第24話 秘密の関係
屯平はまたいつもと変わらない、平凡な毎日を過ごしていた。
仕事へ行き何事もなくノルマをこなす。
同僚とはほとんど話さない。
陰口を言われてはいるのは分かっていた。
休憩は一人黙々とパンを食べながら、マッチングアプリとにらめっこ。
返信の来ないメールを送りまくっている。
数撃ち当たる作戦だ。
でもほとんど効果がなかった。
「 何で返信すら来ないんだよ。
写真が悪いのか? それとも内容なのか?
何度見ても分からん…… 。 」
屯平はイライラしながらも沢山メールを送っていた。
「 なぁにやってるんですかぁ? 」
いきなり麻理恵が目の前に現れた。
スマホに夢中になりすぎて警戒心を解いていた。
「 うわぁっ! びっくりした…… 。 」
屯平に唯一話しかけて来る女性。
いつも一人なのが心配で気に掛けて来る。
「 先輩って…… いつも何やってるんですか?
暇さえあればメールやってませんか? 」
麻理恵には婚活に必死になっている事を言っていない。
知ってるのは喫茶店のメンバーくらいだ。
「 俺にだって…… 友達くらい居る。 」
恥ずかしそうに目を見ずに話していた。
麻理恵は気になり画面を覗く。
メールの画面かと思っていたら、マッチングアプリらしき文字が見えた。
「 勝手に覗くなよ、プライバシーだ。 」
直ぐに隠してしまった。
やったことはなかったけど、恐らくマッチングアプリだと確信していた。
気にしているので追及はしなかった。
「 ごめんなさい、ってまたパン食べてる!
もっとたまには栄養ある物食べないと。 」
食生活の悪さを指摘されてしまう。
「 大丈夫…… サプリメント飲んでるから。 」
「 はぁ?? そんなんで良い訳ないじゃないですか。
ビタミンとかを摂取するなら、果物や野菜が一番なんです。
相変わらず適当なんですから。 」
屯平の体を気にしてくれていた。
口うるさく専門用語が沢山出てきている。
屯平はうなずいていても、絶対にやらないのが目に見えていた。
「 分かりました!
先輩がそう言う態度取るなら考えがあります。 」
少し話し方が荒くなり、屯平はビクッ! と反応してしまう。
「 あのぅ…… 何か悪い事言った? 」
「 何でもありません! それじゃまた。 」
何でもないと言いながらも、プンプンしながら帰って行ってしまう。
「 何だ…… あいつ。
本当会話って難しい…… 。 」
頭を傾げながらまたアプリを始める。
その日の夜…… 。
麻理恵は屯平のスマホの画面に映っていたアプリが気になっていた。
「 確か…… マッチングGOっだったかな。 」
試しに調べてアプリをダウンロードする。
直ぐに適当にプロフィールを書いて、直ぐに屯平を探す。
「 凄い量の男性…… どうやって探そうかな。
30代前半で…… そうだ!
更新頻度高い人っと。 」
沢山出て来ていたけど、本名ではやってないので見つけるのが難しい。
でも一番上に来ている人の写真を見てみる。
「 えっ! これ先輩じゃない。 」
帽子の子にアドバイスを貰い、少しだけオシャレをした屯平が直ぐに見つかる。
麻理恵はその一生懸命さを見て、直ぐに笑ってしまった。
「 って言うか…… 何であの先輩がこんなのやってるのかしら?
女性なんか興味無いみたいにしてるのに。 」
試しにメールを送ってみる。
内容は適当に興味がありメールをした、良ければお話しませんか?
他愛の無い内容だった。
「 さすがに相手見つかってるかな?
そう簡単には返って…… 。 」
と言ってる間に秒で返信がきた。
「 はやっ!! どんだけ暇してるの!? 」
麻理恵はびっくりしながらも、直ぐに返信を見てみる。
「 初めまして、申請ありがとうございます。
宜しくお願い致します。 」
直ぐに返信来たのでふざけているかと思ったが、内容を見ると全くその気配は感じない。
( 先輩は真剣に彼女を探してるのかな? )
麻理恵は正体を明かさずに、メールでのやり取りをして真意を調べようと思った。
屯平のアプリでの名前は、パンケーキ。
麻理恵の名前はモンブラン。
「 パンケーキさんはどうしてこのアプリを? 」
「 30になって友達も彼女も居ません。
一人で居るのが寂しくなってしまいまして。 」
その切実な理由を聞いて驚いてしまう。
それと同時に苛立ちもあった。
「 私は友達じゃないのかよ…… 。 」
麻理恵は友達だと思っていたので、少し寂しい気持ちになっていた。
「 そうなんですね…… 。
でも仲の良い後輩くらいいるんじゃないですか? 」
麻理恵はドキドキしながらメッセージを送る。
直ぐに返信が返ってきた。
ゆっくりと見てみる。
「 悩みを聞いてくれる俺とは正反対な、可愛くて優しくて強い意思の子が。
俺だけが友達だと思ってるのかも知れないですね。 」
スマホの画面を見て麻理恵は笑った。
「 私だって友達だと思ってるっての。
先輩以外の異性の人とは、お昼だって食べたことないんだから。 」
麻理恵は直接言われていないのに、メールでは素直な屯平の言葉が嬉しかった。
嬉しくなりそのまま長々とメールを続けた。
他愛のない話や趣味や休みの話。
今まではぐらかしてばかりいた質問を、全て聞いてしまった。
麻理恵はスマホを手に持ち満足そうに寝てしまう。
屯平は返信が止まってしまい、その後何時間かは起きて待っていた。
「 中々好感触だったな…… 。
多分寝てしまったと思うけど、返信が無いのは心配になってしまう。
にしても…… 良く見ると会話内容が質問に答えてるだけだな。 」
屯平は返信が無くて心配になり、今までのメール内容を振り返り反省していた。
話題や質問は全て麻理恵だったのが、何とも情けなくて嫌われても仕方ないとも思ってしまう。
「 かなり時間も経ったし…… 寝るか。 」
屯平は諦めて寝ることにした。
次の朝になると麻理恵は寝てしまった事に気づき、直ぐにスマホを確認する。
会話の途中で寝てしまって、屯平を困らせてしまったと思い、大きくタメ息をつく。
直ぐに返信をして仕事の支度をする。
屯平は寝坊していた。
「 うわぁーーっ、寝過ごした!
色々考えてたから寝にくくて。 」
寝癖も直せずに最低限の準備をして駅に向かった。
夏の暑さの中走ってきたので、汗だくで電車に何とか間に合った。
「 はぁはぁ…… 走るもんじゃないな。 」
息切れしながら当然座れる訳もなく、仕方がないので立ちながらスマホを見る。
麻理恵からの返信がきていた。
「 昨日は疲れて寝てしまいました。
本当にごめんなさい…… 。
お互い仕事頑張りましょう! 」
返信がきていて嬉しかった。
いつもは辛い満員電車。
誰かと繋がっている…… ただそれだけで屯平には、いつもよりも気分が癒されていた。
会社に着くと直ぐに麻理恵が現れた。
「 せんぱぁーーいっ、おはようです! 」
「 …… おはよ。 」
麻理恵は相変わらずの愛想悪い挨拶に、メールと現実の違いを思い知ってしまう 。
( メールではあんなに素直に話す癖に…… 。
いつもあんなに素直なら、直ぐに周りと打ち解けると思うのになぁ。 )
麻理恵は当然マッチングアプリの事は内緒にしていた。
言ったらあんなに素直に話さなくなってしまう。
そう思いあのアプリでの秘密の関係を持つ事にした。
「 先輩寝坊ですかぁ? 」
「 別に…… ちょっとだけ遅れただけだ。 」
ぶっきらぼうに返答して、自分の職場に向かおうとする。
すると後ろ髪が寝癖でピョンっと跳ねていた。
「 先輩…… ちょっと待って! 」
屯平が止まると麻理恵は屯平の髪に手を寄せる。
「 うわぁっ! なんだよ!? 」
「 ちょっと! 動かないで! 」
顔を近づけて寝癖に持っていたスプレーを吹き掛ける。
屯平は顔を赤くして目が泳いでしまう。
「 よし! これで大丈夫。
寝癖あると色々言われちゃうからね。 」
あっという間に直してくれて、ニッコリ笑いながら行ってしまった。
屯平の髪からは男性とは無縁の、良い匂いが漂ってきた。
「 最近の若い子は…… 良く分からん。 」
またゆっくりと仕事場に向かうのだった。
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