花と盃

くまだんご

一幕 鬼女

雨の日だった

私は母さんに棄てられた


「………」


身体中赤い斑点があって、顔色も悪い。

そんな姿を見た、周りの奴らは私を『鬼女』って呼んだ。


父さんは不倫して、不倫先の女に刺されて地獄に落ちた。


母さんだけは私の味方だった……けど…


………もう、どうでもいい…



棄てられてからは、捨てられたごみを拾って食べて。拾えないときは泥を食べる。

その繰り返し。


泥に食べ応えがほしいときは、泥団子にして食った。


女「なに…あれ…。虫が集ってる…!汚い…」

男「酷い姿だ。近づくなよ…虫憑く。」


通りかかった人達は皆、私を見て嫌悪感を抱く…

妖怪…醜悪…虫……醜い……異形………怪物…………鬼………………………


どれ程言われたか…。私は身体中も頭も痛いし、めまいもするって言うのに……誰も助けてはくれない。


「いてっ…」


血だ。最近、血が出やすくなった。


「ぺろ…。甘い……」


……………………

……………………


ごみは拾えなかったから、泥を食べることにした。

適当な茂みに入って、泥を掬う。


「あむっ…!……がむっ!!」


食べる。食べる。食べる。


腹が膨れたし、今日はここを寝床にしようと思う。

そんなとき……


「うっ……!おぇぇっ!ウェッ……」


吐いた。お腹が泥を受け付けない……苦しい。

今までにないぐらい辛い。地獄だと思った。だけど、地獄はこれだけじゃなかった…


「っ……!ゲホッ!ゲホッゲホッ!ゲホッ!!!オェェッ……」


口の中から血が出てきた……。びちゃびちゃと泥の上に落ちた。痛い…痛い…痛い…痛い…!


「……おかあさん………」


私の子供心は…母さんが迎えにくると……まだ思ってたんだろう………。


………………。

数時間がたった……のかな?頭が痛くて視界が悪くて…辛くて…何も……わからない…。

辛いけど…生きる為に私は口の中に泥を押し込む……試しに泥団子にしてみたけど…どうだろう…。


「ゥッ…おぇぇっ……!かはっ……。だめだぁ……」

変わらず、泥と血を吐き続ける。

泣きたい……楽になりたい………おかあさんに会いたい……………死にたくない…



バタッ…

…………………………………………………………………………………………………………………………………。



?「あぁ?人間臭いと思ったら……」

男の人の声がした…

「あ…ぇ……?」


?「“人間のガキ”じゃねぇか?」

長い角を持って巨大な体……手には金棒……

鬼だ。鬼が私を迎えに来た………


地獄に連れていかれちゃうの………かな……?

「…あ……っ………げほっげほっ!げほっ!」


声が……出せ………ない………っ


鬼「……あ?血ぃ吐いていてなに言ってんのかわかんねぇよ……。おいてめぇ?こんなとこで泥なんか食って何が楽しいんだよぉ?」


「ぁ……っ……………………」


世界が……ぼや…………けて……


「疱瘡神に祟られたガキなんぞ、旨くねぇからなぁ………壺にでも生けて部屋に飾るか…。……?おい、なんとか言ったらどうなんだ」


「………」


「……。死んだか…」


鬼は振り向いてそこを去ろうとしている。


死んだ……?……まだ、死にたくない…。何が楽しくて泥なんか食べなきゃ……っ…。

美味しいご飯が食べたい……お魚……お肉……………山菜……………お米……………………。


「…ぁ……」


「…っ!」


「…ぉかぁ……さん…………ごは……ん……食べたい……よ………」


事切れた


「…………。チッ…」


私が事切れたのを確認した鬼の体は、土の様に崩れた。

中から、小柄の少年が出てきた。

この子も鬼?


「その強欲な姿勢……気に入った。俺の家族にしてやるよ」


鬼は私の体を仰向けにして、腰から何か取り出した。

瓢箪……


ポンッ


「死んじまったが…まだ、遅くないぜ?…お前は“家族”と飯が食いたいんだろ?だったら、飲ませてやる……鬼の酒をな」


瓢箪から出てくる水は、私の口の中へ流れていく……


ゴクッ…ゴクッ……ゴクッ……


「………。痣もめまいも痛みも…こいつを飲めば、たちまち治る……まっ、お前次第だがな」


ゴクッ……ゴクッ………ゴクッ………



「……その病だって…治んだぜ…?だから、起きろよ」


―その日、私は鬼になった―

……………………………………………………………………………………………………………………………………。




          続く



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