第8話

怪談を終え、《語り世》を閉じる。光が戻り、色と景色が帰ってきた。


「本当にいるかどうかは貴方次第、というところでしょうか。」


聴衆である2人。対象としていたヴィオレ嬢は全く動じず、怪談を始めた時と同じように椅子に座っていた。彼女の弱みを見つけるという狙いは失敗に終わったようだ。


一方で、私の後ろで壁にもたれかかっていたガイアは何かに怯えるように蹲っている。ふふ


私は白々しくも親切を装いつつ尋ねる


「ガイアさん、大丈夫ですか?」


「っ、いや、なんでもない。問題ない!」


ふむ、気が動転しているようですね


ヴィオレ嬢が心配するでも、情けなく思うでもなく、感情のこもっていない言葉をかける


「ガイア、顔色が悪いの。さっさと戻るといいの」


その言葉を聞き、ガイアは顔を苦々しげに歪めつつ、不確かな足取りで部屋を出る。


「ふむ、ガイアさんは想像力が豊かだったのでしょうね。あそこまで疲弊してしまうとは。あれだけ恐れていただけるのは怪談師冥利に尽きますね」


「それで、貴方を解放すればいいんだったの?だったらもう帰っていいの」


「ありがとうございます。それでは失礼します。」


まだまだ彼女を引き抜くには足りないものが多い。


そうして私はぴんくどっぐ組の根城を脱出することに成功した(手荷物は帰ってこなかった)。そこは案の定スラム街の中であったが、ぴんくどっぐ組の反感を買わないためか周囲に人の気配はない。しかし、表通りに向かって少し進めばゴロツキや浮浪者がそこらに居る。何度もすれ違いざまに肩がぶつかる。正直盗まれるものは今身につけている服ぐらいなのでスられはしないのだが。幸運にも襲いかかってくるものはおらず、スラム街を抜け出すことが出来た。


いい加減、ベッドで寝たいものだ

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