エピソード5「レベリングはつらいよ」

第47話 フギンのブートキャンプ

 九十九は〈予備肉体スペアボディ〉にこのゲーム内の九十九の容姿をトレースさせ、MIAによる自動操縦でアールセリア達の前に立たせる。

 本体の九十九はを烏天狗風の兜をした甲冑騎士の〈立体迷彩3Dカモフラージュ〉を装う。巣文字達を叩きのめした時の口が動くものではなく、黒いドラゴンを狙撃した時のバージョンだ。


「皆の衆、拙僧がフギン・ムニンだ。え~っ、本来はその九十九とその仲間たちだけを鍛えるつもりであったが、今日は急遽、飛び入りの〈輝きの狼〉なるものも加えて、鍛えてやろう!」


 〈黒樫の森〉の入り口で、烏天狗風騎士フギン・ムニンの九十九は、目黒、新代田、川崎、MIAの操る九十九、アールセリアとクロカッド、〈輝きの狼〉のリッド、メタロ、スパオの前で口上を述べた。

 皆、冒険者的な武装をしており、アールセリアも例外ではない。いつものドレス風の服の上からブカブカでヨレヨレの皮鎧をつけ、左右違う老朽化した皮グローブをしていた。

 地面に直接座る9人の前で烏天狗風騎士は声を張る。


「おまえ達はこの世界で、誰に遠慮することなく堂々と生きたいと思っているだろうが、今現在では無理だ! なぜならば弱いからだ。弱い者はこの世界ではすぐ死ぬ! 家畜のように生きるというならば別だが、思うがままに生きるには力が必要だ。ではあるから今日は特別におまえたちを鍛えてやる!」


 当初、九十九はアールセリアだけレベリングしようかと考えた。しかしクロカッド達も鍛えた方がアールセリアの安全性が高まると考え直した。更にはいずれは目黒らにアールセリアの身の回りの世話をさせることも視野に入れ、同時に鍛えることを決めた。

 九十九はクロカッド・目黒らにはとても頼りになる冒険者が特別に鍛えてくれるという誘い文句を言って参加を促していた。


 フギンの言葉にアールセリアが大きく頷く。


「うむ! いちいちごもっともじゃ! みどもはそちとは初対面だが、その力強さに感銘を受けた! 是非に手ほどきを受けてみたいぞ」


だが、クロカッドは鋭い目でフギン・ムニンを見つめる。


「すまない。ツクモを疑うわけじゃないが……あんたの素性もわからない。その上に腕前もわからないのは少々不安だ。ちょっと俺と立ちあってもらってもいいかい? 」


 クロカッドの申し出を九十九は気に入った。アールセリアの身の安全を思えば、簡単にこんないかれた格好の男を信じてはいけない。


「不審がるのは当然。ただ立ち合いはよしておこう。わたしの法術は手加減は難しいのでな。こんな風に――」


 フギンは振り返ると同時に、〈衝撃波ショックウェーブ〉レベル2で樹を撃ち、根元から吹き飛ばす。

 今のフギンの立ち回りは〈立体迷彩3Dカモフラージュ〉によって、射撃ではなく、金剛杖を薙ぐように振るった動作に映る様に調整されている。


 ズッシンッ!!


 木が倒れると、振動で座っていた全員の体が一瞬宙に浮く。

 目黒ら、〈輝きの狼〉の面々は顔を真っ青にしていたが、アールセリアは微かにほほ笑みながら何度もうなずく。


「ふむふむ、あれは上位の〈突風〉の魔法じゃな? しかも無詠唱で、あの速度とはやるのう! やはりそちは只者ではないようじゃの! がははは!」


 九十九は冷静に解説する様に「さすがはアールセリア、腐っても貴族だ」と、思った。がよく見るとアールセリアの足がガクガクと震えていた。

 そんな中、目黒が恐る恐る手を上げる。


「え~と、お主は目黒であったか? なんぞ聞きたいことでもあるのか?」


「は、は~い。まずは前回わたくし達を軟禁していたところから助けていただき、ありがとうございます。感謝してもしきれません」


「うむ。拙僧は曲がったことが嫌いでな。世直しの一環と思ってくれればよい!」


「あ、ありがとうございま~す。また今日も三田くんを通して鍛えてくれるという申し出をしていただき感謝してます~」


「礼はもうよい」


「あ、あと一つ質問があります。フギンさんの格好はどうみても修験者なのですが~、フギンさんも日本から来たのですか?」


「日本? はてわからぬな。拙僧はジパンという東にある国から参ったものだ。ジパンにも修験者なるものがいるし、拙僧もそうだが日本は知らぬ」


 フギンは完全に出鱈目を言ったわけではない。ドローンで集めた情報の中に、どうもこの世界にも日本をモチーフにした国があるようだと掴んでいた。まだ詳細はわからないが「ジパン」なるワードは集中して調べていくことにしてある。

 目黒が続けて質問をフギンにしようとしたところで、不意に少年の声が響く。

 

「さっきの凄い音はなんだ? てか、川崎達じゃないか。何をしているんだ?」


 そう声を上げ、接近する影が4つあった。

 一人は金髪ソフトモヒカンの少年、一人は長身細身の釣り目の少年、一人は大きな眼鏡にキノコヘアの小柄な少女、一人は腰まで髪を伸ばした睫毛の長い少女――そんな面々が烏天狗騎士らに急接近してきたのだ。


「あっ、北六条くん!」


 金髪ソフトモヒカンの少年を見た新代田がそういった。

 現れた者たちは九十九たちと同じく転移してきた同じクラスの者たちだった。城に呼ばれなかった余り者たちだ。

 昨日までは個々に冒険に出たが、一人ではどうにもならないと急遽パーティを組んだ連中だというところまで九十九は把握している。

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