第7話 街へ

「おやめなさい、セレスティーナ」


「やめよ、我が剣」


「「はい」」


とりあえず、会話をすることに。


「わたくしは、サニー・ローレシア・グッドウィルと申します。このルーカスター領を治めるグッドウィル伯爵家の長女ですわ」


ふむ、なるほど。


年齢は十五歳前後、因みに、金髪ポニテのバカ女は十八くらいか。


まだ、何も知らないガキと見ていいな。


そもそも、女なんて統治に関わらんだろうし、こいつに文句を言っても恐らく無意味だろう。


「俺はエドワードだ」


「エドワード様と言うのですね、素敵なお名前です!」


はあ。


エドワードの名前は、近所にある川が江戸川って名前だったから名付けた、三秒で考えた名前なんだがな。


「エドワード様は、どちらからいらした方なのですか?」


「ムーザランだ」


「ムーザラン……?すみません、寡聞にして存じ上げませんが……、ムーザランとは何処の国なのでしょうか?」


「別の世界だ」


「別の、世界……?!」


ん?


この世界では、別世界じゃ通じないのか?


ムーザランには、ムーザラン以外にも「鏡の世界」とか「地下世界」とか、別の世界があったんだが……。


「それはまさか、建国王ヨシュアと同じ、異世界転移者と言うことでしょうか?!!」


……はぁ?


ヨシュアって誰だよ。


ああ、いや、そうか。


さっき手に入れたこの金貨に書かれている「建国王の肖像」とやらの人物ってことか。


「そのヨシュア?とか言う奴と同じ世界から来た訳じゃないから、何とも言えん」


「それでも、とても凄いですわ!まさか、転移者さんだなんて!わたくし、初めて見ますわ!」


はあ、そうですか。


「で?話はそれだけか?」


「いいえ!助けて頂いたのに、何もせずに帰すなど貴族の名折れですわ!何かお礼をさせてくださいな?」


くださいなって言われてもよ……。


「特に必要なものはない」


「そう、なのですか?お金とか……」


「金なんて要らん」


あっても使い道がないからな。


「な、なんと……!」


あぁ?


「なんと、無欲な方なのでしょう!わたくし、感動いたしました!」


はぁー?


「せめて、当家でお食事だけでも食べていってください!」


はぁーーー?


「いや、別に良い」


「そう言わずに!」


「面倒だ」


「お願いです、何かさせてくださいませ!貴方様は、わたくしの命だけでなく、わたくしの大切な騎士であるセレスティーナの命まで守ってくださったのですから……」


うーん……。


「じゃあ、街まで案内してくれ」


「もちろんです!我が館までご案内いたしますわ!」


そう言うことじゃないんだけどな。


ただ、街とやらには行っておきたいだけだ。


まあ良いや、NPCとの友好関係は何かしらに使えるだろ。




「しかし、お嬢様……。御者と馬が死んでしまっております」


金ポニテ……、あー、セレスティーナだったか?


セレスティーナがそう言ってきた。


「まあ、これは……!かわいそうに……、せめて安らかに……」


サニーは、倒れ臥す御者の老人と、馬の瞳を閉じてやり、祈りを捧げる。


なるほどな、まあ、悪い奴ではないんだろう。


いや……、あの制作会社なら、こうやって表面上は良い奴アピールさせておいて、いざ敵対だとなればクソ外道行為をしてくる……、なんてのはあるあるな話だ。


警戒は怠れないな。


んん?いや待てよ?


そもそもこの世界は、あの制作会社のデザインした世界とは違うんじゃないか?


ムーザランではない、んだよな?ララシャ様もそう言っていたはずだ。


それならば……、もしかして、もしかすると。


もっと、もっと、マシな世界なんじゃないか?


まともな人間が死ななくて、友人を守れて、愛する人と穏やかに過ごせる……、そんな世界なんじゃないか?


いや、そんなはずはない。


だが、いや……。


……とにかく、今は移動することだな。


馬が死んでしまっているならば、歩きで行くしかあるまい。


蘇らせることもできるが、そこまでやってやる義理はない。


第一、壊れた馬車は修理できないしな。


「ここからどれくらいで街に着くんだ?」


「歩きなら……、二日ほどでしょうか」


遠っ。


仕方ない……、オルガンを呼ぶか。


俺は、特殊な吹き方で指笛を吹いた。


ピィ、と言う音より、どちらかというと、フクロウの鳴き声のようなホゥ、と言う音がする。


その、低い指笛を聞きつけたオルガンが、金色の霊子としてそこらを漂っている不確かな姿から、実体の神馬として確立して、虚空から現れるのだ。


『ヒヒーン!』


うっすらとした記憶の中にある、ばんえい競馬の馬などよりも、はるかに大きく立派なオルガン。


その逞しさと美しさに、サニーとセレスティーナも目を奪われる。


「す、凄い……!」


「なんと立派な……!」


まあ、確かに、そこに転がっている死んだ馬は、このオルガンと比べれば二回り以上小さい。


この世界基準だと、オルガンは大きい部類なのだろう。


なお、ムーザランの敵エネミーはオルガンの倍くらいデカい馬に跨っているケースも少なくない。


「さあ、後ろに乗れ。街へ行くぞ」

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