第23話 女狐の媚

アホの介護をしながら、森の奥まで辿り着いた。


確か、相手はサイクロプスという奴だったな。


「サイクロプスとはどんな奴だ?」


ムーザランにもサイクロプスはいたが、ムーザランのサイクロプスはちょっと色々と洒落にならん存在なので、その可能性は除外する。


恐らく、ムーザランのそれとは違う、サイクロプスと呼ばれる別の何かがこの世界にはいるんだろう。


ムーザランの常識は捨てなければ。


「サイクロプスというのは、三メートルくらいの一つ目巨人です。目から電気のビームを出すらしいですよ」


電気のビームとは????


ま、まあいい、雷属性攻撃をしてくるとだけ覚えておけばいいだろう。


さあ早速、サイクロプスとやらを探そうか。


と言っても、森の中に三メートルの巨人(三メートル程度ではムーザランでは人の範囲内だが)がいれば、嫌でも痕跡は大きく残る。


すぐに見つかるはずだ。


「足跡がある、こっちだ」


「え?どこですか?」


「ここだ、ここの草が薙ぎ倒されているだろう?三メートルほどの直立する人型がここを通ったことが分かる」


「いや分かんないですけど……?」


「まあお前は囮になればいいから、邪魔しないようにしてくれりゃそれでいいよ」


「なっ!まだ言いますか?!私も頑張りますよ!」


「いや、いいからその辺で遊んでろ」


「もーっ!また馬鹿にしてーっ!」


「来たぞ」


『グオオオオッ!!!』


「ひえええっ?!!!もっと早く言ってェ!!!」


お、早速来たな。


確かに、一つ目の巨人だ。


頭に一本ツノ、顔の真ん中に大きな瞳が一つ、髭を生やし、筋骨隆々の黒肌。


どこから持ってきたのか、丸太のような棍棒を振り回しつつ、襲いかかってきた……。


「ぎゃー!きゃー!むりこれ死ぬ死ぬしぬしぬぅ!!!!」


お、助かるな。


早速、囮の役割を果たしてくれているシーリス。


ええと確か、外傷が少ない方が良いんだったな。


シーリスを追いかけて、俺に背を向けているアホな木偶の棒に後ろから襲い掛かり……。


「バックスタブだ」


『ガギッ』


飛びかかって、首を斬り取った。


「うぇ……?い、一撃ぃ?!」


そうなのか?


「でも、一周目のドラゴンより遥かに柔らかかったし……」


「ドラゴン?!ドラゴンと戦ったことがあるんですか?!!」


まあ、そりゃあるが。


その辺はどうでもいいだろう。


とりあえず、サイクロプスを回収する。


「おおっ!アイテムボックス!勇者の使う時空魔法!」


あっそう。


もう色々と分からんのでスルーだ。




そんな調子で、モンスターとやらを始末した。


「サンダーバードです!雷を操るらしいですよ!冒険小説で読みました!」


「そうか」


「え?槍?!槍なんて届きませんよ?!飛んでるんですよ相手は!」


「いや、これは槍じゃない。矢だ」


「………………はぇ?何ですそのバカでかい弓????」


「武技発動、『貫通射撃』」


『クエエエエッ!』


「うわえっぐ……」




「あっちはワイバーンです!尻尾に毒があって、火の玉を吐きます!」


「そうか」


「……何ですかそれ?」


「バリスタだが」


「なぁーんで攻城兵器持ち歩いてるんですか貴方はぁーーー?!!!」


「『貫通射撃』」


『グエーッ!』




ふむ……。


ホーンは、この二週間の活動で、やっとやっと20000になった。


ララシャ様も、良い調子だと仰せだ。


効率は悪いが時間は無限にあるのだ、この調子でやっていけばいずれはララシャ様も力を取り戻すだろう。


焦る必要はないと仰せになったからなあ。


確かに俺もララシャ様も切羽詰まっている訳じゃないんだし、焦らなくてもいいかと思い始めている。


さて、三連続での討伐クエストだが。


ギルドにも依頼達成(受けていないが)の報告をした後、赤狐商会にも寄る。


品のある鉄門をくぐり……、ムーザランの、どこか寂しげで冷たいそれらとは違い、血の通っているかのような人の温かみがある店へと立ち入る。


古びて風化してもいない、生き物の気配がする上品な建物だ。


使用人に案内され、建物の中庭、庭園に向かった。


そこは拓けた平地で、何かしらのイベントホールのようになっていた。大理石らしい石畳はよく磨かれていて、少し眩しい。


「イベントをこなした」


そこに俺が、三体のモンスターの死骸を放り出すと、会長のヤコは挨拶もそこそこに興奮し始めた。


「うひょー!うふへへはへへへ!!!」


高速で算盤を弾きながら悦に浸る狐女は、なんかそういうエネミーなのか?と思ってしまうような狂乱ぶりだ。


そして、手元の書類にサインを書き入れて、部下の男達が死骸を倉庫へ運び終えると……。


「エドワード様!結婚とかぁ、興味ありますぅ?」


無駄に胸を寄せて上げたヤコが、しなをつけてすり寄ってきた。


「特にはないな」


「えー?わたくしとかどうです?家計簿つけるの上手いですよぉ〜?」


「金の管理なんざしなくても困らんからな。別に金なんて要らんし……」


「えっ最高のカモじゃん。……んんっ、ゴホンゴホン!わたくし達ぃ、お似合いだと思うんですぅ〜!」


何だこいつ……。


「ちょい待てぇい!エドは私と英雄になるんです!胡散臭い商人と結婚なんて許しませーん!!!」


あ、シーリス。そういやいたなこいつも。


「あ、見窄らしい捨て犬さんじゃないですか」


「だーれが捨て犬ですか?!」


「貴女ですよぉ?赤狐商会の情報力を舐めないでくださ〜い。聞いてますからねえ?」


「な、何をです?」


「貴女ですよね?『ファイアアロー』しか使えない無能魔法使いって。もう二年もEランクのままだとか……」


「う……、そ、それは……」


「良いご身分ですよねえ?エドワードさんが何も知らないのを良いことに、寄生プレイして経験値泥棒だなんて」


絶対零度、冷たい冷たい蔑みの視線。


「わ、私は……、わたしはぁ……!」


それを受けて半泣きになるシーリス。


全く、見てられないな。


「まあ待て、ヤコ」


俺が割って入る。


「エド……!」


パッと明るい表情になるシーリス。


「こいつ、びっくりするほど使えないぞ」


「おま、おまおま、お前ェーッ?!!?!!!そこは庇う流れでしょうがあああっ?!!!!」

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