第24話 犬と狐

そんなことを言われましても。


ガチで使えんのだもの。


「まあほら……、囮にはなってるし」


「だとしたら、もっとマシなのを派遣しますよ?」


ヤコがそう言った。


うーむ、確かになあ。


もっと丈夫ですばしっこいやつとかいるだろうな。


術を教えてくれる系NPCだと思っていたが、どうやら違うっぽいし……。


俺が悩んでいると……。


「ふ、ふふふ……、ええ、認めましょう。確かに、今の私は囮に過ぎません……」


と、シーリスが立ち向かってくる。


「ですが!エドの囮役をこなすのは、並の人間には不可能なんですからねっ!!!」


ふむ?


「私は、食糧と水だけしか用意していない中、二週間ぶっ通しで森の中を駆けずり回ったんですから!私の代わりに囮役を用意するというならば、それができる人を呼ぶんですねっ!!!」


「う、嘘でしょう?!モンスター除けのお香も、毛布もテントも松明もなしに、食糧と水だけ持って二人きりで森に?!!貴女、頭おかしいんじゃありません?!!!」


「なんとでも言ってください!とにかく、エドは渡しません!!!」


「きぃー!」


「ふしゃー!」


アホらしいな……。


モンスターの死骸は、合計で500000Gで売れた。


どうやらヤコは、買取額から借金返済額を減らして、報酬として五十万ゴールドを渡してきているらしい。


阿漕なことはやっていないとは言っているが……、高ランクモンスターの素材は需要が高く、末端価格では、俺に渡した五十万ゴールドの十倍近くは稼げているそうだ。


「因みに、バカみたいな額の借金さえなければもっと取り分をお渡ししますよ〜?」


とのこと。


「具体的にどれくらいだ?」


「あら?お金には興味がないのでは?」


「もちろんそうだが、だからといってぼったくられていたら潰すに決まっているだろう?捨て犬がついてくるくらいなら許容するが、寄生虫がまとわりつけば踏み潰すぞ」


「なるほど、道理ですね。ですが、商売のことなど分かるのですか?」


うーん、経済学部だったし、暇潰しにムーザランのあらゆる書物は読んだが……。


「まあ、人並みにはな」


俺の、そっち方面の才気は人並みじゃないかねえ。


と言うより、俺は秀才ではあるが、あらゆる分野で天才にはなれない感じだ。


素養としては器用貧乏なのだが、うん千年にも渡るアホみたいな経験値で無理矢理レベルを上げて、器用万能になっているという厨キャラだなあ。


「そうですか……?では、分かりやすく説明させていただきますと、我が商会は流通管理とそれに伴う卸売、小売業をやらせていただいております。もちろん、自社で職人を抱えて加工工程をグループ内で行うことにより、売上原価率を下げる努力もしております」


ふむ。


売上原価率ってのはまあ、高けりゃ高いほど原価の割合が大きくて儲かりにくいってことだな。


となると……。


「察するところ、売上原価率の高い卸売業は民間向けで、今回の高ランクモンスター素材のような奢侈品は王侯貴族などに直接小売していると言ったところか?」


「あらあらあらあら?お分かりになるのですか?では、もう少し込み入ったお話ですが……、部門的には卸売の方は粗利が〜……」


「ふむ?寡聞にして存じ上げないのだが、こちらの輸送システムでは卸売業でこの粗利を維持することは困難なように思える。察するところ馬車による〜……」


「はい、まさにその通りでございます。馬車によるピストン輸送のシステムと、こちらの物流を管理するシステムを導入いたしまして、これは我が商会の全グループにマニュアル化して〜……」


「なるほど、理解できる。だが、基幹となるシステムの割には複雑化しているのでは?例えば、物品によって包装のカラーを変更するなどの簡単なアイデアで誤配送は減らせるように思えるのだが〜……」


「素晴らしい提案ですね!ですが近年のリオルム大学の研究によると、種族によってイメージできるカラーの違いがあるそうなので〜……」


「なるほど、その可能性は考慮していなかったな。であれば、包装に記号などを入れるのはどうだろうか?その為には印刷という技術があり、具体的には活版というもので〜……」


「大変に将来性があるお話ですわ!活版印刷についての技術は、建国王ヨシュア様の覚書と遺された魔道具がありますが、内部はブラックボックスになっており詳細が不明でしたので、ここで情報を得られたのは千金に値します!であるならば今後は〜……」




……ふう。


久々に商売の話ができた。


懐かしい気持ちになったな。


それに、面白い話ができた。流石は商会長だ、この世界の経済やビジネスについてよく知っている。


シーリスはアホ過ぎて話が合わないからな、話が合う知能レベルの奴がいると色々と助かるものだ。


究極的にはララシャ様一人いれば世界なんてどうでもいいのは置いておいて、だが。


「あの、エドワード様?」


「ん、どうした、ヤコ?」


「わたくし達、本気で結婚しません?Bランクモンスターを瞬殺する剣士で、しかもその上、それなりの商人であるわたくしと対等にビジネスの話ができる人とか、この世に二人と居ないですし……」


「いや、やめておけ。善意で言ってやるが、俺は稼げもするが負債も呼び込むタイプだぞ。商人なら博打はやるべきじゃない」


「んんん〜……、魅力的な博打ならむしろやるのが商人ってものでは?」


「外れた時の損害がデカ過ぎるだろ」


「そうなんですよねえ……。でも、そんなに有能なところを見せられますと、貴方になら賭けてもいいかなーって気持ちになってしまいます」


「これからも契約通り、優先的な素材調達依頼を受けるから、それで我慢しておけ」


「ううー、いつかわたくしの商会がもっと大きくなれば、貴方を迎えにきても良いですか?」


「まあ、そこまで言うなら好きにしろ」


「はい!多分商会の名誉副会長ということで内勤を中心にしつつ、どうしようもない時に出撃して貰えば問題ないと思うんですよねえ。あ、そうだ、今夜一緒にディナーはどうですか?」


「こ、こらーっ!」


あ、シーリス。


そういやいたな。


「な、なんか、私がよくわからない難しい話をして、どうして仲良くなってるんですか?!!」


「そんな難しい話をしたか?」


「わたくし達にとっては簡単な話でも、一般人からすれば難解な話なんですよ、エドワードさん」


なるほどなあ。


「ダメですから!エドは私のです!」


「ああはい、別に、こちらとしては英雄とやらになってからでも構いませんので?今や、エドワード様の強みは、戦闘能力だけではないと分かりましたから」


「だっ、ダメ!エドは、エドは私のなんです!ずっと私と一緒にいるんです!!!」


「はあ、そうですか。まあ、お好きになさってくださいな。わたくしはわたくしで動きますので」


「うううー!」


まあ、こんなところか。

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