第3話
「本当に犬カフェなんですか?」
「あぁ、犬カフェだ」
「はい、当店は【いぬカフェ】でございます。お着替えが済みましたら、どうぞ、ごゆっくりお楽しみください」
斎藤の当然の疑問に、井堤は自信満々で答えて、犬飼はニュアンスを含ませて回答する。
着替え? 犬の毛や匂いが付くからか?
案内されたロッカールームで、用意されていた半袖短パンに着替えた斎藤は、破裂寸前の不安と疑問を必死に打ち消した。ここまでくると、会員制の風俗だと考えるのが自然だった。
劣悪な環境で働く不幸な犬たちはいない。ここは恐らく、メス犬カフェなんだろう。
自分たちが進む先の向こう側では、犬耳をつけたホステスたちが笑顔で出迎えてくれるのだ。
――これだから、人間がキライだ。
だが、ここまで来ると諦めるしかない。
おごると言った上司が悪い。
自分は被害者だ。
ツラツラと言い訳を脳内で並べる斉藤は、犬飼が扉を開けた瞬間に目を見開いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「アオーン、アオーン、アオーン」
「きゅ……んっ、きゅっ」
「ぐおおおおん!!! うおおおおんっ!!!」
な、なんなんだ。
斎藤は愕然として、その場に固まる。
「お、良い反応だね」
と、井堤は斎藤の顔を見て、どこか得意げだ。
「犬カフェですよね?」
そこにカフェはある。
犬はいない。
……ただし、四つん這いになって唸りあったり、食器に顔を突っ込んで犬食いしている男たちがいる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「はい。当店は人間社会に疲れたお客様のために、犬という
コンセプトを説明する犬飼は、いつのまにか首に下げたホイッスルを口につける。
ピィーッ!!!
店内にホイッスルが鳴り響くと、犬になりきっていた男たちがピタッと動きを止めた。
静かになったと思った刹那。
――アオーンっ!!!
男たちが一斉に、天井に向かって雄叫びを上げる。
――アオーンっ!!!
――アオーンっ!!! アオーンっ!!!
――アオーンっ!!! アオーンっ!!! アオーンっ!!!
天井がビリビリと震えるような迫力だった。
男たちは腹の底から声を出し、喉をそらして魂を震わせ、言葉の必要ない生きる
「う、わっ」
あまりにも衝撃的な光景に、斎藤は腰が抜け、思わずその場にへたり込んでしまった。
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