今と変わらん、抜群の美人やった

「神田橋さんはますますきれいになるなぁ」

 エビちゃんに続いて席にもんてきた東雲さんが、和のリフトの修了証を見ながら言うた。

「よー言うわ」

 和はほう言うて恥ずかしそうに笑うた。

「ほうや、東雲さんの写真も見せてくださいよ。なんかあるでしょ? 若い頃のやつ」

「もう僕が若ないような言い方なんが気になるなぁ」

「ほなけん、今より若い頃って意味やないスか! 年寄りなんて言ってないっしょ! もぉー!」

 和は東雲さんの横に立って、手のひらを上にして上下に振って催促した。

 残念ながら東雲さんも、和から見たら十分おっさんやけんなぁ。

「ほな一番写りがええやつにしようかな~」

「一番若いやつがええッス」

「はいはい」

 ほう言うて東雲さんが出してきたんは、やっぱりリフトの修了証やった。これは写真の書き換えがないけんな。

「これが18歳の僕」

「めっちゃかっこええ……」

 小さな写真を食い入るように見て、和がため息交じりにつぶやいた。

 18歳の東雲さんは今と同じく長い前髪をセンター分けにしとって、黒目がちな目でこっちを見とった。

 証明写真でこのかっこよさ、おかしいやろ。

「モテたっしょ?」

 写真から目を離さずに和が訊ねた。ほれは訊かんでもわかるだろ。

「僕は今でもモテるけんね」

 東雲さんは真顔で答えた。これは冗談やなくて、ホンマにモテるんよ。

 夜の街に二人で飲みに行ったら、若い女の子が声かけてきたりするもん。ほなけどほんなとき、東雲さんはいつも僕の手を握って「彼氏とデート中」って言うて追い払ってしまうんよな。僕に気を遣わんでもええのに。

「こう来たらエビちゃんの写真も見たいよなぁ?」

 僕が言うと、エビちゃんは引き出しから分厚いカードケースを取り出して、中身を広げた。

 エビちゃん、めっちゃようけ資格持っとんやな、がんばり屋さんなんやな。

「これが一番古くて写りがええ写真です、18歳のとき取りましたから」

「あぁ、危険物やな」

 僕はエビちゃんから危険物取扱者の免状を受け取って、リフトの修了証よりも一周り大きな写真を見た。

 髪は今より少し短いけど、やっぱりふんわりしとって、色白で、つり目やけど優しい目をしとった。

 口は小さあて、さくらんぼみたいな赤い唇をしとって、ほんの少しだけ口角が上がっとった。

 今と変わらん、抜群の美人やった。

「エビちゃんはやっぱりきれいやなぁ。学校でもモテたやろ?」

 僕が言うと、エビちゃんはなんとも言えん顔をした。

 まあこのルックスと性格でモテんっちゅうほうがおかしいわな。

「僕は、伊勢原さんみたいな人にやったらモテたいです……」

 エビちゃんはうつむいて、小さな声でほう言うた。

 あぁもう、かいらしなぁ。ほんなん言うてくれるんエビちゃんだけやって。

「おまえ、ホンマに伊勢原さんが好っきゃな! ええんスか東雲さん、このままやと愛しの伊勢原さんをエビに取られますよ!」

 茶化すように和が言うた。まったく、しょうもないことばっかり言うてからに。

「困るなぁ、伊勢原さんは僕のダーリンやのに。ねぇダーリン?」

 東雲さんはニヤニヤしながら僕をダーリン呼びした。東雲さんもこういうんに乗るんが好きなけんなぁ。

「いや怖すぎるけん」

 若干引き気味に僕が言うと、和とエビちゃんが楽しそうに笑うた。

 東雲さんは大げさにため息をついて僕を見よった。ほんな残念そうな顔せんといてほしいなぁ。

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