。


他にも、各所に砲塔や滑走路があるからして……。


『『『『排除開始』』』』


『『『『殲滅シマス』』』』


『『『『敵、捕捉。射撃、開始』』』』


艦載機、つまりは機械兵が無数に……まあ少なくとも千機じゃ利かない数は現れたな。そいつらが一斉に攻めてくる。


それも、砲塔による遠距離射撃をしつつ、だ。


「んぎゃーーーーーっ!!!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅ!!!!死ぬってこれぇえええええっ!!!!!」


汚い悲鳴を上げながら、俺に運ばれるアニス。


大体にして、まあ見慣れない個体もいるが、過半数の機械兵は既知の形状だろうに。


多くはよく見る円筒型の機械兵で、それを降下させている飛行型機械兵も何度も見た。


遠距離砲撃型の戦車のような奴もよく見たものだ。


機械兵(大)と機械兵(獣)なんて、さっきは自分達も倒せていたのだから、怖がる必要性がないのでは?


確かに、恐らくは特戦騎士団が受け持った塔側にいたのであろう、機械兵(鳥)と機械兵(蛇)は初見だが、少なくとも機械兵(大)と機械兵(獣)と同程度の性能であることは察せられるはず。


余計な心配をするよりも、建設的なことを考えるべきだ、と。


俺はそう言いながら、降り注ぐ砲弾に爆弾を避けつつ、乗っている神馬オルガンの腰に拍車をかけた。


「そんな訳ないでしょおおおお?!??!!一体倒せたからってこの数うわああああああ??!?!?!」


おっと危ない、俺は一時的にアニスを宙に投げてジャンプし、爆弾の爆心地から素早く離れると共に、接近してきた機械兵(大)のビームソードを回避した。ついでに弓矢を六発撃ち返して撃破した。


そして空中でアイテム、いや、アニスをキャッチ。


「ァああぁ……」


ん……、服が濡れて……。


ああ、これはあれか。


また失禁したのか。


この世界の女は下が緩いんだな。シーリスもよく漏らしていたし、そういうものか。


「あ、その、これは……!う、うう、ひっぐ、えぐ……。見ないで、見ないでよお……」


なんかさめざめと泣き始めたが……。


「液体を出されると、グリップ力が弱くなるからやめろ」


「……あの、乙女の尊厳とか」


「尊厳は強者のみに許される贅沢品だぞ。舐めるな雑魚」


「は、ははは……。もう泣くこともできないよ、あたし……」


スン、と目の光の色を消したアニスは、それきり静かになった。


なるほど、こいつらの言う尊厳というものを毀損してやれば、やかましいこいつらを即座に黙らせることができるんだな。


やはり、NPCの細やかな行動からヒントを得て、行動を変えることにより、盤面を自分に有利にできるのは、ゲームの醍醐味と言っていいだろう。


最早俺には、現実とゲームの区別をつけることはできないが、少なくとも使えるものや有効な行動はやっていこうという、「利便性」の考え方はまだ残っている。


判断そのものに興味はないが、判断力はまだあるのだ。


なので今回も、使えるモノは使わせてもらう。


さて、静かになったアニスに訊ねるとするか。


「近づいてきたぞ、アニス。移動要塞の動きを止めるには、どうすればいい?」


「あたしをメインフレームにまで連れて行って。ブリッジに行けば、何とかなるはず……」


「つまり?」


「難しいかもしれないし、エドに頼りきりになると思うけど……、移動要塞の中に入るの。その中の一番奥に、操縦席があってね」


「……中に入れるのか?」


「うん。あたしは、移動要塞の防備が薄い場所を知っているから。道は指示するから、あの、従って欲しくて……!も、もちろん、エドがララシャ様のモノであることは重々承知なんだけどさ!その、今回はね?」


「そうではなく」


「へ?」


「内部から壊せばいいんじゃないのか?」


「それは……、無理だよ。『移動要塞スピリット』の動力は、『知恵の勇者』の最大にして究極の発明品……、『ブラックホールエンジン』だから。もしも破壊すれば、サンドランドが本当に砂だけになっちゃう」


ふむ……。


そんな広範囲が吹き飛ぶとなると、当然、ララシャ様にも被害が行くな。


ララシャ様は現在、半霊化して俺に着いてきていらっしゃるが、国が吹き飛ぶレベルの破壊が近くで発生すると、流石にダメージをお受けになる。


ララシャ様がお怪我をなさったら、俺は生きていけない。まあ生きていたいとは思わんが、とにかくそんなではララシャ様に顔向けができん。


簡単にぶっ壊すのは無しだな。


「分かった。操縦席に向かえばいいんだな?」


「う、うん!ありがとう、エド!」


よし、じゃあ行くぞ……。




「ア°〜〜〜〜〜ッ?!?!!?!ん"お"お"お"お"おおおおお?!?!?!」


「何で喘いでいるんだ?楽しいか?」


「違っ……ミ°ッ!!!死、死ぬッ!!!ほあああああああ!!!!!」


相変わらず小うるさいアニスを所持したまま、俺は移動要塞の脚の一本を駆け抜けていた。


「案内するって!案内するってあたしゆったの!ゆったのにい"い"い"?!!?!?!」


あー……。


「そう思ったんだがな、見ろ」


「へ?」


俺は、懐から懐中時計を引っ張り出して見せつけた。


「ララシャ様のお夕飯まで、あと三十分だ」


「……は?」


「三十分で終わらせる義務が、俺にはある」


「……え?……はぁ?!?!!?!」


「そういう訳で、お前のその悠長な案内には従えん。何、最後に操縦席に着けば良いのだろう?問題はないな」


「はぁあああ???!?!?!?!」






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https://kakuyomu.jp/works/16818093078208165334


新作。

ハイファン、異世界転生。

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