第7話

 市営プールは、そこそこの込み具合だった。三十人はいるだろう。水に体をつける。ひんやりとして心地よかった。

 ゲイの友達に「ダイエットするならプールが一番だよ」とアドバイスされたので、一週間連続で通っている。

 二十五メートルプールを、クロールで何往復もした。ガチで泳ぐのは中学以来かもしれない。

 四十分ひたすら泳ぎ、さすがに苦しくなってきた頃、自宅でのことを思い返した。


 ▼


「最近、頑張りすぎじゃないか?」


 昼食の時だ。サヨリが、肉を切り分けながら言った。最近は、別々の料理を食べることが増えてきている。わたしの前にはサラダしかなかった。


「え、そうかなぁ……」

「あれだけ好きだったアイスを食べなくなったし、夜更かししてドラマを観ることもなくなっただろ」

「不健康だからねー。美容の敵だよ」

「それはわかるんだが……」


 息を吐き出す。何かを吹っ切るように笑みを浮かべた。


「そうだ。今日二人で水族館に行かないか? 暇なんだよ」

「……あー、ごめん。午後は予定あるんだ」


 サヨリは冷めた顔をした。


「どうせプールだろ」

「プールの後にもいろいろあるんだよ」

「そうか」


 サヨリは残りのご飯をかき込むと、席を立った。不機嫌そうな顔で茶碗を洗い始める。

 なんだよぉ、とむくれる。そっちだって、わたしの誘いを断ってばかりじゃないか。

 鮮度の高い野菜を口に入れ、もそもそとする。ドレッシングは体に悪いと聞いたので、掛けていなかった。


 友達の何人かから、「璃子、変わったよね」と言われている。わたしは胸を張り、「まあね」と自慢した。お洒落を見直し、ミココの動画を観て恋愛術を学び、自己鍛錬に励んでいる。実際、ここ一週間で体重が三キロ落ちた。以前のような奇行に走るという現実逃避とは違う。自分はいい方向に変われていると思った。

 このまま頑張れば、サヨリに振り向いてもらえるかもしれない。水面に浮上していくサヨリを、呼び止められるかもしれない。


 サヨリは皿を洗い終え、わたしの前に佇んだ。


「何か、あたしに隠してることはないか?」


 責めるような目で言われ、身体が硬直する。


「え、ないけど……」

「そうか。それならいい。でも、何か、言いたいことがあるなら言ってくれよ」


 恋人なんだからな、と口にする。

 わたしは言葉を失った。

 サヨリがそれを言うのか。腹の底から、得体のしれない感情が、あふれそうになる。ぐっと抑え込み、視線を逸らした。


「疑われるのは心外だな~。何を疑っているのか知らないけど」


 ネイルを施した自分の爪を見ながら呟く。

 サヨリは肩を竦めた。話すことが面倒になったのかもしれない。自分の部屋に戻っていくのを見届けてから、わたしは溜息をついた。

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