第26話 薄汚いスリ

ドワーフ鍵とやらを貰った。


キーアイテム欄に保存されたので、どこかしらで使えるのだろう。


礼を言って武具屋とやらを出ようとしたのだが……。


「いや待て待てーっ!問題が解決してないんですよぉ!」


と、シーリスに呼び止められた。


あー……?


ああ、そうだったな。


鎧と武器か……。


「どんなものなら良いんだ?」


「そうですねえ……、エドのイメージはララシャさんと同じ青色ですかね?でも、ララシャさんと違って黒色の要素もあると思います」


『ララシャ様と同じ』青か。


中々分かっているな。


「で、軽装から中装くらいの動きやすい鎧と、もっと見た目のいい剣とナイフ、それと綺麗な盾なんかもあると見栄えが良いですね」


軽量中装、直剣短剣二本差し、中盾。


「アクセサリーもあるとなお良いです!」


装飾品いくつか。


なるほど、となると……。


《謀叛剣士の鎧》

《謀叛剣士の手甲》

《謀叛剣士の足甲》

《「堕ちたエレシア」より離叛した剣士達の鎧。飾り布を腰に巻き、真銀と黒い魔獣革を使った動きやすい中量装備。

美麗な青い飾り布は、美しきエレシアのかつてを偲ぶ名残なのだろう。

理力で編まれたその青布は、理力属性への耐性が高い。》


《聖騎士の剣》

《「聖都レイスティール」を守る聖騎士の剣。

旋律の加護を失って久しい聖都を、それでもなお守護し続ける聖騎士は、もはや思考すらしていない。死灰と化した肉体を動かすのは、在りし日の使命だけである。

赤い聖石が嵌め込まれたその剣は、微かに聖属性の力を持つ。》

《魂喰いの短剣》

《おぞましき業「魂喰い」の為の儀式用短剣。

それは、失われし旋律の加護を人の手で取り戻そうという思い上がりであり、禁術である。

致命攻撃の際に、大きなダメージを与える。》

《茨紋のカイトシールド》

《生命の象徴たる茨の紋章が刻まれたカイトシールド。

スタミナの回復速度が上昇する。》


《金花のタリスマン》

《金色の花を象ったお守り。

古来、ムーザランでは、花とは富の象徴であった。

金色のそれは、取得できるホーンを増加させる。》


「こんなものか」


「……あるんなら最初から着てください!!!」


そんなことを言われても……。


普段着が鎧なのはおかしいんじゃないか?




装備を一新した俺は、周りの視線が違うことに気がついた。


いや、実際のところ、周りの視線を今まで気にしたことは殆どなかったのだが……。


注目されている、視線が集まっていると、やはりこちらも気がつきやすいものだ。


見られている、確実に。


確かに、今の俺は、いつもの平服と違い金を持ってそうに見えるんだろうな。


ムーザランの服装は、馬鹿みたいに奇抜なのか、馬鹿みたいに立派なのかの二択だからな。普通の服は少ない。


全身キラキラ黄金鎧とかもあるし、そういうものを着ていると人の目を惹くってことだろう。


ムーザランでは、おかしな奴がいてもみんなスルーするからさあ……。


褌一枚でNPCに会いに行っても、「奇抜な格好だな」とか言われるくらいでスルーされたし……。


ララシャ様も、褌一枚は流石に怒られたけど、基本的にズボン履いてりゃ怒らないしな。


いかんいかん、価値観をアップデートせねば……。


「にしても、めちゃくちゃカッコいいですね……」


シーリスが、俺をうっとりとした目で見つめている。


「黒の革鎧、銀の金属装甲、青色の見事な刺繍の布飾り……。そして聖剣と邪剣!光と闇が合わさり最強に見えるというやつですね!!!」


意味わからん。


まあ、嬉しそうだしいいんじゃないかな。


放っておこう。


「きゃっ?!」


そんなとき、シーリスが人とぶつかって転んだ。


「へへっ、ごめんよ」


「もうっ!ちゃんと前向いて歩いてください!……ってあれ?財布がない?!!」


あ、スられたなこりゃ。


「ま、待てーっ!」


全く、面倒だな。


俺は面倒が嫌いなんだが。


手のひらに投げナイフを呼び出し、手首の返しだけで最速投擲。


「い、ぎゃあっ……!」


ナイフは、スリの女の太ももに深く突き刺さった。


たまらず、スリ女は倒れ込む。


「エド?!な、何もそこまですることは……!」


「はぁ……?敵だろ?」


「スラムのスリですよ!別に敵じゃありません!」


んん、よく分からないな……。


害を与えてくるのに敵ではない……?


つまりどう言うことだ……?


「良いですか?エドの世界ではどうだったのかは知りませんが、この国ではスリくらいなら罰金刑くらいのものです。殺すほどの罪じゃないんですよ」


「????」


つまりエネミーでは?


エネミーを殺してはいけないとはこれいかに?


「殺しちゃダメ、分かりましたか?」


「分からんけど分かったぞ」


なるほど、つまり、まだ殺さない方がいいみたいだな。


確かに、スリとか騙して悪いがとか、そう言う小悪党を見逃すと長期イベントに入るからな。


恐らくはこいつも何かしらのイベント持ちNPCなんだろう。


別にイベントには興味はないが、フラグを立てておくのは無駄ではない。


シリーズを通して、盗賊系騙して悪いがイベントでは、特にデメリットがない割にリターンが高いのが通例だからな。


強いて言えば、デメリットは拉致られて強エネミーに囲んで棒で殴られるくらいのものか。


「おい、お前」


「ひ、ひいっ!」


スリの女は竦み上がった。


どうやら、片足に投げナイフが刺さった程度でもう動けないようだ。


俺みたいな聾の者は、十回くらい切腹しても死なないと言うのに……。


この世界の人間には根性がないな。


「ご、ごめんなさい、た、助けて!」


怯え切った表情で、動かない身体を引きずり逃げようとするスリ女……。


そんな時に、裏路地からガキが数人飛び出してきた……。

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