第1話 宇喜多 綾乃

 私の名前は宇喜多うきた 綾乃あやの

田舎の高校に通っている。通っていると言ってもあと一ヶ月で卒業だ。私は正直早く卒業してこの地から離れたい。今、同級生は皆あと一ヶ月で卒業だ、さみしいなどと友達ごっこをしている。五月蝿い。とても醜い。美しくない。反吐が出る。

「はぁ…」

白い息を吐き、そんなことを考え、学校に向かう。

 「おはよー!あやちゃん!」

ドンッと背中を叩かれ、元気過ぎる声が聞こえる。彼女は私の友人の山下やました みなみ

「おはよう。南。今日も朝から元気ね。」

南は五月蝿いほどに元気だが、そこまで嫌いじゃない。私と南のタイプは真逆で、どうしてここまで仲良くなれたのか不思議だ。

「だって、今日、ママが弁当に唐揚げを入れてくれたんだよ!まじで嬉しくてさ!」

南は、幸せそうな笑みを浮かべ、軽くスキップをしている。とてもいい子で一緒にいると幸せになるな、としみじみ思う。

「ほんと南は、お母さんの作る唐揚げ好きだよね。」

「あったりまえじゃん!ママの作る唐揚げが一番だから!」

ドヤ顔で人差し指を立てる。とても可愛らしい。

 たわいの無い話をしているといつの間にか学校に着いていた。今日も仲良しごっこを目の前で繰り広げられるんだろうな。

「はぁ…」

「ちょっと、あやちゃん!ため息は幸せを…」

「逃がすんでしょ?分かってるって。」

言葉を遮られたのが不服なのか、南はむぅっと頬を膨らませる。

「南、上靴は?」

上靴を履き終え、南の方を向くとずっと下駄箱の向かい合っている。

「あー!そうだ、私昨日持って帰って忘れちゃったんだ!」

「ふふ、南ったらドジなんだから。ははは!」

「ちょっとー、笑わないでよ!ほら、行くよ!」

二人で四階に行き、各々の教室に向かう。

「じゃ、また帰りね!ちゃんと待っててよー!」

「うん。分かってるって。」

 扉を開け、いつも通り自分の席に座る。聞きたくもないクラスメイトの雑談が耳に入ってくる。


「昨日のドラマ観た?まじで玲央くんかっこよくなかった?」

「分かる!あの顎クイは殺人級でしょ!」

「なぁなぁ!今日俺らとカラオケ行こうぜ!」

「はぁ?お前らと一緒とかまじで無理だわ。」

「まぁまぁ、あと一ヶ月だしさ!」

「うーん…分かったよ。行こ!」


五月蝿い。私の前で友達ごっこを繰り広げるな。私は周りの音を遮断するためイヤホンをしようとする。

「ねぇ、綾乃さん!綾乃さんも一緒にカラオケ行かない?」

一番嫌な事態が起きた。私を巻き込むな。お前らだけで友達ごっこをやっておけ。と思いながら、笑みを浮かべ、

「ごめん。先約いるから行けないや。」

「そっかー、残念。また今度一緒に行こうね!」

行きたくない。そう言いたかったが、心の内に留めておいた。イヤホンをつけ、音楽を流し、外の景色を眺める。やはり、風景は美しい。

 いつも通り授業が始まり、終わりを繰り返し、弁当の時間になった。青春漫画のように屋上でなんてことは無い。屋上への扉は厳重にロックされ、入れないようになっている。教室も群れないと生きて行けない人間達でいっぱいだ。だから私はいつも誰も近寄らない旧校舎の保健室で食べている。ふかふかのソファーもあって、よく日光が当たる。なかなかの穴場だ。そこは私と南しか使っていない。私はそこに行く前にトイレに寄った。個室に入っていると、外から

「はぁ、昨日彼氏と別れたんだよねー。まじ病む。死にたい。」

「大丈夫だって、凛ならもっといい人がいるって!」

この声の持ち主は長谷川はせがわ りんとその相方の西野にしの ゆきだろう。この人たちは確か南と同じクラスだったな。私には関係ないが。あ、南が待ってる。早く行かないと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る