灰色の記憶

雨の日の灰色

空も灰色

川も灰色


上海市を西と東に分かつ100キロの大河

その幅広い黄浦江こうほこうに架かる橋は

ほの明るい川面に黒い影を落としている

街灯が白く点々と灯った橋を渡る人の影も黒い


この橋を渡って向こう岸に着いたとしても

灰色に沈んだ樹木の先に原色は見当たらない



沿岸の建物群にはたくさんの窓

その窓々の奥には人が住んでいるのだろう

とはいえ

想像力をいくら駆使してみても

人の気配を思い描くことができないのは

この灰色のせいなのだろうか


そんな景色を鳥の視点で眺めていると

記憶の中の謎めいた扉が少しずつ

開いてゆくようにも感じる


だから今夜もまた

文庫本の写真を眺める


夢の中で

向こう側へ

行ってみたいから


陰鬱で寂しい景色が

なぜ懐かしいのか

見つけたいから


そこはいにしえの上海


https://kakuyomu.jp/users/rubylince/news/16818093085286798669


▶以前投稿した「古の上海」を部分的にリライトしました。

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