花と盃
くまだんご
一幕 鬼女
雨の日だった。
粒が大きく…一つ一つ…痛く感じるくらい…強い雨…
私は一人、ゴミ箱を漁っていた。
お母さんに
未来が無い。何も解らない。
生まれた時から、身体に赤い斑点があって…みんなに意味嫌われた。
…呪いだの…怨霊に憑かれているだの……“鬼”だの……。
色々言われた。……今ですら…
「あれ…人……だよね…?………気持ち悪っ…」
「……っ!?いや怪物だ……喰われるぞ…」
男女が逃げて行った。
……そう…こうやって…私を見た人は私を意味嫌う。
……今みたいに怪物や……鬼……『鬼女』だなんて呼ばれた。
お父さんは…不倫先の女に刺されて心中……。
私の味方はお母さんだけだったけど―――…
――もう…どうでもいい――
ゴミを漁り…収穫がなければ泥や雑草を食べる。
そうやって…あの日から飢えを凌いでいた。
それもこれも……お母さんの『呪い』のせいだ。
『すぐに戻って来るから……良い子で待っててね…?』
いつもの優しい顔で言われた。この『呪い』。
私はお母さんの為にも生き延びなきゃいけない……死んじゃいけない……。
それは…『悪い子』だから。
ザァァ―――――――…
雨粒の音が痛い。
今日の寝床を探そう。
適当な茂みに入り、そこで一夜を過ごす事にした。
空が暗くなって行く。
雨はまだ止みそうには無い。
今日は…何も収穫が無かった。
だから、泥と草を食べる。小さい私じゃ…それ以外の食べ物は…取れない。
泥棒は…悪い子。
良い子でいなきゃ……いけない…。
グゥ~…とお腹が鳴る。
食べなきゃ………
ぼやける視界で泥と草をかき集め、口に押し込んだ。
「んっ……うっ……ぅ…っ」
不味い。
もっと…美味しい物が食べたい。
お米…お汁……山菜………………。
そんな叶いもしない幻想に想いを馳せ…食事を終えた。
お腹も満たされたし…空は暗い。
もう…寝よう……。明日が来れば……お母さんが…迎いに来てくれるかもしれないから――…
「う…っ!?」
飛び起きる。
感じたことも無い程の激痛がお腹から喉に掛けて走る。
熱い。何かが登って来て…口に……ッ!!!
「おェッ…ォエェェエ……ッ!!!」
口から血が飛び出した。
激痛と一緒に、飛び出した血は…地面に落ち、血溜まりを作った。
「……あ…あぁ………っ」
なに?なんで?なに?…痛い痛い痛い痛い…。
血溜まりの上に踞る。
痛くて…熱くて…苦しくて……。座っていられない…………。
涙が溢れてくる。意識が朦朧としてくる。
苦しい……お母ぁ…さん………
………私…死ぬんだ……。
「人間の臭いがすると思えば――…ガキかよ…」
低い男の人の声。
私の目の前には…人では無い者。
本物の鬼。
大きな赤鬼が私を見下ろしていた。
「
何を言っているのか聞こえない……
喉が苦しくて…声が出ない…何も考えられない。
「……おい…何とか言ったらどうなんだ?」
鬼が…私を見つめている………
私…鬼に…食べられちゃうのかな…?
やだ…なぁ……。
「……死んだか…」
死ん…だ……?私…もう……死んじゃう…の…?
やだ……やだよ…………
「…おかぁさん……」
「!?」
「…もっと…美味しいご飯……食べたい……よ………。お米…お汁………さん……菜……ぃ……………死に…たく………なぃ……よ…」
事切れた。
小さな少女はその瞬間、その世界から旅立った。
と…思われたが……
「…チッ。」
その赤鬼は、土屑の様に崩れ去り、小柄な少年が中から姿を表す。
彼は手に持った金棒の持ち手の先端を握る。
すると、先端の輪っかがコルク栓の様にポンッ!と音を立て、抜けてしまった。
どうやら金棒には空洞があるようだ。
「これは…鬼の酒だ。飲めばたちまち病は治り……“鬼”になる。」
金棒を傾けると、その酒が中から流れ出てくる。
鬼は取り出した
彼女の口から流し込まれる酒は、血を洗い流し、彼女の全身に巡り渡る。
「てめぇは…今日から…俺の『家族』だ。好きなだけ暴れ…自身の思うがままにやってみろ…!!さぁ…見せてもらうぜ…?てめぇが…何を仕出かすか!!!」
鬼の笑いが夜空に響き、雨天は退き三日月が顔を出す。
鬼と呼ばれた少女はその日、本物と出会いその命を救われた。
しかし…その代償に――…
――――一人の少女は鬼となった―――――
続く
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