ダンジョン狂いのリアラ『TS物語』
空海加奈
彼女の始まり
第1話 物事は唐突に
目が覚めたら、湖の傍で倒れていた。そこでふと思ったのは知らない天井だ、とかではなく知らない夜空だったので一応形式美?的なことなので言わなければいけないだろう。
「知らない空だ…ん?」
脳内に響くのは知らない声、本来の自分は低音とはいかないまでももう少し声が低かったはず。
両腕は…動く。手のひらを目で見てみると、そこには自分の手ではない小さな手が見える。
こんなに小さな手をしていただろうか?なんて疑問は体をよっこいせと起き上がらせてみるとはっきりと断言できることとして。こんな体をしていなかったしこんな服装をしていなかったといえる。
チュニック?長めの裾をしてるボロボロの血がこびりついてる服。そこから延びる足は綺麗な足が見える。
靴は…残念ながら壊れ気味?元々こういうタイプの靴と言われれば納得できるけど穴だらけの靴を履いている。
「あー。あー」
自分では脳内に響く非常に違和感のある声だが、どうなのだろうそういうものなのかな?
そういえば近くに湖があったなと思い、こういう時は定番ともいえる水の反射で顔を見てみようじゃないかと立ち上がろうと思ったが何度か転んでしまった。
どうにも体の違和感のせいで動かすのがとても難しい?味わったことのない感覚だ。
仕方ないので四つん這いで湖に近づいて見てみると、三つ?ある月のおかげで暗さに困ることなく自分の顔が反射される。
夜ということもあってそこまで自信はないけど恐らく黒目ではないことだけが分かる瞳の色を確認できる。
ふむ。これは可愛い、可愛いがしかし自分はロリコンではない…!と誰に言い訳するでもなく言うのだが、我?ながら可愛い。
髪の毛は長いから横髪を手で持ち見てみるとクリーム色な綺麗な髪だった。指の間に挟むと細い髪はするり流れ落ちる。
いやはや困った…
湖の水があるから水には困らないと思いたいけど、こういう時は水を気軽に飲んでは駄目だった気がする…どういう理由だったか忘れたけど。
煮沸させるにしてもそんな知識は持ってないし。そもそもここから民家とか人のいる場所はあるのか?とか色々疑問が尽きない。
とりあえず月が三つある時点でここが地球なのかもわからないし…異世界と言われたら納得でき…いやできないな。
そもそも自分は死ぬようなことはなかったし、平穏に生活していたはずなのに急にこんな状況なのだ。
喉はまだ乾いてないし、元気なうちに移動して人のいるところを探すべきだろうと思って立ち上がろうとすると違和感のせいで転んだ。
「あー…忘れてた…りはびり…必要かなぁ」
四苦八苦しながら近くにある木まで近づいて木を使って立ち上がる練習をして何とか一歩二歩と歩いてみると、すぐに慣れたのか歩けるようになった。慣れたと言えるのか、体が自然と歩き方を思い出したかのように違和感は微妙に残った状態で歩ける。
走るのはまだ無理かもしれないけど、これなら多少はなんとかなるだろう。
周りは森だらけ人の手が入った様子はないからこの湖にまた戻ってこれるか不安になるが、何もしないままだとそれこそ危険な気がする。
「よし」
そうして一応真っすぐ歩くように心がけ一歩目を進み歩いていく。
10分?1時間?いや、木から零れる月明かり的に6時間とかは歩いてないのは確実だけど、それでも風景があまりにも変わらない森をひたすらに歩いてると不安がせりあがってくる。
歩くスペースが遅いせいもあるのかも?と思いつつ。しかし走るにしても、小走りしようとしただけでまた転びそうになったから、歩くのとは違って走るのは少し難しそうだったから歩くことをとりあえず慣れさせてからと気合を入れて進む…その気合が消えそうなのだけど…
ただ歩いてるだけというのも味気ないし、少しは気を紛らわしたいと思ってこの世界のことについて考える。
やっぱりポピュラー?なのはゴブリンとかスライムだよな。
それにオークとかオーガとか?異世界だと魔法なんて言うのももしかしたら使えるかもしれない、呪文とか知らないけど…
あれ?今思ったら自分は異世界だとしたらこの世界?の言語とか知らない、いやそもそも英語とか話されても自分には分からない!
国で言語違うとかになったらさらに大変だし、何かの物語でこういう時って何かしらすごいことが出来て何とかなるんじゃないだろうか。
まぁ、何とかなるのだったらそもそも歩くのにこんなに苦労してないのだけど…。
これは人に会うという行為は危険もあるかもしれないなぁ。とは言っても自活できる能力なんてないし…いや、待てよ、こういう時ってそもそも現代知識が役に立つとかじゃないのだろうか?
Q何か物づくりできますか?
A何もありません…。
Q機械に詳しいですか?
AスマホとかPCは触ってましたが自作とか全然できません!
カンカンカン!と脳内で敗北の音が流れた気がした…。
とはいえそれでも何かこういう時の知識を思い出そうとするのは悪いことではないはず…はず…。
そういえば喋るのも違和感あるのだし独り言を呟くようにしてみようかな?寂しさや不安も紛れるかもしれないし!
歩き続けても、何もない!いや…木はあるのだけど、生き物の気配もないし何もない。というかもはや戻ろうと思って戻れないんじゃないだろうかと思う。
「ここはあえて戦闘になった時のことを考えてみよう。」
まずゴブリンが現れます。
殴ります。
殴り返されて負けます。
「まてまてまて、もしかしてこの状況すごいやばいのでは?いや元の場所にいても解決にはならないし…いやでも水はあるし…むぅ…」
ほかのパターンも考えてみよう。
スライムが現れます。
殴ります。
吸収されます。
「まてまてまて!そもそもスライムって雑魚扱いされてるけど打撃が効かないんじゃなかったっけ…?それ以前に武器持ってない時点で反撃されるし…」
もしかしたらなんて考えたら仕方ないけど悪いことばかり浮かんでしまう…
人が現れます。
話しかけます。
言葉が通じず、売り飛ばされるとか…もしかしたらこの体は女の子だし相手が男だったらそんなこともあるかもしれない!?
「まてま…はぁ…疲れた。」
体力は何故かまだ余裕があるけど、精神的にはだいぶ疲れた。
というか今更思ったけど、最初に歩くの慣れずに大変だったのは置いといても結構な時間歩いてるのに体は疲労がたまってる様子はない、この体の持ち主がもしかしたら結構な筋肉ついてたのかな?
パッと見ても細い足に、フニフニの腕、そんな体力を持ってるようには見えない。
まぁ、棚からなんとか、不幸中のなんとかってやつだ。むしろそこで頓挫してたらもうとっくに湖に戻って餓死するルートしかなかっただろう。
―ーーォォオン
「…」
嫌な声だ。鳴き声と言ったほうがいいのか。狼か犬、犬ならまだましか。恐らく狼だろう遠吠えが聞こえた
狼となれば足は速いし、スライムとかゴブリンとか想像してた自分を張り倒したいくらいの勢いで頭が冷静になってくる。
とりあえず木の上に登ったほうがいいだろうか?いや待てよ、それ以前にこの体で木登りなんてできるだろうか?まして地球にいた頃なんて木登りした記憶が無い。
それなら急いで移動するほうがまだ利口なんじゃないだろうか。
思ったより焦ってたのか小走りになっていて転びながら起き上がり出来る限りまっすぐ歩いていく。
遠吠えが聞こえた方角は正直に言って分からない、だけど分からないからと言って右や左、後ろに戻るなんてことをしてもここまで歩いてきたのに意味がないだろう。
そもそも選択肢なんて限られてるんだから真っすぐ進むしかない。
「はぁ…はぁ…」
息が上がってる…体が疲れてるのか?いや体力はやっぱりあり余ってるってくらいちゃんと体は動く、精神的疲労だこれは。
足がもつれそうになりながらもできる限りの速さを保とうとして小走りに慣れようとしてるから息が上がってるのだろう。
―ーーォォオオオン
まただ、また遠吠えが聞こえる。
まだそんなに離れてないのか、というより森だから響いてるのか、距離感が掴めない遠吠えは一気に心に冷や水を浴びせられた気分になる。
とにかく歩いて、歩いて、歩いて…。
死の危険が迫ってるからなのか…どこか冷静になってる自分が自分のような何かが問いかけてくる気がする。
『このまま進んでどうするんだ?』
決まってる、生きるに決まってるのだ。
『言葉が通じるかもわからない人間を探して?』
そんなの分からない、たとえそうだとしても覚えればいい
『人間だとしても殺されるかもしれないのに?』
あぁ、本当は現実逃避して考えてなかったことをどんどんと突き付けてくる…
『狼に、いや狼だけではない猪でも熊でもいるかもしれない。』
『月が三つある異世界だから魔物がいるかも以前に動物にすら殺されるかもしれないのに?』
『救いなんてあると思ってるのか?』
あぁぁ…壊れてしまいそうだ。恐怖が、たった遠吠えが聞こえただけでどんどん考えが黒く染まっていく。
―ガサ
むしろ壊れていたほうがよかったかもしれない、なんて思った。
横を見れば『いつから』いたのか分からない自分と同じくらいのサイズの狼が3匹見える。
周りには茂みなんてないし、小さな草が生い茂ってるくらいだ。
それでも―
それでも尚、近づいたことすら気づけなかったその姿に頬を伝う生ぬるい感触の汗。
「はは…」
乾いた笑みしか自分には残せない、涙が溢れて顎までしたたる生ぬるい感触は垂れ落ちる。
―グルルゥ
死ぬのかな。なんて思って、腰が抜けて座り込んでしまう。
嫌だ。嫌だ。やだ。やだよ…
「…けて、助けて!!」
狼からしたら私の姿が座り込んだ時点で獲物と認識したのか、二匹が私の横を囲みつつ残った一匹がゆっくり近づいてくる。
「なんで!やだよ!くるなよ!まだ…まだなにもしてないんだ!生きてよかったって思ったことなにもないんだよ!それなのになんでこんな目に合わなきゃいけないんだよ」
狼に伝わるはずなんてない、口元から涎を垂らして、捕食対象にしか見られてない。
「冷静になれるわけない!なんでこんなときにも考えて、だってそれしかできないから。たすけて。やだやだよ。いやだよ」
それでも、死の間際だからだろうか。ゆっくりと見える。狼が噛みつこうと…飛びかかろうと足に力を込めて、そして飛んでくるところが。
「たす―「助けるよ」けて!」
飛びかかってきたはずの狼が真っ二つに切り裂かれた。
「ぁぇ…?」
そこには、鎧?金属ではない鎧を肩や肘などに付けている男が。おそらくその手に持ってる武骨なロングソード?のようなもので狼を切ったと思う後ろ姿があった。
―ガゥガゥ!
ほかの狼が仲間を切り殺されたのを見て怒ってるのか二匹同時に男に飛びかかっていく。
そしてさっきと同じ、目に見えないような速度で残り二匹の狼は首だけが飛ばされ屠られていく。
「大丈夫か?生きてよかったって…思えることしたいんだろ?」
そう、優しい声を自分に向けて青年がこちらを見てくる。見た目的にまだ若そうな人だなって思うのと。言葉が通じるのと。さっきの目に見えないような速度で狼を切った姿を思うのと色々な感情が混ざって…
「あぃ…ありがどぉぉぉ」
言えることはこれくらいしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます