僕と同じ人

@kohmoh

第1話 僕のうまれた街

寒い公園のベンチで僕は今日も座っている。この街はとても寒い。冬が来たら外にいることなんて到底考えられない。みんなあったかそうなマグカップを抱えて、ガラスの向こうでけらけらと談笑している。


すごく恥ずかしいんだ。みんなが僕たちの行列をチラチラ見ているのがよくわかる。ここには僕のような見た目の人ばかりが並んでいるから、通りすがりの人もすぐに違和感を抱いてこちらを振り返る。


恥ずかしい。僕が僕の街に、僕の国にいたころ、僕のなにげない視線でこんな想いになった人がいたのだろうか。そんなことを今考えても仕方がない。お腹がすくだけだ。何も考えず、ただあと数分、宿の門が開くのを待とう。




きっと君たちは僕の話を聞いたら、なんて勇敢なと涙ながらに感銘してくれるのだろう。君は強いんだなあ、と感心してくれるはず。僕は君たちの懐の広さと文明の高度さを宣伝する道具となるのだろう。


誰かはきっとお金を恵んでくれるだろうね。僕は恥ずかしそうに、ありがたそうにその硬貨を受け取るんだ。本当はもう何も感じないのに。どうだっていいんだ。お腹がすいている。


お母さんには決して見せられない、こんな姿。ああ、ごめんね。でも僕は今でもお母さんが大好きだし、僕の国が大好きだ。最後にお母さんに会ったのは、あの日の前日、夕飯を食べたときだね。さようならも言えずにごめんね。今日も画面の向こうからしか挨拶をできない。




宿の門が開いたら順番に通される。僕は何もすることがなかったからもう二時間ほどここに並んでいた。おかげでそんなに待たずに中に入ることができた。あったかいな。受付の人は厚着をしていたけど、僕は今日初めてほっと息をつくことができた。


この宿はもともとビジネスホテルとして使われていたと聞いた。老朽化したため、こうして公営の宿として使われるようになった。毎晩変わる寝床。僕はホームレスと呼ばれるような暮らしをしているかもしれないが、それでも僕にとっては立派な安らぎを与えてくれる家なのだ。


いつも背負うリュックがボロボロになってきたが、どうすることもできない。どこかで拾ったのかもらったのかも覚えていないジャケットにも穴が開いている。これでしのぐには寒すぎる冬がこの街には待っている。


いつになったら終わるんだろうか。こんな生活、誰も望んで得るものではない。なのに、僕はなぜだかとても申し訳なくなって、体がこわばって、そんなに大きくもないベッドに余白ができる。


早く寝ないと、明日もまた朝の7時には追い出される。

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