第2話 

 僕はつかさ大輔だいすけ。高校2年生だ。先日、母親が突然倒れて、救急車で運ばれた。僕は突然のことに頭が真っ白になり、付き添いで一緒に乗った救急車の中では何も頭が回らず、救急隊員の人とも会話がまともにできなかった。


 父親は僕が中学2年生の頃、バイクに乗っていた父親がトラックにハネられて死んだ。父親のことが大好きだった僕は父親の死をしばらく受け入れられず、一週間学校にいけなかった。

 父親の葬式では、周りの参列者が僕に視線を向けて、「可哀想だ」とかいう声が遠くから、でもハッキリと聞こえてきた。耳を塞ぎたいと思った。同情するのなら父親を返してほしいと思った。でもそんなこと言っても母親に迷惑をかけるだけで、父親は帰ってこないということがわかっていたから、声を荒げるなんてできなくて、出てきそうになった言葉を必死に飲み込むと、代わりに涙が溢れた。目に溜まった涙で視界が歪んでいくのが怖くて、ぎゅっと目をつぶった。


 そんな父親のことがあるから、今回母親が倒れて、そのままいなくなってしまうのではないかという不安に駆られたのだ。

 僕は一人っ子で父親が亡くなってからは母親と二人暮らしだった。だから、母親がいなくなってしまえば、僕は一人残されてしまう。最悪な想定ばかりをしてしまう。

 僕の精神状態が良くなかったからなのか、お母様の検査が終わるまでは病室の外で待っていてください。と看護師に言われ、言われるがままに病室の外で座っていた。すごく長い時間、座っていたように感じた。僕の鼓膜に響いてくるのは、毎秒5度ずつ回転しながら回る、時計の秒針の音のみだった。

 それからどれくらい経ったのかも分からなくなっていた頃、病室から医師と数名の看護師が出てきて、医師が僕に母親のことを説明してくれた。


つかさ美代子みよこさんの結果が出ました。お母様は不整脈で倒れられました。」

「母親は死ぬんですか?」

「いいえ、心配なさらないでください。治療すれば治すことができますよ。」


 安堵した僕は、なにかがぷつんと切れたように大号泣した。病室に行ってみると、母親は僕に心配をかけないようにというように、微笑んでくれていた。


 母親は不整脈の中でも心房細動というもので、場合によっては脳梗塞や心不全を起こすことがあるため、手術を受けることとなった。母親が受ける、カテーテルアブレーションという手術で、心房細動の患者は70%〜80%は治るらしい。


 母親が退院するまで、僕は生活を一人で行わなければいけなくなった。料理、洗濯、掃除などの家事全般、勉強まで。全てを完璧にこなすことができるとは思っていなかったけど、退院した母親の負担を少しでも減らしたくて、頑張った。実際一人で過ごしたのは一週間ほどだが、この一週間で母親がいつもどれだけ大変なのかを痛感させられて、とても長く感じた。僕はもともと体が強い方ではなかったので、母親の手術の1日前、ついに僕は学校で倒れた。


 倒れた僕は、病院に運ばれた。倒れた原因は睡眠不足だったようで、点滴を打って、しばらく睡眠をとれば帰らせてもらえると言われた。


 点滴のために僕のシャツをめくった看護師は、僕の腕に複数ついた、腕のミミズ腫れを見て、一瞬固まった後、ごまかすように小さく咳払いをして、手慣れた様子で僕の腕に針を刺した。

 その後、その看護師が医師に伝達したようで、僕は体が回復すると、精神科へと連れて行かれた。そこで診察を行い、結果はうつ病と診断された。

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