第3の副市長

「ともかく、ここを去った市長が次にどこへ行ったか知らないか」


にゅうめんマンがたずねると田山田は答えた。


「家へ帰ると言っていた気がする」

「早いな。まだ昼過ぎだぞ」

「気が向いたら退庁時間までにまた市役所へ戻って来るだろう」

「まあいいや。それで、その市長の家がどこにあるか教えてもらえたら助かるんだけど」

「地下鉄の『市長邸前』駅を下りてすぐだ」

「分かりやすいな」


悪徳副市長ではあるが、にゅうめんマンは一応田山田に礼を言って去ろうとした。だが、田山田に呼び止められた。


「待て。市長のうちへ行ってどうするつもりだ」

「昨日市長が誘拐した女を助け出す」

「余計な事をするな。市長はそれを喜ばないだろう」

「そりゃそうだ。喜んでいれば世話はない」

「生意気な奴め。どうしても行くとなら、お前が市長の手を煩わせないよう、俺がここで始末してやるぞ」

「俺を始末するというなら、やってみればいい」

「口の達者なガキだ。後悔するなよ!」


田山田は服を脱ぎ捨ててふんどし一丁になり、ファイティングポーズをとった。対するにゅうめんマンは服を着たまま身構えた。


「ふんっ!」


田山田は素早くにゅうめんマンに近づいてパンチを放った。とてもいいパンチだが、にゅうめんマンによけられないほどのものではなかった。


「せいっ!はあっ!!」


田山田はすぐにもう1発のパンチを放ち、それもかわされると、すかさず回し蹴りを放った。それぞれ切れのある鋭い攻撃だったが、やはりにゅうめんマンには当たらなかった。


「ちょこちょこ動きおって。これでもくらえ!」


田山田は一気ににゅうめんマンの懐に踏み込んで素早いジャブを繰り出した。だが、にゅうめんマンはその拳を受け止め、反撃のミドルキックを放った。田山田は蹴りを食らってよろめき、尻もちをついた。


「どうした。その程度では俺は倒せないぜ」


余裕の表情で、にゅうめんマンは敵に言った。


「むむ……」


田山田はおもむろに立ち上がり、にゅうめんマンから距離をとって深呼吸をした。


「本当に強いな。驚いたよ」

「ふふふ。何度も攻撃して1発も当たらなかったのだから、もうそちらに勝ち目はないだろう。俺を引き止めることはあきらめたらどうだ。そちらが攻撃することをやめれば、俺も無理に戦うつもりはないぞ」

「何を言っている。勝負はここからだ。疲れるから、できればこの手は使いたくなかったが、こちらも本気を出さねばなるまい」

「何だ。何か奥の手があるのか」


田山田はまだ戦うつもりらしい。


《何をする気だろう》


激しい攻撃が飛んで切ることを予期してにゅうめんマンが身構えると、田山田は突然、大きな声で魔法の呪文を唱えた。田山田は、打撃もいける魔法中年だったのだ。


「エーシー アイサツ ポポポポポン!」


呪文を唱えるやいなや、田山田の肉体がひとしきりまぶしく光り輝いた。その光が収まったとき、田山田の体色はテカテカの緑色になっていた。


《何だこの魔法》


にゅうめんマンはめんくらった。――裸ふんどしで、テカテカで、緑色で、ひげ面のおっさんの姿が目に優しいと言ったらうそになる。

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