水の都スワンケルド編
第36話 スワンケルドへ
「んびゃぁ〜♡イケメンで、商売の話が分かって、八魔将をボコす程に強い男性とか、私にとってのスーパーダーリンですわぁ〜っ♡しかも、いの一番にお金になりそうな相談まで持ってきてくれるとか、もう本当に大好きぃ♡愛してますぅ〜♡♡♡」
そう言って俺に思い切りキスしてくるヤコ。
「こ、こらーっ!私だってまだキスしてないんですよ?!!離れなさい!離れろーっ!!!」
シーリスがキレて暴れる。
「そうだそうだー!狡いぞ女狐ー!」
野次を飛ばすアニス。
「あー……、えっと、とりあえず移動しません?」
苦笑いを浮かべるクララ。
なんだかんだとわちゃわちゃした後、全員で、赤狐商会の支店へと向かった……。
赤狐商会の支店には、既に、馬車の列ができており、移動の準備ができているように見える。
「旦那様?わたくしの方から提案があります、聞いてくださいますか?」
笑顔でそう言ったのは、やはり、商会長のヤコだった。
「言ってみろ」
俺はとりあえず、喋らせることにした。
無益な話なら切り上げればいい。
「無駄な話は省きます。確認だけさせてくださいな?旦那様は、『経験値』……、そちらで言う『ホーン』が欲しいだけで、他は何も要らない。これは確かですね?」
「ああ、今のところはそうだ」
「でしたら、次の行き先ですが、わたくしと共に『スワンケルド』まで行くことをお勧めしますわ」
「何故だ?」
「水の都、スワンケルド……。美しい河川が特徴の街です。が、しかし、最近はこの街の近くに『ダンジョン』ができたそうなのです。確かな筋の情報ですよ〜?」
ダンジョン……?
ダンジョンと言ったか?
「それは素晴らしいな、稼ぎ放題だ」
「ええ!まさにその通りですとも!ダンジョンはできたばかりで、情報が出揃っていない分、危険はかなり大きいですが……、その分大きなリターンが見込めます!」
む、いや待てよ?
ダンジョンならば、ボスを討伐すれば消えてしまうはず。
今この段階でダンジョンに行っても、無意味なんじゃないのか?
「ボスは早いもの勝ちか?」
「いえ?ボスは復活します」
えっ何それ????
やりたい放題できるじゃん!
どれだけマラソンが捗ることやら……。
「但し、お宝は早い者勝ちです」
お宝とか要らねえよ。
金は要らんって言ってるだろ。
「もちろん、お宝にはご興味がないことは承知ですわ。ですが、持ってきてくだされば、こちらでお金に替えておきますよ?」
「金は要らん」
無意味だからな。
「そうでしょうか?貴方の愛するララシャ様……、大きくなられましたねえ?」
む?
「そうだな」
「とてもお美しいですわ!……で、このお美しいララシャ様を、貴方と共にその辺の宿で寝せるので?」
……なるほどな。
「確かに、ララシャ様を粗末に扱うことはできんな」
「ええ、ええ!そうでしょうとも!お金さえあれば、貴方の愛するララシャ様に相応しい館を建てられますよ!」
うーむ……、その観点はなかったな。
だが確かに、ララシャ様に館とか美食とか、色々と献上したい気持ちはある。
ララシャ様ご本人は、気にしていないとは仰られているが、それでも、いい加減その辺の宿で暮らすのはなあ?
ララシャ様は、本体は月そのものだけど、操作する分体は基本的にムーザランの『月華城』にいらっしゃったし、館くらいプレゼントしなきゃ伴侶の名が廃るよなあ!
うむ……、よし!
「宝を持ち帰れば良いんだな?」
「ええ!ええ!モノさえ持ち帰ってくだされば、些事はこちらで全て処理しますわ!」
そうして、その十分後に、俺達はもう馬車の中に座り、街を出ていた。
俺は、馬車に乗って移動とかトラウマしかないので遠慮したが……。
え?ああ、ムーザランでは、馬車に乗る時は強制移動の時だけなんだよ。
基本的にムーザランの価値観では、馬車に乗る奴は病人か罪人か、もしくは女子供かだ。
男や戦士は皆、直接馬に乗り、力を誇示するのがマナーというか風習だった。
なので、プレイヤーである聾の者も、基本的には馬車には乗らない。強制移動……、嫌なエリアに連行される時とか、そういう時だけ馬車に乗せられる。
そんな訳で俺は馬車が嫌いだ。
あと、愛馬である神馬『オルガン』に接していたいので、基本的に、移動の時にはオルガンに乗る。
『ヒヒーン!』
「えっやば」
全員の顔面が崩壊している。
どうしたんだろうか?
「どうした?」
「えっ、そ、その、馬鹿でかくて立派な黄金鎧を着込んだ、金色の光を発する白馬は?」
シーリスが訊ねてくるので、端的に答える。
「俺の愛馬、オルガンだ。普段は霊体として俺の周囲を彷徨い、俺が呼び掛ければ実体化する」
「……何で!貴方は!そういうチートをするんですかっ?!!!」
は?何が?
「お金とか全然気にしない癖に、何ですかこの豪華な馬はー!」
「ん?ああ、オルガンの鎧は黄金じゃないぞ」
「あ、そうですか?良かった……、この量の黄金とか、普通に遊んで暮らせるレベルですからね……。あまりに成金趣味だと嫌味ですもん」
「これは火廣金(オリハルコン)だ」
「いやそれ神話でのみ語られる神の金属ゥーーーッ?!!!!」
そんなことを言われても……。
設定を作った社員に文句を言ってくれ。
「……因みに、どれくらい強いんですか?」
え?オルガンの強さ?
そんなんでもないけどなあ。
精々……。
「この前の八魔将?とか言う奴なら、二、三体いても倒してくれるんじゃないか?」
……ってくらいだ。
「チートやめません????」
いや、チートなんてしてないが。
大体にしてVRゲームでチートなんてできる訳がないだろ。
旧世紀のテレビゲームみたいなよわよわサーバならまだしも。
そんな無駄話をしながら移動していると……。
『ガギャギャ!!!』
あ、ゴブリンだ。
小人型のエネミーだな。
周りの奴らはゴブリンのことを「醜い化け物」とかいうが、ムーザランのエネミーと比べれば可愛らしいじゃないか。
まあエネミーなので殺すが。
「オルガン」
『ブルルッ!』
オルガンが前足で地面を叩くと、黄金の魔法陣が発生して、そこから黄金の矢が出てくる。
それは、金色の雷で、放電しながら回転し、しばらくオルガンの近くを滞空する。
ゴブリンが充分に近付いて来た、その時……。
『ヒヒーン!!!』
オルガンが大きく嘶く!
その瞬間、滞空していた黄金の雷矢は、音速を超える勢いでゴブリンを貫いた!
『ピッ』
断末魔も残せずに消滅するゴブリン。
ついでに、道には、高熱のあまりガラス化したデカい穴が空いた。
「……チートじゃないですかあ?!!!!」
いや、チートじゃないよ、仕様だよ。
それにこれ、軌道が真っ直ぐだから対人ではまず当たらないし……。
威力も見た目通りで、大したことないしな。
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※作者からのお願い
他にも投稿してるんで読んでください……。
あと評価やコメントもください……。
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