悪役令嬢は金策がお好き。

甘栗ののね

第1話 それは知らない記憶

 覚悟がある者は幸福である。


「……なに、今の」


 それは妙に現実味のある夢だった。


「あれは、私?」


 目が覚めるとぐっしょりと汗をかいていた。


 悪夢だった。すべてが不幸な夢だった。


 そして、すべてが自分だった。すべてクリスティーナ・クリスペールの姿の人生を映し出したものだった。


 ある夢では国外に追放され、暴漢に襲われて死んだ。


 ある夢ではイジメていたメイドに刺されて死んだ。


 ある夢では知らない少女を殺そうとして返り討ちにされた。


 ある夢では絞首刑に処されて死んだ。


 そして、ある夢では体を魔王に乗っ取られてしまい、最後は見知らぬ男女の集団により倒され、この世から消え去った。


 どれもこれも最悪の悪夢だった。そして、どれもが信じられないほどにリアルだった。


「……本当に、夢なの?」


 夢だ。と何度も心の中で否定した。けれど、否定すればするほど心の奥底からの声が大きくなっていった。


 違う。現実だ。これがお前の未来なのだ、と心の奥底から誰かが叫んでいた。


「まさか、そんなはずない。私は、私は聖女なのよ」


 クリスティーナは何度も何度も否定した。けれど、否定すればするほど夢が鮮明に脳裏によぎった。


「私は、私は光の力に選ばれた、選ばれた人間なの。だから、だからこんな運命なんて有り得ない!」


 有り得ない。有り得ない。有り得ない。


 でも、もし、これが現実だとしたら。


「夢よ、夢なのよ。絶対に、絶対」


 クリスティーナは悪夢を見た。それはまるで現実に起こったことのような夢だった。


「……でも、もし、これが本当になったら」


 それはクリスティーナ・クリスペールが五歳を迎える誕生日の朝のことだった。


「と、とにかく、どんな夢を見たのか、思い出すのよ」


 それは本当に夢なのか。それとも彼女の記憶なのか。


「私は、私は死なない。絶対に。だって、私は光の聖女なんだもの」


 これはとある自分勝手でワガママな少女が最悪の人生を逃れるための奮闘記である。

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